ルートⅣ 中山 新凪の手②

 緩やかに流れる雲。


 特に何もやることがない時は窓の外の雲を眺めるようにしている。


 理由はない。


 そう、いつもなら理由はない。


 だけど最近は理由ができた。


 それは……


「せーんぱいっ、来ちゃった♪」


「……別に毎時間の休み時間に来なくていいんだよ?」


 俺が雲を眺める理由。


 それはおそらく心の安寧の為。


 いや、別に中山なかやまさんが時間ができる度に俺のところに来るのがめんどくさいとかじゃない。


 シンプルに今までずっと一人で過ごしていた時間が、常に誰かと、しかもマシンガントークの子と一緒なのは呆気にとられると言うかなんと言うか。


「先輩もにいなに会いたいでしょ?」


「そだな」


 俺は中山さんに対して特に苦手意識なんかはない。


 だから会いに来てくれることに対して「嫌だ」とかは無いんだけど「毎回大変じゃないか」とは思う。


 それと苦手意識は無いけど、さすがに毎日会いに来てくれるとめんどくさいこともある。


「毎回言ってるんだけどさ、もう少し大人しく入ってこれないの?」


「なんで?」


「視線がうざ……痛い」


 さすがに聞こえる声でクラスのやつらに「うざい」なんて言ったら余計にめんどくさいことになるのが分かってるからオブラートに包んだ。


 俺偉い。


「先輩って友達いないよね」


「何を今更」


「でも今はにいながいるから毎日幸せだよねー」


 幸せとは一体なんなのだろうか。


 確かに中山さんと付き合う? 前に比べたら人と会話をする回数も時間も増えたから人間味が増したかもだけど、それを人は『幸せ』と言うのだろうか。


「だよねー」


「分かったから顔を近づけるな」


「はじゅかちい?」


「そりゃ」


 中山 新凪にいなは美少女である。


 幼さと言うのかあどけなさと言うのかは分からないけど、『可愛い』を体で表していると言っても過言ではない。


 正確に言うなら『可愛い』を装備しているだが。


「先輩は素直さんだなー」


「そこは照れるのが正解じゃないか?」


「それじゃ普通の可愛い女の子なの。先輩をいじって遊んでたけどいきなり反撃されて嬉し恥ずかしくなるんだけど、それを顔には出さないの。だけど最終的に耐えられなくなって一人になったところでニヤけちゃう」


「それでそのいじってたやつに見つかると」


 確かにそれは可愛いかもしれない。


 それに『中山 新凪』っぽい。


「でも説明したら意味ないな」


「説明ってなーに? あっ、そろそろ授業始まっちゃうから教室戻るね。にいなと会えなくて寂しいと思うけどバイバイ」


 中山さんはそう言って手を振りながら教室を出て行った。


 確かにもう少しでチャイムが鳴るからそろそろ戻らないといけない。


 だけど今日で確信したことがある。


「ま、本人が隠したそうにしてるんだから言う必要ないか」


 中山さんが俺のところに来るようになって毎回気になることがあった。


 そしてそれを遠回しに聞こうとすると中山さんは今みたいに自分の教室に帰ろうとする。


 人間誰しも触れられたくないことはある。


 だから俺はこれ以上触れようとするのはやめるけど、いつか話してもらえたら嬉しいかもしれない。


 今はそれよりも、明日の中山さんお宅訪問について考えないといけない。


 なんとなく。


 これはなんとなくだけど、中山さんと妹の光留みるは相性が悪そうな気がしてならない。


 もしもの時は……逃げられるかな。


 そんなことを考えながら授業を受け、次の休み時間もやって来た中山さんと話しました。

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