第32話

         ♢ ♢


 いつもの様に忙しい毎日が過ぎて行った。そんなある日、商店街に用事があり、一人で出かけた僕は、用事を済ますと、帰り道を急いでいた。其処に物陰から突然飛び出した少年とぶつかりそうになった。

 慌てて少年を避けようとしたことで、体勢を崩してしまい、思いっきり背中と、頭を壁にぶつけてしまった。

 暫く頭がふらつき動けないで居ると、二人の男性が僕の両腕を持ち、

「大丈夫ですか?お支えしましょう。」と、声を掛けられながら、抱え上げられ、そのまま馬車に押し込められてしまった。


 何処に連れて行かれているのかも分からなかったが、めまいで身体が思うように動かないのだからどうしょうも無かった。そしてそのめまいを起こして居る間に両手と両 脚を縛られ、さるぐつわを噛まされた。

 暫く、街道を走っていた馬車は、トンネルの中に入って行った。

 馬車で此の石畳の街道を走って居ると、わりと良い乗り心地だった。みんな本当にいい仕事するね。

 でも、此のトンネル、そんなに簡単に出られたっけ?

 いや、馬を休ませず、同じ速度で走り続けても丸一日以上かかる筈、前の世界の車なら早いだろうが、馬車だからね、馬の事を考えたら、二日から三日は欲しいよね。

この人達はどうするんだろう?

 そう心配して居ると、馬車は休憩所に入って行った。

 馬を休ませるんだ、良かった。

 此処までも結構走らせて居たから、そろそろ休ませないと、馬が潰れてしまう。

 馬は水を飲み、ゆっくり草を食んでいた、その間、彼等も交代で、僕を見張りながら、馬車の外に出て、休憩を取っていた。

 この様に数回の休憩を取りながら、トンネルを進んで行った。彼等は食事の準備をしていたらしく、休憩所で食事をしていた。その時、僕にもパンをちぎって口の中に放り込んでくれた。その時は猿ぐつわを外してくれていたんで、聞く事にした。

「所で、僕は何処に連れて行かれるんですか?」

「領主様は、何処に行くか知らない方がいいぜ。」

「そうですか、それでは、誰に頼まれて僕を此処まで連れて来ているんですか?」

「ああ、それぐらいなら教えても構わないだろう。だが、教えるのは、この国を出てからになるが。」

「分かりました。」


 その後も馬を休ませながら、トンネルを無事通過した。が、此方側は、道の整備はしているが、石畳が無いせいか、馬車のガタガタが凄く、猿ぐつわを噛まされて居なかったら、舌を噛んでいたかも知れまかった。

「トンネルを抜けただけで、道がこんなに酷く変わるものなのか?」と、彼等は道の悪さに耐えながら馬車に乗っていた。


 しばらく走った所に、小川が流れていた。

「よし、此処で一旦休憩だ。」と、リーダー格の男が馬を止め、休憩させた。

「お前も出な。」と馬車から出してくれた。

「大声を出すんじゃないぞ。逃げ出しても無駄だからな。」と、言って両手両足を縛ったロープと猿ぐつわを外してくれた。

 僕は、大きく伸びをすると、小川に入って行き、ゆっくり水を飲んでいる馬達を撫でて上げた。勿論、疲れも一緒に癒してあげた。

 馬達は少し驚いたように、此方を見て居たが、またゆっくり水を飲み始めた。


「それじゃぁ、出発する。馬車に乗るんだ。」と僕は又、両手両足を縛られ、猿ぐつわを噛まされた。暫く行くと、結構大きな町に着いた。

「ここで、俺達の食料を調達するぞ。」

「えー、兄貴、今夜も野宿ですか?」

「当たり前だ、此奴が逃げたら、報酬が無くなるんだ。依頼人に、こいつを渡すまで、見張っておくに決まっているだろうが。」

「そうだった。依頼人は港に居るんでしたっけ。」

「まったく、お前達はどうしてそう、口が軽いんだ。さっさと市場に行って、食料品を買って来い」

「分かったよ、俺達二人で行って来るよ。」と、手下達は市場に走って行ってしまった。

 食料品を抱えて帰って来た奴等は、馬車に乗り込むと、そのままこの町を後にした。

 

 暫く道成りに進むと、左手に道を逸れ、小川の横に出た、

「それじゃぁ、今夜は此処で野宿だ。」と、馬車を停めると、水汲みと火起こしを手下がナチュラルにこなし、此のリーダーが馬達に水を飲ませていた。

 僕は、馬車の中に残されていたが、リーダーが手足の縄をほどいた後、猿ぐつわを外しながら、「分かっているだろうが、逃げたら何処までも追いかけて殺すからな。」と言った。


 僕は、大きく伸びをした後、馬達の元に向かい、水を掛けて洗いながら、癒やして置いた。

 そして馬達の水浴びが住むと、川から上げ、木に繋いでおいた。

「おい、おまえ馬の扱いに慣れているようだが、飼った事が有るのか?」

「そうですね、以前は馬の世話係みたいな事をしていましたから。」

「ふ~~ん。それで、お前が馬達が近づいても警戒しないんだな。それより、飯だ食え。」

「ありがとうございます。」

「それより、お前等、明日は早立ちだ、早めに寝て置けよ。」

「分かりました。」

 僕は馬車の中にそのまま放り込まれ鍵を掛けられたが、手足は縛られて居ないので、ゆっくりと寝る事が出来た。


 その頃、領地では、僕が居なくなり帰って来ない事で、ようやく大騒ぎになり始めていた。


 翌朝早朝、まだ暗い内に馬車は走り出した。

「此の馬車は何処に向かって居るんですか?」

「「そんな事、乗って居れば分かる。」」

「はい、そうなんですね。では、どなたの依頼で、僕は此処に囚われて居るんでしょうか?」

「そんな事、行けば分かる。黙って乗って居ろ。」

 馬車は時々休みながら、6~7時間は走ったと思うが、

 遠く山の向こうに、港町が見えて来た。


 街道は下り坂になると、スピードが出過ぎない様に、リーダーが手綱をさばきながら、どんどん、山を下って行った、海沿いの道に出るとそのまま、港町に入って行った。

 港に着くと、リーダーの男は、馬車の御者台から降り、何処かに行ってしまった。

 その間に、手下の二人に又、手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされた。

 暫くすると、リーダーの男は、二人の男達を連れて、馬車に帰って来た。


「それじゃぁ、お前等此処で、此奴と別れるぞ。それじゃぁ、こいつと引き換えに、約束の金を頂きます。」

「それじゃぁ、約束の金だ、受け取れ。」

「ヘイ、それじゃぁ確認をさせて…!? ご冗談ですよね、これは約束の半分も在りませんが、何かのお間違いでは?」

「いや、それでいいんだ。間違って居ないはずだ。この誘拐依頼の後、トンネルが通った事で、日数や時間それに宿泊する費用が掛からなくなったんだ。それで十分な筈だが。」


「貴様、ふざけるな、約束の金はちゃんと払え。」

 この声が合図なのか、手下二人が僕の手足を縛っていた縄を緩めてくれ、君には済まなかった。

 貴方に恨みはないんだ。もし俺達に聞きたい事が有る時は、此処で「チェント」と言う酒場を訪ねてくれ。直ぐに見つかる筈だ。

 僕は大きく頷いた。

 その時、馬の頭に烏が止まって居た。

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