第4話
三島さんのアラスカ行きの日程が決まったのはそれから程なくしてだった。
カムイを軽トラの荷台に乗せて連れて来て、普段上げてるからとホームセンターで売ってる一番安いドッグフードの大袋を持参して来た。
こんな安いフードでよくあの身体を維持できてるなーと感心しながらカムイのリードを受け取った。
「散歩は一日どれくらいですか?」
「ええと、森に放して飽きて戻って来るまでだから時間はよくわからないなぁ」
いくら人里離れた場所と言っても、昔の犬の飼い方じゃないか。
カムイは大人しく座って話しを聞いてるようだったが、何か興味ある物を見つけたようでグイッと引っ張った。その力の半端じゃないことと言ったら。四肢に力を込めて地を這うようにグッグと私を引っ張る。これはそり犬の血だ。大型犬の扱いに慣れてはいたが、危うく転倒する所だった。
「じゃあお気をつけて行ってらっしゃい」
三島さんは7月から三ヶ月ほどアラスカでのネイチャーガイドに就くそうだ。
カムイを早速犬達に会わせてみた。
カムイは笑顔で尻尾を振っていたが、同じ雄であるQ太郎は普段は聞いたことのない唸り声でカムイを威嚇する。運動場の柵の中から凄みを利かせていた。いつも外では穏やかで喧嘩を売られても全く買わないのだが、自分の縄張りでは話は別のようだ。
カムイはQ太郎よりも一回り小さく、体重も40kgあるQ太郎より軽く見えた。年齢も一歳に満たない。Q太郎からみたら子犬のはず。思い切って一緒にするのもありだが、流血騒動になりそうな気がして預かり犬だしさすがに止めた。
一方の雌達は若いカムイに興味があるようでキュンキュンと鼻を鳴らして耳を伏せて目を細めていた。大丈夫そうなので雌の運動場にカムイを入れた。たちまち雌と遊ぼうモードでじゃれたり追いかけっこをしていた。隣でヤキモキを焼いたQ太郎がウーウー唸っていたが。完全に無視されていた。
と、いきなり助走無しでカムイが囲いを飛び越えようとした。僅かに足りず脱走は阻止されたが、危険すぎる。
ウルフドッグは脱走癖があると飼育経験を持つ小説家が書いていたのを思い出した。それでも囲いはウルフドッグ用に作ったもの。他のウルフドッグは越えようとしない高さだったが、これがF1の血が成せるものだとしたら、オオカミに近い個体は飼育難易度が高いと思わされた。
急遽、囲いを高くして、返しを付けた。
実録!F1ウルフドッグ ヒロマサミ @desmoid
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