第4話:握るVS挟む

 倉庫前でスラム街の住民と黒服の部下たちに見守られながら、"おにぎりの食聖"米田にぎるVS"ハンバーガー界の大物"ドモス・ナルドロッテの戦いが始まった。

「にぎるの若旦那、頑張ってぇ!」

「ふふ、ドモスさんに勝てるわけがないのによぉ。」

 その戦いは彼らだけでなく、倉庫の屋上に居る、"とんかつの豪傑"黒猪勝重、"うどんの老師"白川越雄、"ハワイアンパンケーキの看板娘"レイ・カイラニの三人の食闘士フードファイターが二人の戦いを観察する。

「ドモス・ナルドロッテ、USAバーガーの腹黒経営者じゃねぇか。」

「あいつはフードピアに隷属してるから、無理ね。誘うなら、あの食聖さんね。」

 戦いを楽観視する二人に対し、越雄だけは苦い顔でにぎるの方を見た。

「いや、あのおにぎりの若造にはちと荷が重いかもしれんぞ。」


「さぁ、食産業の一大企業の力を教えてやろう。」

 ドモスはにぎるを嘲笑しながらも、巨腕と化したハンバーガーを彼に目掛け、振るい払う。

 しかし、その大振りの鈍重さを利用し、難なく躱したにぎるは左腕におにぎりで出来た籠手ガントレットを装着し、ドモスの脇腹に正拳を打つ。

「はぁっ!」

「よっしゃ、にぎる兄ちゃんがあの腹黒社長に先制攻撃を…」

「くすぐったいじゃないか。」

「えっ?」

 にぎるの攻撃に当たったことに喜ぶスラム街の子供だったが、ドモスの不敵な笑みに驚く。

 ドモスはすかさず、片方の巨腕を振るい、にぎるがそれを難なく躱し、左腕から拳を入れた。

 しかし、それを意に介さないどころか、ダメージも無いように余裕を見せる。

「はは、何だね? その弱い攻撃は? ああ、そうか、貴様、な。」

「くっ!」

 にぎるは左腕からの拳打を繰り返すも、ドモスが効く様子も素振りも見せない。


 にぎるの弱い戦い方を見たレイは不思議がった。

「あの食聖さん、身軽さのスピードは申し分ないのに攻撃は弱いのかしら?」

「そうか、おにぎりって言うのは寿司と同じように固く握ったら、米の食感が悪くなる。だから、弱すぎず、強すぎず、優しい塩梅で握るから、それが逆に威力が足りなくなってるんだ。」

「だったら、ハンバーガーはただ挟むだけだけど、食べる時に端から端まで強く挟むから力が凝縮されてるってこと?」

「違う。」

 勝重とレイの推測を越雄は重い声で否定し、頬杖をついた。

「おい、爺さん。だったら、何が原因なんだよ?」

「あやつは戦っているが、心に迷いが出来ているからじゃ。」


 にぎるの連続攻撃をノーガードで浴びせ続けられるドモスは蛙の面に水、はたまた、暖簾の腕押し、もしくは、糠に釘のように無駄だと言うアピールを見せる為に敢えて受けていた。

「さて、そろそろ受けてもらおうか。」

 にぎるが攻撃に夢中になった隙を突いて、狙いを定まれ、ハンバーガーの巨腕が振り上げ、彼を吹き飛ばした…

「がはっ!?」

「眠いような攻撃をしてるからそうなるんだ! 貴様は弱過ぎる! ピクルスどころかパティが無くて、食べ応えのないスカスカなハンバーガーのようにぃ…!?」

 瞬間、ドモスの身体に重圧がのし掛かり、足元を屈し、地べたに這いつくばった。

「なん…だぁ…これはぁ!?」

 吹き飛ばされ、倉庫の壁にめり込むまで叩きつけられたにぎるは徐に立ち上がり、ドモスを見下げ、言い放つ。

「よく噛み締めろ、これはだ。」

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戦慄のフードファイターズ @kandoukei

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