茜色の空



____やってしまった。

こんなこと言うべきではない。言っても相手を困らせてしまうだけなのに。

どうしようという焦りで言葉が出てこない。歩みを進める足も気づいたら止まっていた。

「ご、ごめんなさい。何でもないです。こっち、早くいきましょう。」震える足でもう一度歩き出した私だったけれど、うまく息が吸えなくなってくる。息苦しくて、ついにはしゃがみ込んでしまった。

苦しい。心臓が締め付けられてドクドクと脈が速くなるのを感じる。

するとそんな私に大きな影が覆い被さってきた。

「嫌かもしれんけどちょっとだけ我慢してな。ごめん。」

そう言うと彼はしゃがみ込んでいる私をそっと軽く抱きしめ、背中に手を当てて

「あせらんくて大丈夫やで。俺に合わせてゆっくり息してみて。」

そう言って彼は吸って、はいて、吸って、はいて、と私が落ち着くまで繰り返してくれた。

そのおかげか、どんどん落ち着いてきた。

「あ、ありがとう。もう大丈夫。」


「急にこんなことになってしまってごめんなさい。」


「何で謝ってんの?別に謝らんでいいで。言いたくなかったら無理に言わんでもいいし、言いたいと思ったときにでも言って!そのときは俺もしっかり聞くから。」


「とは言っても、まぁ始めましてして数時間しか経ってないしな。てか普通に考えたら俺急に茂みから現れた不審者みたいやん!!」


「通報とかは勘弁してぇー」と、頭を抱えながら小さくなっているのが面白くて私はまたクスッと笑ってしまった。さっきの頼もしさは今では微塵も感じられない。

ふぅ、と一息ついて私は

「改めて、落ち着かせてくれてありがとうございました。」


「日高さんはやさしいんですね。」そう言葉を発する。

彼の優しさに、つい自分の顔がほころんでいるのがわかる。


「雪原さんそっちの顔の方が似合ってるで。俺と始めましてしたときめっちゃおびえてる顔して表情固まってたもん」


「え、嘘、私そんな顔してましたか?」


「してたしてた。それと敬語もやめへん?年も近いやろうし。」


「わ、わかった。敬語になってたらごめんなさい。」


「もう敬語になってるやん!」そう言いながら目に涙をためて笑っている。


「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃん!」私は少しむきになって言い返す。


「ごめんごめん!!」


「次からはやめてよ?」


「はぁーい。ほんならまた歩くか!今度こそここから脱出や!」

そう意気揚々と言っている日高さんと並びながら茜色に染まった空の下を私はまた歩き出した。


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ノスタルジアスケッチ 桐花沙世 @nathu_83

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