投稿者:私

@saikokuya

投稿者:私

私はルアー釣りが好きで、自転車と徒歩で人の来ない川辺を探すのが常だ。

藪をかき分け、道なき道を抜けて、ようやくたどり着く水辺。

そういう場所ほど、魚がいる。


ある日、荒川の支流を辿っていて、小さな流れを見つけた。

地図にも航空写真にも載っていない。

けれど確かに、水は静かに流れていた。

岸は深く草に覆われ、まるで人の気配がなかった。


私は直感的に「釣れる」と思い、竿を出した。

数投目、手応えがあった。

ずっしりと重く、だが動きが鈍い。ナマズか、ライギョか──。


水面近くまで寄せたその瞬間、

水中で反転した魚体は、どこか既視感があった。

でも、背中のラインが逆に曲がっているように見えた。


違和感を感じた直後、周囲から水音が消えた。

風も、鳥の声も、自分の呼吸すら遠くなる。

まるで、世界がどこか別の場所と入れ替わったような静けさだった。


気づけば、来たはずの藪道がなかった。

GPSも固まったまま動かない。


あてもなく歩いていると、錆びた看板の足元に、使い込まれた釣具が落ちていた。

それは、私が今使っているリールとまったく同じ型だった。


恐怖に駆られて草をかき分け進むと、突然、蝉の声が戻ってきた。

GPSも正常に戻り、荒川の姿が見えた。

振り返ると、あの小川はもう存在しなかった。


数日後、X(旧Twitter)で「消える釣り場」の話題を見つけた。

誰かが5年前の投稿をスクショで保存しており、その写真が拡散されていた。


画像に映っていたのは、あの流れ。

そして投稿者の名前とアイコンを見て、私は凍りついた。


それは、かつて私が使っていた本名と、古いプロフィール写真だった。

だが、そのアカウントはすでに削除されていた。

ただ、その痕跡だけがネットの片隅に残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

投稿者:私 @saikokuya @saikokuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