ルートⅢ 北山 千夜の手⑤

 光留みるに言われるがままに始まった北山きたやまさんとのデート(お出かけ)。


 光留に何か助言? を貰ったのか分からないけど、今は北山さんの目指す場所へ向かっている。


 まあ、ここら辺には特に何も無いからだいたい行き先の見当はつくけど。


「初デートはお買い物ですか?」


「あんまりデート言うなし。どうせ分かってると思うから言うけど、妹君いもうとぎみが女子の買い物に付き合える男かどうかを見ないといけないって」


 この先にあるものはここら辺では一番大きいショッピングモール。


 そういう場所での女の子の買い物は基本的に長く、その間待ちぼうけになる男からしたら暇で耐えられなくて「思ってたのと違う」を発動すると。


「でも正直団長にそういう心配ないんだよね」


「その心は?」


「団長って相手が楽しんでやってることを絶対に否定しないじゃん? ノリがいいって言うのがいいのかな? 上手く言えないけど、簡単に言うなら団長は優しいから」


 北山さんがチラッと俺の方を見てすぐに顔を逸らす。


 恥ずかしいなら言わなければいいのに律儀な子だ。


 なんだか俺まで恥ずかしくなってくる。


「ていうか、興味の無い相手じゃないなら適当に相手するの違くない?」


「だからそういうところ」


「分からないからいいや」


 人によって優しいの基準が違う時点で俺と北山さんは分かり合えない関係だ。


 きっとこういう時にはすり合わせみたいのが必要なのかもだけど、正直どうでもいいと思ってる俺がいるから別にいい。


 北山さんが俺を嫌わないでいてくれるなら。


「つまりこれが恋心か」


「いきなりそういうこと言うのはマイナス」


「愛してるよ、千夜ちや


「だまっしバカが!」


 顔を赤く染めた北山さんからみぞおちに逆水平チョップをいただいた。


 ちょっととてつもなく痛い。


「い、慰謝料としてお前を貰う……」


「冗談言えるなら平気だ。ほら行くぞ」


「強がってるだけだと気づけ。あー、痛くて動けないなー。仕事中の怪我は労災が職場から出るんだから人災の場合は加害者が責任取って欲しいなー」


 俺はそう言って北山さんに左手を差し出す。


「……いくら出せと?」


「さっき言ったじゃん。お前が欲しい」


 北山さんの顔が真っ赤になって爆発した。


 こういうところが可愛い。


「そ、それって、その……そういう──」


「割と真面目に痛かったから手を引いてもらおうかと思ったけど痛み引いてきたからいいや」


 そう言って俺は立ち上がり北山さんの隣に立つ。


 ここで手を繋げないことに落ち込んだら抱きしめたくなる可愛さに襲われるんだけど、さすがに耐性が付いたのか北山さんが冷静になるのが早かった。


「俺が悪かったから二度目はやめて」


「団長を守るのが我の仕事だからな。団長が怪我をしたら肩でもなんでも貸すさ」


「その怪我を作ってるのが味方からの不意打ちなのはどうなの?」


「ナンバーツーの裏切りなんてよくあることだろう? まあ大抵は味方の為に身を切ってるだけで、最後には味方に戻るか味方に倒されるのがオチだけど」


 敵を欺くなら見方から、というやつだ。


 確かに最後に戻ってきてくれたらハッピーエンドだけど、味方に倒されるオチは誰も報われない。


「俺は北山さんを失いたくないよ」


「それは団長の対応次第さ。あんまり我をからかって遊んでると我だって裏切りたくなる時もある」


「俺は別にからかって遊んでるわけじゃない」


「その心は?」


「本気で可愛い北山さんを見て楽しんでるだけだ」


 またも味方からの裏切りに遭った俺は、今度こそ味方に戻ってきてくれることを信じて左手を差し出した。


 だけど副団長は無視して歩いて行ってしまった。


 このままいじけたフリをして座り込んでいたら北山さんは優しいから戻ってきてくれるだろう。


 けどめんどくさいから北山さんの隣に駆け寄り、ナチュラルに北山さんの手を握った。


 北山さんはまたも爆発したけど、振りほどかず(俺が離さなかった)に諦めたので、そのまま二人で歩いてデート先へ向かいました。

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