第33話

「これ以上、ごねるのであれば、貴様たちを、辺境伯領主誘拐で、衛兵に引き渡すぞ。」

「分かったよ、ゴランダ王国のブレスト辺境伯と領主様市場のブルター店店主またのご利用お待ちして居ます。」

「あいつ、我々の名前をバラしやがって、辺境伯様早く船に乗せてしまいましょう。」

「ああ、何処で誰に見られて居るか分らん。直ぐに出発するぞ。」


 馬車のまま船に乗せられると、馬は馬車から外され、少し離れた場所に繋がれた。

 馬車本体は船に固定されたが、僕は、馬車の中にそのまま放置されていた。 

 先程手下達が縄を緩めてくれて居たので、手足の縄や、猿ぐつわを外すのも楽だった。


 僕は先ず食事をし、その後馬車の鍵を開け、馬達に食事を食べさせた。

 馬1,馬2と名前を付けると、馬達は色々話し出したが、馬達が騒いでると思ったのか、船員が入って来る音が聞こえたので、僕は慌てて馬車に帰り、鍵を掛けた。

その時船が動き出したのが分かった。


 船員は馬達を撫ぜて落ち着かせると、此方の馬車の前に来て、鍵の確認をした後、中を覗き込み、僕を確認すると、船室に戻って行った、

 船が出航してどれ位経ったのだろう?

 もう、海原には出たのだろうか?



 良く解らないんだが、恐らく一時間位経ったような気がするんだけど、何処まで連れて行くつもりなんだろう。

 そう思って居ると、誰かが話しながら、こちらに来ていることに気が付いた。船員ではないようだ。

 そこに現れたのは、港で見たゴランダ王国のブレスト辺境伯と市場のブルター店店主だった。


「やあグレン君、いや、ファステール辺境伯、君は中々良い領地を持って居るそうじゃないか、このブルター君に聞いたよ。どうだい、私にそのノウハウを僕にも教えて貰えないだろうか?」

「お断りいたします。それより、お二人はどう言うご関係なのでしょうか?」

「そんな事、どうでもいいだろう。それよりも、ブレスト辺境伯様の気が変わらない内に、言われた通りにした方が、貴様の身のためだと思うぞ。」


「それでは、ブルターさんは、もう僕の領地の領民ではないんだね。」

「は⁉ そうだよ、おれが、お前みたいな若造の領民な訳ないだろう。」

「ブルター君、それは少し言い過ぎだ、だが、ファステール辺境伯の言う通り、このブルター君は、我が領地の民である。元々このブルター君の曾祖母は我がブレスト辺境伯家の曽祖父の第三夫人だったのですよ。その子供が私の祖父なのです。分かりましたか?」

「はい、良く解りました。我が領地の民をだます、馬鹿な民で無くなった事も。」

「何を、きさま―。殺してやるー‼」

「落ち着きなさい、ブルター君それでは、もう一度先程の質問に戻りますが、ファステール辺境伯、貴方が領地で行った改革を、我がブレスト辺境伯領地でもやって貰えるだろうか?」

「お断りさせて頂きます。」

「此れでもですか?」と、ブレスト辺境伯は微笑みながら、拳銃? みたいな物を僕に向けて来た。

「それでも、お断りします。」


 その時、突然船の中が騒がしくなった。船員が上に下に走り回っている。

「何が有ったんですか。」とブレスト辺境伯とブルターさんが慌てて船上に向かって走って行ってしまった。


 甲板では、大砲?の砲弾が発射された様で、船の大きな振れと音がしている。

 只、不思議な事に馬達は騒いでいない、一般的に馬は臆病な生き物と言われているから、こんな音がしたら、かなり騒ぐはずなのに、全然落ち着いている。

 どうしたんだろう。馬達に聞いて見ようか。そう思って馬車から抜け出そうとしたとき、船の丸窓から、人? が上から落ちて来たのが見えた。

 その内、騒いでいた船員の声が少なくなり、砲弾の音も船員が騒ぐ音も聞こえなくなった。


 どうしたんだろう? と思って居ると、急に船が大きく揺れた。と思ったら、船が宙に浮いたような気がした。

 気になったので、馬車の鍵を開け抜け出すと、先程人が落ちて行った灯り取りの船の丸窓から外を覗いて見た。此れって、やっぱり船が空を飛んでいない?    「いや、いや、いや、船は空を飛ばないよね。船は海の上を進む物だ。 ゲームの世界では別だけど。」

