第3話:強襲のハンバーガー

「あんたは誰だ? 働きに出たみんなに何をした?」

「我輩は【USAバーガー】の最高経営責任者C・E・O、『ドモス・ナルドロッテ』。人々は我輩をハンバーガー界のドンと呼ぶ。こいつらは我輩が待遇を与えてやったのに、それを裏切り、怠った。我輩の労働基準法で連れ戻す。」

「何が待遇だ、労働基準法だ! 月給も少ない、仮住まいはコンクリートのボロ部屋、食事は売れ残って、冷たく硬くなったハンバーガー、俺たちは家畜やペット以下の抑圧を強いられているんだぞ!」

「俺たちは奴隷じゃねぇ! 何で、俺たちをだましたんだ!」

「騙すも何も、君たち、スラムの港町の住人にはお似合いの配慮だよ。贅沢を許されるのは我輩と客だけだ。君たち貧民に割くコストなど存在しないんだよ。」

 不遜で、驕った態度を取るドモスにスラム街の住人が恨めしそうに睨む。

「何なんだよ、お前たち、グルメーカーの人間は偉くて、俺たちは使い捨て扱いかよ! 何が、食の理想郷だ!」

「この糞金野郎! 絶対許さねぇ!」

「ほう、生意気を言う奴は…」

 ドモスは両手を広げると、その両手から大きな麵麭パンズ赤茄子トマト萵苣レタス乾酪チーズ腌菜ピクルス肉団子パティが現れ、巨腕のグローブのように装着した。

 ハンバーガー。"挽肉刺身タルタルステーキ"を焼いた、ドイツの"ハンブルグ"がアメリカで"ハンバーグ"として、流行し、パンを挟んで、工業地帯の労働者が食べやすいようになったことで広まった、ステーキと並ぶアメリカの看板料理メジャーフードである。

 そのアメリカのソウルフードがスラム街の住人を殴り倒そうとした。

「我輩のハンバーガーに押し潰されるがいい!」

「うっ、うわぁ、ハンバーガーが襲って来る!?」

「助けてくれ! 食べ物の粗末な冒涜だ!」

 ハンバーガーの拳がスラム街の住人を襲おうとしたその時、無限に湧き出た塩米の塊に、無数の帯のように長く広がる海苔がその攻撃を受け止めた。

「何ぃ!?」

「食べ物で人々を傷つけるな! ハンバーガーも、おにぎりも、人々を幸せにする掛け替えの無い料理だ!」

 おにぎり。昭和頃の発掘で弥生時代中期の地層におにぎりと思われる炭化した米粒の塊が発見された。

 さらに、戦国の足軽から大戦期の日本帝国軍は戦場の携行食として重宝された。

 米の糖分によるエネルギー補給、これに具である梅干しが加わると塩分とクエン酸による疲労回復効果を齎した。

 アメリカの近代のソウルフードがハンバーガーなら、それは真逆の存在、日本の太古のソウルフードである。

 そのおにぎりの使い手である米田にぎるがドモスと対峙する。

「やれやれ、貴方がたかが貧民如きに施して、いい気になっている食聖という訳のわからない称号持ちですか。」

「みんなの待遇改善を申し込む。それをやる気がないのなら、去ってくれ!」

「おやおや、同じフードファイター同士、物事を決めたいのなら、互いのフードを賭けて、戦いなさいな、薄汚れた板前風情が。」

 今、まさに日米新旧ソウルフード対決、

おにぎりVSハンバーガーの戦いの火蓋が切って落とされた。

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