ルートⅠ 真中 玖喜の手⑦

 全ての道はローマに通じるのなら、俺にとってのローマは光留みるであり、最終的に俺は光留の居る場所へと着くことになる。


 そしてよく、馬鹿の子ほど可愛いと、可愛い子ほど旅をさせろを組み合わせてローマにはばかが集まるみたいなことを言ったりする人がいる。


 つまり馬鹿な俺が光留の元に向かうように光留には変な男が集まるのではないだろうか……


「だんだん分かるようになりました。今絶対に光留ちゃんのこと考えてますね?」


「少し違う。俺は常に光留のことを考えている」


 休日の今日、いつもなら家で可愛い光留を観察しているのだけど、俺は外にいる。


 しかも隣には真中まなかさん。


 真中さんのご要望通りにデート中だ。


松原まつはらくんが光留ちゃんを大切にしてるのは知ってますけど、さすがに僕の前で光留ちゃんのことだけを考えられると嫌です……」


「分かってはいるんだよ。でも光留を一時でも忘れることは出来ない。特に今みたく家で光留が一人で留守番してるのが、怖い……」


 光留は中学生だけど俺なんかよりもちゃんとしてるから家の中に居る分には心配はないだろうけど、それも俺の願望に過ぎない。


 もしも何かの用で外に出たり、宅配のフリをして不審者が家に入り込んだりしたら……


「光留まで居なくなったら俺は……」


「僕が考え足らずでした。安心できるかは分からないですけど、今日はお母さんがお仕事お休みなので何かあればお母さんがなんとかしてくれます」


「うん」


 完全に心配が無くなったかと言われればそうでは無いけど、真中さんのお母さんが居るのなら少しは安心だ。


 問題は光留が大人を頼れるかというのと、家出とか言って着替えやら何やらを取りに逐一帰っていた真中さんは家出する必要があるのか。


 その帰った時に今日のことも話したんだろうし。


「よし、せっかくのデートなんだから今日だけは真中さんだけを考える」


「それは嬉しいんですけど、今日『だけ』なんですか?」


「もしかしたらまたなるかもね」


「つまり今日、松原くんを僕だけしか考えられないようにちょうきょ……楽しませればいいんですね」


 なんだか不穏な言葉が聞こえたような気がするけど、胸の前で両手をグーにして意気込む真中さんが可愛らしいから聞こえなかったことにする。


「それでどこに行くの?」


「それは、ここです」


 真中さんはそう言うと、俺達の家から一番近い公園で足を止めた。


 小さい頃に何回か来たことがあったような気がするけど、懐かしい。


「たまに前を通ることはあるけど、殺風景になったよね」


「そうですね。昔はブランコとかあったんですけど、ほとんど撤去されましたね」


 子供の為に作られて設置されている遊具は子供には危ないからと言って撤去される。


 本当に意味の分からない話だ。


 子供は外で遊べなんて言う大人はいるけど、その遊ぶものを子供から奪って、挙句にはうるさいだの言い出す始末。


 実際、この公園に小さい子の姿は無く、俺達と同い年ぐらいの女の子が居て、ちょうど帰って行った。


「要するに俺達みたいにインドア派が今のトレンドで正解なんでしょ?」


「紫外線に当たらなければ老化も防げるらしいですからね」


「別に長生きしたいわけではないけどね。長く生きたところでお金かかるだけだし」


「それなら、僕と……」


「意味深に言葉止めるんじゃないよ。真中さんの役目は俺が長生きしたいって思うようにすることでしょ?」


 長生きしたいわけではなくても、すぐに人生を終わらせたいわけではない。


 それとなく満足した人生を送ってから俺は生涯を終えたい。


 自分勝手だけど、その『それとなく満足』を真中さんが『充実した』に変えてくれるかもしれない。


「松原くんを幸せにします」


「ありがと。俺も真中さんを幸せにできるように頑張るよ」


「嬉しいです。でもそれにはまず僕を知ってもらって、それから松原くんを知ってもらう必要がありますよね」


「真中さんは分かるけど、俺も?」


 俺は真中さんのことを全然知らないから真中さんを教えてもらうのは分かる。


 だけど真中さんから俺のことを教えてもらうとはどういうことなのか。


「全てを知った上で、松原くんが僕を好きだったら……」


「だったら?」


「僕のお願いを一つ聞いてもらってもいいですか?」


「別に今言ってもらっても聞くよ?」


「それじゃあ多分意味が無いんです。駄目ですか?」


「そういうことならいいよ」


 よく分からないけど、真中さんの表情は真剣そのものなので茶化すところでもない。


 真中さんのことだから変なお願いもしないだろうし、拒絶する理由もない。


 そうして俺が聞く姿勢を作ると、真中さんが深呼吸をしてから話し出す。


 小さい頃にこの公園で遊んでいた三人の子供達について。

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