第21話

「これはツカサのかな」

「ご主人様がそう言うなら私はそれで問題ありません」

「……ありがとう」


名前:花のオオカミの指輪

効果:敏捷+2

説明∶甘い香りのする指輪。花飾りを頭に乗せたオオカミが彫られていて可愛いけど、このオオカミは肉食だから見つけても近付かないでね。


名前:花蜜の涙

効果:器用+2、精神+1

説明∶涙はしょっぱいけど、これなら甘くて美味しいよ。あ、でも食べるとなくなっちゃうから口に入れないで。これは飾りだから絶対に目の下に貼ってね。絶対だよ。


 この2つを装備屋で鑑定してもらったのだが、どちらも性能としては良さそうなので、指輪はツカサに、花蜜の涙はジルのものとなった。

 そしてジルは早速自分の目の下へと花蜜の涙をくっつけようとしているのだが、なかなか時間がかかっているようだ。


「ジル、説明文を鵜呑みにして、味見とかするなよ」

「!? ま、まさかそんなこと……」

「なら良かった」

「……味は美味しかった?」

「いえ、少し舐めても全く味がしなかっ……ツカサ様騙しましたね!?」 


 あぁ、もう味見したのか。

 説明文の通りだと甘くて美味しいはずだったが、嘘が書いてあったってことは本当にドロップ装備は名前と効果しか読まなくて良さそうだな。


「……ぼくの指輪は良い匂いがする」

「本当ですね。とても良い香りがします」

「指輪の香りを楽しんでるとこ悪いけど、そろそろ行こう」


 俺達が今から向かうのは召喚士とテイマーの集まりで、召喚獣や魔獣がたくさんいる場所だ。

 そして俺はこの機会に先輩達から色んな情報を得よう。きっと俺1人ではたどり着くことがない知識を、先輩召喚士と先輩テイマーは持っているだろうから。


「……楽しみ」

「私も楽しみです!」

「俺もだな」


 ツカサとジルは召喚獣や魔獣が楽しみでこの言葉が出たのだろうが、俺は召喚士とテイマーから得られる情報が楽しみで、俺1人だけ人間と会うことを楽しみにしているのだった。






