ルートⅢ 北山 千夜の手⑨
漫画やアニメが好き。
最近では世間に浸透してきた二次元要素だけど、一昔前だとそうでもなかった。
漫画やアニメが好きだと言えば笑われたり、下に見られたり。
まあ、こちらとしても興味の無い相手にどう思われようと気にしないし、逆に気にせず仲良くしてくれる人にはこっちから話しかけていく。
だから我と団長は出会えた。
「団長、我参上だ!」
「副団長か、今日は遅かったな」
我の団長にしてこの世に二人しかいない我の盟友。
団長は毎回こうして我の『設定』に付き合ってくれる。
設定とは、我と団長はチーム『
ちなみに名前の由来は団長の名前の『
漢字辞典と英語辞典は我らの必需品だ。
「ふっ、昨晩の相手が手強くてな」
「いつも言ってるけど早く寝ようね」
昨日は見たいアニメがあったから少し遅くまで起きていたから寝坊してしまった。
幼稚園児に夜十時のアニメは遅すぎる。
「録画とかしないの?」
「だって一番に見たいから」
「面白かった?」
「うん! えっとね──」
「感想はいいよ。また感想だけで時間使うの嫌だから」
反省。
前に団長へ好きなアニメの感想を話したらいつの間にか帰る時間になっていたことがある。
どうやら我は好きなことを話すと時間を忘れるらしい。
「そういえば今日はくーちゃん一緒じゃないの?」
「なんか副団長と俺がくきちゃんのこと一人にするから怒ってた」
またもや反省。
我にとって団長とくーちゃんは大切な盟友なのに、我は団長と話すのが楽しくてくーちゃんをいつも一人にさせていた。
我も悪いけど、一番悪いのは団長なのを団長は知らない。
「くきちゃんって俺が女の子と話すと今日みたいに不機嫌になることあるんだけど、まさか副団長も駄目なんて」
「うん、団長が全部悪いね」
くーちゃんは団長のことが好きなんだと思う。
だから他の女の子が団長と話してるのが嫌。
解決する方法は分かってる。
我が団長に真実を言えばいい。
我は女の子だと。
「団長って女の子好き?」
「そういうことを言う副団長が嫌い」
「じゃあ、我が団長に秘密にしてることを話したら嫌いになる?」
「ならないじゃない? 副団長は俺の唯一の男友達なんだから」
だから聞いたんだけどね。
我が団長達と会う時の格好は、帽子を被って男の子の洋服を着ている。
だから団長が我を男の子と勘違いするのは仕方ないことで、我もそれを知ってて言わないでいる。
話して関係がおかしくなるのが嫌だから。
「こういう時は──」
我はポケットに入れていた笛ラムネを取り出す。
なぜそんなものを持ってるかと言うと、特に意味は無い。
別に団長へ言いたくても言えないことを言う時に使う為に常備してるわけない。
「相変わらず鳴らないね」
「……」
「そんな睨まなくても」
我は笛ラムネが鳴らない。
我は別に笛ラムネが鳴らしたくて常備してるわけじゃなくて、団長に言えない気持ちをぶつけてるだけだからいいんだし。
「そんな悲しそうな顔しないでよ」
「……してないし」
笛ラムネをモグモグして団長から顔を逸らす。
「……」
「なんか急に元気無くなった?」
「別にそんなことないよ。ただちょっと思い出したくなかったことを思い出しちゃっただけ」
「昨日のアニメで悲しいところでもあったの?」
そういうわけでもないけど、団長を心配させたくないからそういうことにした。
我が本当は女子だということなんて今思い出したことに比べたら些細なことで、多分どちらも団長には言った方がいい。
いや、良かったって言うべきなのかな。
我は結局言えなかった。
我は何も言わずに団長の前から居なくなった。
小学校に上がるタイミングで我はここを引っ越すことになっていた。
我、と言うか家族も一緒なんだけど。
理由は単純で、我がいじめに遭っていたから。
今の時代では『オタク』というのは世間に馴染んできてるけど、昔は違う。
アニメが好きと言えば指を刺され、全てを否定されていた。
例えそれが園児だとしても。
