ルートⅢ 北山 千夜の手④

 デート。


 それは恋人関係にある男女が一緒に出かけることを言う。


 片思い中の相手と出かけることも勝手にデートと言う人もいるが、要するに友達以上の関係な男女が一緒に出かけたらデートになると言える。


 つまり告白されてそれを受け入れた俺と北山きたやまさんは少なくとも友達以上な関係と言えるのではないだろうか。


 そして今日は光留みるに言われて一緒に出かけることになっている。


 光留いわくデートらしいけど、やっぱりまずは俺と北山さんの関係性を話し合うところから──


「……お待たせしました」


「……別に待ってないから大丈夫です」


 なんかお互いにぎこちない。


 理由はなんとなく分かってる。


 まず、光留が『デート』とか言うせいでお互いに緊張している。


 それと……


「俺が今から何を言ってもセクハラとか言わない?」


「言わないけど、内容によっては妹君いもうとぎみに言うかも?」


「俺が一番困る方法よく分かってるじゃん。今日はいつも以上に可愛いって言おうとしたけどそういうことなら黙っとく」


「言ってんの!」


 怒られた。


 今日の北山さんはいつもと雰囲気が違う。


 まだ仲良くなってから日が経ってないからそんなに北山さんのことは知らないけど、なんとなく普段着は黒でかっこいい系の服を着てるものだと思っていた。


 だけど今日の北山さんは白い。


 肌は元から白いんだけど、まさか現実で白のワンピースを見るとは思わなかった。


 長袖タイプのワンピースだから本当に白い。


 一部を除いて。


「眼帯だけ黒いんだね」


「死守した」


「なるほど。光留コーディネートか」


 北山さんと光留がどういう関係なのか知らないけど、人見知りの光留が二人きりで話せるぐらいに二人は仲がいい。


 今日のデートも光留が決めたことだし、服装以外にも北山さんに色々と言っているのだろう。


「似合わないのは知ってる。我は闇に暮らす住人だからな」


「その闇を作るには光が必要だから、その光が北山さんってことだね」


「そういう恥ずかしいことを真顔で言うのやめなさいね? 我は結構メンタルくそ雑魚だから普通に恥ずかしい」


 そんなことを言う北山さんの頬はもちろん赤い。


 こういう反応をするから俺が調子に乗ることをそろそろ理解しないものだろうか。


 理解されたら俺としては困るけど。


「団長はさ、実際のところどうなんだ?」


「何が?」


「いや、あれだよ。そのさ……我のこと……」


 北山さんがどんどん俯いて可愛いつむじが右往左往する。


「好きかどうかって話?」


「……うん」


「好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだよ。そうじゃなかったらあの時に手なんてとらなかったし」


 俺が北山さんに告白をされてその手を取った時。


 俺がなんで北山さんを選んで手を取ったのかは今も分からない。


 何かを感じたのは確かだけど、その『何か』が何かよく分かっていない。


「今は北山さんのことを少しだけ知って、普通に可愛い子ってのが分かったから余計に好印象ではあるけど」


「か、可愛い言うなし!」


 その上目遣いが可愛いとなぜに気づかない。


「逆に聞きたいんだけど、北山さんは……そもそも俺をほんとに好きなんだよね?」


 北山さんと光留に接点があるんだから俺とも絶対にあるはずだ。


 だからその時に俺を好きになってくれた可能性はあるけど、正直北山さんのような可愛い子に好かれる要素が俺にはない。


 なのでこういうことを言うと駄目なのは分かっているが、五人からの告白を信じきれていない俺がいる。


「そうだな。団長は前世の記憶が無いようだから我がいくら……好意を示したところで信じられないだろうな」


「好きとか言うの恥ずかしいの?」


「うるさい! とにかくだ、我は団長に告白をしたことに後悔してないし、それに嘘はない。今日ので……お出かけも我が本気だと分かってもらう為のもの……らしい?」


 今日はどうやら全て光留の手のひらの上で動かないといけないようだ。


 光留が何を知ってて何をさせたいのかは知らないけど、俺としても北山さんとはこれからも仲良くしていきたいと思うから別にいいのかもしれない。


 それに、光留の手のひらなら上で踊っていたい。


「つまり今日は北山さんが俺に魅力をアピールしてくれるってことね」


「ちが……くはないのかもしれないかもだけど、口に出すなし」


 北山さんが拗ねたように俺を横目で睨みつける。


 これからもこういう顔を見たいから今日は俺も頑張る。


 そうして始まる、俺と北山さんの初デートが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る