「あ、レンさん」

「コロンさんこんにちは。個人チャットでの連絡助かりました」

「……凄い」

「私もご主人様の召喚獣であることをアピールするために、ここに居る間はご主人様の隣に居ますね」


 現在俺達はものすごい数の召喚獣と魔獣が居る場所に来ており、ツカサのような召喚士でもテイマーでもない人も思ったより多く居るようだ。


「レンさん、あの、そちらの方はもしかして……」

「あ、コロンさんの話だと召喚士じゃなくてもここに来る人がいるって話だったので、一緒に来ました。ツカサはパーティーメンバーなんですけど、もしかして駄目でした?」

「……ぼくは帰る方が良い?」

「い、いえ! その格好でツカサさんと言ったら……『鬼人』さんですよね?」

「……そう呼ばれてる」


 ツカサが鬼人であることにすぐ気付いたコロンさんは、急に興奮し出してツカサへと握手を求めていた。

 そしてそれを見た周りの異邦人達もツカサの元へと集まりだし、ここの主役が召喚獣や魔獣から鬼人へと変わる。


「す、すみません。私が握手を求めたせいで」

「いや、本人も召喚獣とか魔獣を撫でさせてもらってますし、いいんじゃないですか? 嫌なら嫌って言うと思うので」

「……あの、もしかして私が知らないだけでレンさんも凄い人だったり?」

「ご主人様は凄いです!」

「俺はただのゲーマーですよ。ツカサみたいに有名人じゃないので安心してください」




 こうして俺達はツカサの握手会が落ち着くまでコロンさんと世間話をしながら待っていると、少し疲れた様子のツカサが帰ってきた。


「お疲れ様」

「……もうジルちゃんとここで休憩する」

「私はご主人様へついて行きますよ!」

「いや、ジルが召喚獣だって言ったらジルの話ばっかりしないといけなくなりそうだし、ジルはツカサとここで待ってて」

「そんなぁ……」

「ここで情報を集めたら今後ジルにもきっと良いことがあると思うから」

「ご主人様がそう言うなら、かしこまりました」

「……ジルちゃんはぼくに任せて」


 ということでジルとツカサにはコロンさんと一緒に待っててもらい、俺1人で周りにいる人達へと声をかけていく。


「こんにちは、この子はなんて名前なんですか?」

「こんにちは、この子はマルって言います。本当は序盤に出てくる角ウサギなんてテイムする気はなかったんですけど、あまりにも可愛すぎて捕まえちゃいました」


 俺が声をかけた人はどうやらテイマーらしく、今まで見た中で1番小さくて丸っこい角ウサギを仲間にしていた。


「結構モンスターにも個体差があるんですね」

「この子は一目見て周りの角ウサギとは違うなって思って、追いかけ回してなんとかテイム出来たんです」

「テイムはどうやってするんですか?」

「基本的には少し弱らせてテイムのスキルを発動すれば捕まえられるらしいです。僕はマルに攻撃するなんて出来なかったので、とにかく何度もテイムを掛けました」

「へぇ……ちなみに魔獣はどれくらい強いですか?」

「そうですね……正直に言うと全然強くはないです。けど、僕はマルに癒しを求めてるので、強くなくても全く問題ないです」


 どうやらこの人はマルをテイム出来た事に満足しているようで、しばらくは色んな場所でマルの写真を撮るので忙しいとか。


 まぁテイマーになって角ウサギを捕まえるくらいだし、強さにはあまり貪欲じゃないか。次はもっと強そうなモンスターを連れている人に声をかけよう。


「あ、すみません」

「はい、どうしましたか?」

「もしかして召喚士ですか?」

「はい、そうです」


 ここに居るモンスター達の中で、1番存在感を放っている召喚獣の主に声を掛けた。


「その召喚獣って」

「種族はグリフォンです。まさか幻獣と呼ばれるレアなモンスターを召喚できるとは自分でも思ってなかったんですけど、運が良かったみたいで」


 周りの人達はもう見慣れてしまったのかもしれないが、初めてこの集まりに参加した俺からすると、明らかにこの召喚獣だけ存在感が違った。


「やっぱりグリフォンともなると強いんですか?」

「そうですね、最初から自分よりも全然強くて、グリちゃんのおかげで攻略クランにも入れることになりましたし」

「あ、コロンさんの言ってた攻略クランに所属してる人って」

「たぶん自分のことです。一応ゲーム歴は長いので中級者くらいの実力はあると思ってますけど、グリちゃんが居なかったら絶対に誘われてないです」


 グリフォンを見た攻略クランの人から声を掛けられて、グリフォンの戦闘シーンを見せたらスカウトされたらしい。

 まぁグリフォンが仲間になるってのは話題性があるし、この人は中級者くらいの実力と自分のことを評価しているが、攻略クランに入れる最低限の実力はあったのだろう。


「実は俺も召喚士でして、召喚士の先輩としてアドバイスをくれませんか?」

「あ、そうだったんですね。召喚獣の姿が見えないので見学の人かと思ってました」

「俺の召喚獣は今パーティーメンバーと別の場所て待機してもらってるんです」

「そうだったんですね……では何が聞きたいですか?」


 そう言われて少し考える。


「……召喚士ってぶっちゃけ強いと思います?」

「自分は運良くグリちゃんを召喚出来たので強いと思います。けど、他の人を見てるとそんなに強くはないみたいですね。そもそも強さを求めてる人は少ないですけど……でもコツコツモンスターと戦っていたらどんな召喚獣でも比較的強くなってくれるそうですよ」

「なるほど」


 ということは今までジルがありえない成長をしてると俺は思ってたが、他の召喚士達も同じ経験はしてたのか。


「実は俺も攻略組を目指してて、召喚獣に強くなってもらいたい気持ちもありつつ、無理してほしくない気持ちもあるんですよね。これってどうすれば……ってのは自分で考えることですよね」

「自分の場合は、嫌なことがあればグリちゃんが顔を背けてくれるので、それを見たらやめるようにしてます。あとは小まめにグリちゃんを見て、こっちで息抜きの時間は強制的に作るようにしてますね」

