グミ(25分)

 僕がパン派かご飯派かを聞くと彼女は、それは詐欺師の手口だよ、って言ったんだ。

「詐欺師の手口?」と聞き返すと、

「他にも無数に選択肢はあるのに、わざともっと少ない選択肢しかないように見せるんだ」

 みたいな。僕はあんまりピンとこなくて、とりあえず適当に相槌を打った。というか、この勉強会を企画したのは彼女だったし、僕はもうちょっと真面目に勉強したかったんだ。それにもかかわらず彼女は始まるやいなや雑談を始めた。

 いやいや、勉強なんてそんな大した事じゃないよ。何回か話したかもだけど、僕のモットーは「努力は嘘をつかない」だ。努力するのが好きなんだ。

 それで、僕は勉強しようって彼女に伝えたら、また口答えをしてきた。それに加えて、彼女はお菓子やジュースを引っ張り出してきたんだ。僕にもハート型の組を渡してきた。それはレモン味で甘酸っぱくて、まあ悪くはなかったんだけど。


 少し話は飛ぶんだけど、大学受験当日だ。僕は彼女じゃないけど、たくさんお菓子を持って行った。まあ糖分補給は大切だからね。確か、その中にはあのグミも入ってたはずだ。ちょっと気に入っちゃった。会場には彼女もいるはずだったんだけど、見当たらなかった。そもそも人が多すぎたからね。それに、僕は集中のためスマホの電源を切っていて、つけるのもめんどくさかったから特に連絡もしなかったんだ。

 試験の結果は上出来で、まあそのおかげで今この大学に入れてるんだけど。僕は一安心していた。そして家に帰って母に報告しようとしたら、母がひどく慌ててたんだ。

 僕がどうしたの、と聞いたら母は「〇〇ちゃんが事故に遭ったって」。〇〇ちゃんとはずっと話してる彼女の名前だ。ショックだったね。その日は倒れるかと思った。


 翌日、僕と母は病院に向かった。彼女はすでに死んでいた。車に轢かれて、ほぼ即死だったらしい。医療の努力も虚しく、死一択だった。何だか実感が湧かなかった。だって昨日まであんなに元気だったのに死ぬはずがない。死と生の他にもう一つ選択肢があって、どこかの嘘つきがそれを隠してるんじゃないか、と思った。でも努力は嘘をつかない。彼女は死んでいる。彼女は、死んでいる。僕は現実を受け止めるしかなかったんだ。

 病院から帰った後で、あのグミを見つけた。ヒーターの近くに置いていたからぐちゃぐちゃになってた。それを一口食べたら、多分、酸っぱさを担っている粉も溶けてたんだろうね。ひどく甘かった。緩くて、甘くて、少し眩暈がした。


 うん、これで終わり。ね、何の救いもないでしょ?これが、僕の一番悲しい過去。さあ、次は君の番だ。 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

特に何の教訓もなく、特段楽しくなるわけでもない、様々な人間の過去の話 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