第10話





 マンションの屋上。

 瞳に搭載された望遠機能を使って夜空を見る。星々が瞬き、今にも降り注いできそうな夜だ。人間はずっとずっと昔から、この星と共に生きてきたんだなと、人間の長い歴史に想いを馳せる。


「面白いか? 空」


 甲斐にそう言われて、僕は頷いた。


「星座とかさ、面白いよ。昔の人はどうしてこれに名前や物語をつけようと思ったんだろう」


「暇だったんだろ」


「ロマンのない答えだな、もっと工夫してよ」


「お前相手に工夫してもな」


 僕は甲斐の脇腹を肘で軽く叩いた。


「……ねえ、甲斐。僕、心理カウンセラーの資格取りたい」


「……へえ、珍しく建設的な事を言ったな」


 甲斐は目を丸くした。その目が次第に笑みを形作る。


「いいんじゃねえの?」


「うん。もっと僕、心について学びたい。それで……、つらい人や哀しみを抱えてる人に寄り添いたいんだ」


「……ありがとな」


「えっ?」


 甲斐は照れくさそうに笑って言った。


「人に寄り添いたいって思ってくれて、ありがとな。それは、マリアが理想としていた人工知能の在り方だ。応援する」


「ありがとう」


 僕も笑ってそう言った。

 星々のあいだで、マリアが笑っているような気がした。

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