「なるほど……」

「これは召喚獣でも魔獣でも同じですけど、倒されたら目に見えて分かるくらい信頼度が下がるみたいで、出来るだけ安全に育てるのは意識してます」

「えっ、俺は1回再召喚をしてるんですけど、そんな感じはしなかったですよ?」

「へ?」


 崖下に落ちてしまったジルを再召喚した時、落ち込んではいたものの、信頼度や好感度のようなものが下がってるようには見えなかった。


「召喚獣を倒されちゃうと、今まで積み上げてきた信頼度が下がった状態で再召喚されるって聞きましたけど」

「俺はそんなことなかったですね。再召喚前と後で違いは無かったと思います」

「もしかしたら信頼度がある程度高ければ、下がることは無いとかですかね?」

「確かに俺は召喚獣と大分仲が良いので、あり得るかも」

「グリちゃん、そうなの?」

『キーーキーー』

「なんて言ってますか?」

「すみません、自分には分かりません」


 このやり取りだけでも、言葉が使えない召喚獣とのコミュニケーションの難しさを感じる。

 ジルだったら俺たち人間と同じように答えてくれるし、やっぱり言語を扱えるってのはあまりにも大きい。


「あ、そうだ。もし召喚獣を強くしたいなら、新しい召喚獣を召喚できるようになってもすぐには召喚しない方が良いですよ」

「え?」

「自分は今レベル8で、レベル5の時に召喚獣の枠が増えたんですけど、まだ2体目の召喚はしてないんです」

「えっと、それはなんでですか?」

「新しい召喚獣を召喚するには供物が必要で、出来るだけ良い素材を供物に選びたいからですね」


 召喚士が召喚する召喚獣は進化することがないが、テイマーがテイムした魔獣は進化する種族も居るため、序盤は召喚士が強く、終盤にかけてテイマーの方が強くなっていくというのが、今のモンスター愛好家達の見解らしい。

 厳密に言うと召喚獣も特殊な条件で進化することがあるかもって感じらしいが、とにかく今集まっている情報ではそうらしい。

 だから召喚士としてはどんな召喚獣を召喚するかは本当に大事なので、供物選びは絶対に手を抜けないとか。


「自分は攻略クランに入った身なので、新しい召喚獣も強くないと可哀想で、今頑張って供物を探してる最中なんです」

「それって角ウサギの角とかを供物にしたら、角ウサギが出てくるんですか?」

「いえ、供物にした素材のモンスターが召喚される訳ではなくて、あくまでも供物の種類やレアリティによって、召喚される召喚獣がある程度決まるんじゃないかという話ですね。勿論角ウサギの角で角ウサギが召喚される可能性はあるとは思いますけど、角ウサギレベルのモンスターがランダムで召喚されると言うのが、今の考え方です」

「なるほど」


 まだレベル4の俺には貴重な話だった。たぶんこのことを知らずにレベル5になってたらすぐ召喚してただろうし、この人に話しかけてよかったな。


「あ、そうだ。召喚獣の装備って何が付けれるか知ってますか?」

「召喚獣・魔獣用の装備を売ってくれる街がもう少しで見つかるんじゃないかって言われてますね。自分も早くグリちゃんにカッコいい装備を付けてあげたくて」

「一応アクセサリー装備は召喚獣もつけれますよ。勿論大きさが足りてなくて、物理的に装備するのが無理なものはいっぱいあると思いますけど、装備出来るか試してみると良いかもしれないですね」

「ホントですか!?」

「俺は自分の召喚獣にアクセサリー装備を付けてるので、本当ですよ」

「グリちゃん! グリちゃんが付けれるアクセサリー装備って……リボンとかかなぁ? ブレスレットとかアンクレットも、大きいのだったらもしかして付けれる?」

『キーーー?』


 装備の話で2人だけの世界に入ってしまったため、俺はそっとその場を離れてジル達のもとへ帰る。


「あ、お帰りなさいませご主人様!!」

「……ぼくもジルちゃんに言われたい」

「ただいま、そっちは何してた?」

「ツカサ様へ話しかけてくる異邦人の方に、私が対応してました」

「……ジルちゃんしか勝たん」

「レンさん、少しいいですか?」

「え、はい、どうしました?」


 俺はジル達の横に居たコロンさんに声をかけられ、周りに聞こえたらまずい話なのかかなり近距離まで近付く。


「(ジルさんが召喚獣だということは誰かに言いましたか?)」

「(いえ、言ってないです)」

「(もしかしたらジルさんのことはこのまま話さない方が良いかもしれません)」


 コロンさん曰く、ここの集まりにはジルのように話すことができる召喚獣が今のところ居ないため、この事がバレてしまったら変な目立ち方をしてしまうかもということらしい。


「(まだまだ召喚士やテイマーの方は集める予定なので、ジルさんのような召喚獣が見つかったら、その時は皆さんに紹介すると良いと思います)」

「(分かりました)」


「ご主人様、何のお話ですか?」

「いや、ジルは凄いなって話」

「私よりご主人様の方が凄いです!」

「……ジルちゃんも凄い」

「ツカサ様も凄いです」

「はいはい、皆凄いからこの話は終わりな」


 俺はコロンさんのアドバイス通りに、今回はジルを召喚獣として色んな人に紹介することは諦め、残りの時間を色んな召喚獣や魔獣を撫でる時間にあてるのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔日 21:00 予定は変更される可能性があります

新作VRMMOに遅れて参加することになった俺は、1番人気のない『召喚士』をやってみることに――「意外と召喚士強いなぁ……え、こんなに強いの俺の召喚獣だけ?」 水の入ったペットボトル @tongariboshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