その婚約者、譲ります
満月 花
第1話
ーー私は勝ち組、幸せになるはず……そうよね?
友人の物を奪うのが好きな女がいた。
男が自分を選び、友人の自己肯定感が地の底まで沈むのが堪らなく好きなのだ。
友人は女を切れなかった。
こいつは私しか友達いないものね。
見下すようにあざ笑う女。
ある日、友人が嬉しそうに婚約を報告
彼は小さいながら起業して、一緒に支えていくつもり。
学歴も聞いてみたら申し分なし。
友人をちょっと過保護と思うくらい大切にしてくれるらしい。
婚約者に会わせて、とお願いしたら是非にと快く会わせてくれた。
悔しいくらいの爽やかイケメン
友人は恥ずかしいのか距離感を取ろうとするが、甲斐甲斐しく世話をする婚約者。
これって、友人には勿体なくない?
でも婚約者の親に心よく思われてないかもしれない。
彼は孫が出来たら変わるよ、いっそデキ婚する?
でもやはりここは誠意を持って時間をかけてわかってもらおうと思う…。
って友人が前に会った時言ってた。
女は作戦を立てる、友人からこの男を奪う計画を。
奪うだけじゃない、完全にものにする。
なんなら既成事実を作ってデキ婚に持ち込む。
婚約者に連絡を入れた。
始めは訝しそうに応対していたが、友人の名を出したら食いついて来た。
彼女のことなら全て知っておきたいと婚約者は言う。
それも腹ただしい。
自分をアピール、友人下げを巧みに話に盛り込む。
自分がいないと何も出来なかった、フォローが大変だった…。
でも、そんな話しても愛らしいと、嬉しそうに笑っている。
絶対に落としてやる。
結婚する気なら友人の写真やエピソードになりそうなものあるよ?
と誘えば、慎重になりながらも二人の未来を想像したのか頷く。
そうしてまんまと婚約者を自分の家に引き摺り込んだ。
話が盛り上がってきて、お酒を飲み、かなり酔いが回った。
酔ったフリをしてしなだれかかっても笑って許してくれるように。
溶けかけの氷がカランとグラスの中で音を立てた。
──全部、計画通りだった。
酔った彼に、“思い出になる夜”を仕込んだ。
ショックを受け友人への罪悪感で自分を責め私から離れて行こうとする婚約者
でも、女は最大級の演技で一目惚れだった、一度でも思い出を…と泣きじゃくってみせる。
所詮、男は本気の女の涙に弱い。
そんなに自分のことを……。
どうやら友人は甘え下手らしく一度も
そんな素振りを見せてくれないらしい。
とても恥ずかしがり屋でなかなか願うように愛を示してくれない。
捨てられるのが怖いのか、自分とのスペックの違いに尻込みをしてるのか、関係が今一歩踏み込めない、と。
でも、今回は大切な親友を紹介したいと言われ、やっぱり自分は彼女にとって大切な存在だと思った。
その矢先に、こんなことに。
酒のせい、でも自分をそこまで思ってくれた気持ちもいい加減に出来ない…。
婚約者はまた後でと考え込みながら帰っていった。
女はすぐに友人に連絡をした。
あんたの婚約者と関係を持った、ごめん
と証拠写真と共に送る
3人で会う
詫びる婚約者、好きなの、私に譲って!という女
友人は静かに、
二人が惹かれ合うなら仕方ない、自分は二人の幸せを願う。
でも、もう2度と会いたくないと二人に確約させる。
女は笑いが止まらなかった。
当然だ。
こんなハイスペックな男あの友人にはもったいない、釣り合わない。
私のような女こそふさわしい。
今は自分の婚約者となった男。
彼は自分を愛してくれる。大切にしてくれる。
まるで映画のヒロインのように、お姫様のように。
「君は僕の最愛、一生離さない」
過保護なほどの溺愛をしてくれる。
そんなに甘やかさないでと上目遣いで言えば、
「君の全てが欲しい」
なんて、わがまま言ってくる。
「僕だけを見ていて欲しい」
熱のこもった熱い瞳。
どこにいるのか何をしているのか
逐一報告を欲しがる
心配性の困ったちゃんだけど
愛されてる私って思う。
SNSに溜まっていく、二人の愛の軌跡。
友だちの彼氏だったけど、運命の出逢いだった。
そう呟けば呟くほど、反響も大きい。
まぁやっかむ奴らも多いけど、気にしない。
私は勝ち組み、人生最高!
盛大に結婚式を挙げて、二人でお腹のベビーと共に
誰もが羨む人生を送るの。
友人は女のSNSを全て読んだ。
彼女と婚約者との素敵な日常、どの写真も楽しそうに抱き合っている。
婚約者の腕が彼女の身体に絡みつく。
窮屈そうに笑う彼女。
盛大かつ派手な結婚式で幸せそうに笑う二人。
友人は女のSNSを消去した。
あれ以来、女から連絡はない。
完全勝利でもう用済みになったのだろう。
***
ーーあの男は恋人なんかじゃない。
仕事で何回か会っただけ。ただそれだけだったのに。
一方的に好意を押しつけてきた。
しつこく、くどく。
そして自分と両思いだと思い込んだ。
理解できない。
仕事にもプライベートにも支障をきたすほどに執拗な行為は増す。
自分の事を詮索しまくっているらしいと教えてくれる人達も
少なからずいた。
邪推して一方的に追求してきたり、待ち伏せしたり、
自宅のポストに届く何十通もの意味不明な手紙。
常軌を逸した狂人だ。
友人は他に愛する人がいた。
密かに愛を育んできた、穏やかで優しい人。
あの男に愛する人を知られてはならない。
何をされるかわからない。
だから慎重に様子を見ていた。
どうやったら穏便に切れるのか?
思いついたのは、ずっと見下してきた女。
ただの知り合いに過ぎない高慢な女
私の恋人が高スペックならきっと奪うハズ…今までもそうだった。
大人しい私は時折り、外面の良いダメンズを吸い寄せてしまう。
その度に誘惑してくれたから随分と助かった。
幸せよね?だって彼はスペックは申し分ないもの。
束縛、妄想、支配下に置きたいという思考は徐々に滲み出てたけどね?
でも愛されてとても幸せそうだもの。
末長くお幸せにね。
その婚約者、譲ります 満月 花 @aoihanastory
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