子供向けアニメを好きと言うなら別に普通……でも無いのかな。
とにかく我は団長とくーちゃんの前以外で笑顔を失ていた。
だから両親が違う学区に引っ越しを考えた。
我を気にしてのことだっていうのは分かっている。
だけど我はたとえいじめられていたとしても団長とくーちゃんと離れたくはなかった。
でも、両親の気持ちも分かるから我は二人と離れることを決めた。
何も言わずに居なくなったら怒るかな。それとも我のことなんてすぐに忘れて二人で仲良くするのかな。
……
忘れられるのは嫌だった。
何も言わずに居なくなった我に確認の術は無かったから真実は分からない。
団長は我とのことだけではなく小さい頃の記憶をほとんど無くしていたみたいだし。
理由は聞いた。
そしてそれに関して触れないで欲しいとも言われた。
我としてもあの頃の我を思い出されて男子扱いされるのも困るから変なことはしないけど。
だからって女の子女の子させるのは違うと思うだよね。
それはそれとして。
もう二度と会わないと思ってた中学の同級生と会ったのは誤算だった。
我がまたこっちの高校を受けたのは団長に会いたかったのが一番の理由だけど、それ以外にも、幼稚園の時と同じ理由もある。
団長の言っていた通り、我は中二病を演じている。
なぜかと言われたら、吹っ切れたから。
中学生の時、ものもらいが出来た。
だから眼帯をして中学に行ったわけなんだけど、クラスの隅で大人しくしてる女子がいきなり眼帯なんてしてきたら、目立ちたがり屋の男子が騒ぐのは当然だ。
我みたいな地味なやつをターゲットなしたってその場だけの盛り上がりなのに何がしたかったのか。
でもそれもそれで癪だから我はそれから毎日眼帯を付けて学校に行ってやった。
話しかけられても全て無視して、ずっと一人を貫いていたら、我は中二病ということにされていた。
そういうキャラだと認知されれば我に構うやつなんていなくなり、小声で陰口を言われるだけに済んだ。
高校は団長のいるこの町で受けるのを決めていたから中学で何を言われようと興味なかったし。
そして我は高校で団長を見つけたから吹っ切った。
目立って目立って目立って、団長に気づいてもらおうと。
「その結果が気づいてもらえずに告白したわけですな」
「よし、とりあえずうちの可愛い千夜をいじめてたやつら全員教えて」
「そんな興味ない人達をわざわざ覚えてるわけないじゃん。それとナチュラルに可愛い言うなし」
「もっと熱情的に言えばいい? 千夜は世界一可愛いよ」
我が馬鹿だった。
団長は我に『可愛い』と言って我の反応を見て遊んでるだけなのに。
「じゃあとりあえず卒アルでも見ようか」
「本気で探そうとしてるな? ちなみに見せないぞ」
「ロリ千夜見れないの?」
「ロリコン」
「千夜限定な」
ほんとこの男はああ言ったらこう言うだ。
嬉しくてニヤけるのを抑えるのに必死な我も我だけど。
「とにかく、ほんとに昔のことはいいの。我は今幸せだから」
「それならいいけど。でも一つ気になること聞いていい?」
「なに?」
「さすがに幼稚園の時の話は妄想全振りだよな? 話し方が園児じゃない」
何を言っているのか。
我は天才児だからあの歳で大人顔負けの喋りが出来ても不思議じゃない。
むしろそれについてきてた団長がおかしいのだ。
……いや、そりゃ少しは脚色してるけど。
「気にしたら負けってことで」
「負けた俺は罰ゲームでもする?」
「よしきた。じゃあ今から二十四時間ぶっ通しでアニメ鑑賞会やろうか」
「千夜と一緒ならご褒美になるが?」
「それは遠回しに嫌がってるのか?」
「俺の抱き枕になってな?」
そうして我は無事に捕まり、団長の足の中に座らされて本当に二十四時間アニメを見続けた。
ちなみに何を見たかなんて覚えてるわけないさ!
とにかく何が言いたいかと言うと、我は今幸せです。
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