 仕方が無いので、暫く様子を見る事にしていると、今度は船が海に漂っている感じがしたので、又馬車を抜け出して丸窓を覗いたら、今度はちゃんと海の上に浮かんでいた、ただ、遠くの空にドラゴンさんが、飛んで行くのが見えた。


 その時、外がまた騒がしくなった。少なくなって居るが、船員たちが又騒ぎ出したようだが、戦って居る様子ではない。

 気になって仕方が無いが、船の中だ、隠れても直ぐに見つかるだろう。

 暫く待ってみよう。

 それに、馬達を置いて行く選択は僕には無い。

 

 誰かが来る気配がしたので、慌てて馬車の中に戻った。

 恐らく、ブレスト辺境伯とブルターさんが、側近と一緒に、又協力を迫る為に来たのだろう。と思って居たのだが、今目の前に入って来たのは、知らない人とデイトス様とコランさんにケリー君だった。


「え…⁉ 皆さんお揃いで、何が有ったんですか?」


「何が有ったんですか?じゃないですよ。みんながどれだけ心配したか、分かって居るんですか~~?」と、目に一杯の涙を溜めてケリー君が飛び着いて来た。

「ゴメン、でも、ありがとう。」と、ケリー君の背中を撫ぜながら、みんなを見ると、デイトス様とコランさんも目に涙を溜めて、良かった、ほんとに無事で良かった。と、互いに両手で握り合っていた。


 ケリー君が漸く落ち着き、離れてくれたので、僕は改めて、皆さんの方を向き 「この度は、自分の不注意から、皆様に多大なご心配と、ご迷惑をおかけした事、心よりお詫び申し上げます。」と頭を深々と下げた。

「それと、申し訳ありません。こちらのお方は、どなたなのでしょうか?」

 すると、デイトス公爵様が答えてくれた。

「此方は、我がギルドラ王国の、港町リグーリア辺境伯領を収めるケルト・リグーリア辺境伯です。」

「初めまして、ケルト・リグーリアです。お見知りおきを。」

「こちらこそ、初めまして、グレン・ファステールと申します。宜しくお願い致します。それと、この度はかなり、ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした。」

 と、頭を下げると、ケルト様が片手を差し出されたので、僕も片手を出し、固い握手を交わした。

「それより、我が領民は、グレンさんのお陰で、伝説のドラゴンを、いち早く見る事が出来ました。領民に代わって、お礼を申し上げます。」

「いや、大騒ぎになりませんでしたか?」

「それはもう、天地がひっくり返る位の大騒ぎですよ。でも、ドラゴンは創造の神ですから。領民はみな喜んで居るのです。ご心配はなさらないで下さい。」

「ありがとうございます。」


 その後、デイトス様と、コランさんに、ご心配をおかけしたお詫びとお礼を伝え、固い握手を交わし、船上に出た。

 船上に出てビックリした、欄干や、デッキには多くの鳥達と小さな動物達が無数に乗り込み溢れかえっていた。みんなにも心配をさせたんだな。これも反省だ。

「みんな心配掛けてゴメン。それとありがとう。」と動物達に向けてお礼を伝えた。


 この様子を初めて見た、ケルト・リグーリア辺境伯は大変驚きながらも、デイトス様と、コランさん達が平静で居たので、それを見習ったのか、取り乱す事なく、笑って居たが、顔は引きつったままだった。

「では、下船しましょう。」とケルト様が引きつった笑顔のまま告げて来た。

「はい、では宜しくお願い致します。」

 と、ケルト様、デイトス様に続き下船した。 

 その先に、両手を縛られたまま衛兵に見張られ、空から、無数の烏と鷲たちに睨まれたブレスト辺境伯とブルターさんが居た。

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転生して祝福の力を持つテイマーとして生きていきたいと思います @yamatosumi

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