ルートⅠ 真中 玖喜の手⑥
実家のような安心感とは、実家に居るような安心感を得られるということだったろうか。
じゃあ、実家に居るのに心が安らかでは無い場合はどうなるのか。
例えば、俺の隣でとてつもなく可愛らしい寝顔を見せる同級生兼幼なじみ兼付き合って一週間経ってない彼女が居たりしたら。
「なんで毎回俺のベッドで寝てんだよ……」
一応言い訳をしておくけど、
だけど真中さんがうちに来てから毎朝俺のベッドに居る。
「光留さん疲れ溜まってんのかな。労いの意味を込めてマッサージでもしようかな。他意は無い」
「ほんとにですか?」
「あれ以来また光留が俺との触れ合いが無くなって寂しいなんて思ってるけど、他意は無い。それと俺のベッドに勝手に入るのやめなさい」
光留が俺に触れてくれたのは真中さんの家に行った時。
光留が帰った後、真中さんが俺の腕を引いてきたので真中さんのお母さんに謝ったが「悪いのは私だから」と、悲しそうに笑っていた。
それから真中さんはずっとうちで暮らしていて、うちから学校に通っている。
「そろそろ帰んなくて平気なの?」
「
「ベッドに勝手に潜り込まれるのは嫌かな」
今はまだいいけど、初めて真中さんが隣で寝てることに気づいた時は色んな意味で心臓が止まりそうになった。
真中さんの寝顔は心臓に悪すぎる。
「じゃあ起きてる時に許可取ればいいですか?」
「それは光留が駄目って言うんじゃない?」
「それなら光留ちゃんも一緒に」
「絶対に同意はしないと思うけど聞くだけならタダだよね」
光留が最後に俺と一緒に寝てくれたのはいつだったろうか。
……全然思い出せないぐらいには昔か。
「悲しそうな松原くん……可愛い」
「なんて?」
「なんでもないですよ。それよりも今日は初デートの日ですね」
「真中さんに一つ言いたいことがあるんだよね」
「なんですか?」
「君は報連相を覚えようね」
俺のベッドに勝手に潜り込んだり、いきなり同棲(家出)をしたりと、真中さんはいきなりすぎる。
俺はデートをするなんて話を聞いてない。
「嫌、ですか……?」
「男がそうやって可愛い顔すれば全員肯定すると思わない方がいいよ」
「松原くんに可愛いって言ってもらえた」
「男がそうやって可愛い反応すればなんでも言うこと聞いてくれるとか思わない方がいいよ」
「なんだかんだ言っても松原くんは優しいから行ってくれるんですよね」
「休日は光留と長い時間一緒に過ごせるんだから普通に嫌だよ?」
一般的に彼女という存在は男にとって、他の何にも変えられない存在なんだろう。
だけど俺の中ではまだ光留が一番だから真中さんを優先できない。
最終的には違う結果になるような気がするけど。
「僕を舐めないで欲し……いです」
「今の間については聞かないでおくけど、何かあるの?」
「光留ちゃんには事前に松原くんとデートする時間を貰ってます」
「俺じゃなくて先に光留に言うとか、俺の扱いに慣れてきてない?」
俺の優先順位は光留が一番で、それが変わることは今のところ無い。
だから光留が許せば俺は何でも受け入れる。
光留を一人にするのは嫌だけど、俺だってそろそろ妹立ちをしないといけないのかも……
「考えただけで泣きそ」
「ぼ、僕の胸で泣きますか? 貧相に見えますけど着痩せするタイプなので」
「恥ずかしいからいい。その時がきたら有無を言わさずに借りるかもだけど」
俺が最後に泣いたのはいつだったかな。
感情が薄いから泣くことも全然なく、思い出せない。
もしも光留に彼氏でも出来たら俺は泣くのだろうか、それとも怒るのだろうか。
考えたらほんとに泣きそうになるからやめた。
「まあ、後で光留に確認は取るけど、今日はデートするということで」
「嬉しいです」
「どこか行きたい場所とかあるの?」
「はい。お金はあんまり使わないので安心してください」
それは助かる。
まだお金には余裕があるけど、散財できるほどの余裕は無い。
せっかくのデートだからもしも出す場面があったら全て出すけど、出来ることならその場面が少ない方が嬉しい。
「それじゃあまずは一緒にお風呂に入るところから──」
「そこまでは許してない!」
真中さんの冗談に反応して、怒った光留が俺の部屋に入ってきた。
おそらく真中さんが変なことを言ったり、したりしないかを部屋の前で聞いていたのだろう。
ほんとに兄想いのいい子だ。
真中さんはすごい不服そうな顔をしてるけど、冗談に反応するなら俺のベッドに入るのをまず止めて欲しかったです。
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