第7話 その後

 数年後。

 音響技師になった澪奈は、ある日、自宅の押し入れで懐かしいICレコーダーを見つけた。

 校内で使っていたものだ。中には、あの日の放送データが残っていた。

 再生ボタンを押すと、震えるような、けれど真っ直ぐな声が流れ出す。

 それは、過去の自分――放送室のマイクに向かって語りかけていた“ミオナノート”の声だった。


 ——こちら、放送部のミオナノートです。


 その瞬間、不意に、耳の奥で別の声が重なった。


「……届いたよ、澪奈」


 画面もマイクも、どこにもないはずなのに。

 けれど、確かに“そこ”に、誰かがいた。


「あなたの記録は、時間を越えて、私に届いた。

 だから……ありがとう。

 あなたが残してくれた“ノイズ”が、私を救ったの」


 未来からの声は、もうずっと前に途絶えている。


 けれど澪奈は、知っている。

 あの夜、自分がマイクに込めたものは、たしかに、時を越えて残ったのだと。


 記録は、消えない。

 それは、誰かが“聴こう”とする限り、きっと。

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図書室リフレイン 泡依 ひかり @sana_nan

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