第2話 再会②
翌朝を迎え、楓は昨日の出来事に対しての歯痒さが募り中々寝付けず早めに学校へと向かった。学校へ到着し、まだ静かなはずの教室に入ると、机を整頓する湊の姿があった。
「おはよう!みーくん!!」
昨日のモヤモヤはまだ残っているが、何とか気持ちを切り替え元気よく挨拶をする楓であったが……
「おはよう。綾瀬さん」
楓とは対照的に他人行儀な態度を見せる湊。挨拶を済ませると、特に会話をすることもなく、教室の整頓を続けていた。再会を果たした際は名前で呼んでくれていたが、いつの間にか名字呼びに戻っている事実にも悲壮感が募った楓であったが、そんな状況を打破するべく行動へ移す事を決意した。
「みーくん。少し話があるんだけど……今時間あるかな?」
「……うん」
「教室だと落ち着かないし、屋上で話さない?」
「分かった……」
移動する二人であったが、その道中特に会話はなかった。本来、「話がある」と女の子に言われたら告白されるのではないか?と心躍る気持ちになるのが男の一般的な感情パターンであるが、今回のケースの場合その可能性は微塵も無い。湊は、昨日の出来事に対して楓から色々聞かれる事を察しながら屋上へ向かうのであった……。
しばらくして、屋上へ到着した二人。楓は、到着早々に小走りで屋上のフェンス側へ向かい景色を眺めていた。それを追うように湊もフェンス側へ向かった。
「綺麗な景色だねぇ!みーくんはよく屋上とか来たりするの?」
「いや、今回が初めてかな?」
「そうなんだ。私は昨日クラスの人に絶景ポイントがあるって教えてもらってね!まさか、こんなに綺麗な景色だとは思わなかった!」
城葉高等学校は、小高い丘の上に位置しており、屋上からは街や海などを一望出来る。朝日に照らされたその景色は確かに輝きを放っており、楓は目を輝かせながら辺りを見渡していた。
しばらくして景色を堪能した楓は、近くにあったベンチに腰掛ける。
「みーくん、隣に座って!」
楓に促されるままベンチに腰掛ける湊。景色を眺めていた今までの光景は序章で、本腰を入れて話そうという意思を楓から感じ取った。いよいよ本題へ突入するのだとこの時湊は悟った。
寸秒の間静寂続き、軽く深呼吸をして心を落ち着かせた楓が本題を話し始めた。
「みーくん、どうして私に対してそっけない態度を取るの?」
「綾瀬さんに迷惑がかかるから……」
「『迷惑がかかる』ってどういうこと?ちゃんと詳しく説明して!」
湊のフワッとした合理性に欠ける理由に楓は語気を強めて聞き直した。
「少し長い話になるけど良い?」
「うん」
「実は……」
湊は、入学式前に起こった出来事やその後の状況、立場など洗いざらい伝えた。楓は、その話を真剣な眼差しで聞いていた。一通り話が終わると楓が口を開く。
「みーくんは他校の生徒に因縁つけられて、手を出されそうになった所を身を守っただけって事?」
「うん……」
「その件で、変な噂が流れてクラスで浮いた存在になってしまってるって事かな?」
「うん……」
湊の話を聞き状況がある程度掴めた楓は、安堵の表情を浮かべた。
「なんだ、そんな事だったんだ!」
「そんな事って……」
安堵の表情を浮かべ微笑む楓とは異なり、湊は予想と違う反応に困惑が募っていった。
「だって、あんなそっけない態度取るから私の事嫌いなのかなって思っちゃって……」
「いや、久々に再開して嬉しかったけど、迷惑かけると思って……」
「私は、迷惑だなんて思わないよ!だからこれから普通に接してよ!」
「分かった」
二人の間にあった蟠りは呆気なく解消される事となったが、ここから湊の知らない楓の一面を垣間見ることとなる……。
「ところでみーくん、私凄く傷ついた事があるんだよね?」
「昨日の放課後、避けるように帰ったことだよね。本当にごめん……」
謝罪し頭を下げる湊であったが、返答のない楓に違和感を覚え、恐る恐る頭を上げるとそこにはムッとした表情を見せる彼女の姿があった。そんな表情を見て、機嫌を損ねたと察した湊は再度深々と頭を下げた。
「それもそうだけど、みーくん、私の事『綾瀬さん』て呼んでたでしょ?それが凄く悲しくて……」
「えっ?そんな事?」
この一言がいけなかった。心の中で思っていれば良かったものの、いつ言語化してしまった。楓は、さらに眉を細め頬を少し膨らませてご立腹の様子である。
「本当に申し訳ございません」
すぐさま立ち上がり謝罪する湊。先程とは比べ物にならないくらい深々と頭を下げた。寸秒静寂が流れたが、湊は焦りから来る冷や汗や早まる鼓動で冷静さを失いかけていた。すると、耳孔より楓のクスクスとした笑い声が聞こえてきた。
「みーくん、頭を上げて。そんなに怒ってないから大丈夫だよ!」
様子を伺いつつ頭を上げる湊。笑みを浮かべる楓の表情を見て少し落ち着きを取り戻した。しかし、よく彼女の面持ちに注目するとどこか含みのある笑みにも感じ取れた。
「まぁでも、少し傷ついたのは事実だからなぁ」
「本当に申し訳ない……」
湊が謝ることしかできないこの状況を利用して楓の反撃が始まった。
「みーくん。これから私の事『楓』って呼んでよ!名字だと他人行儀で嫌だから!」
「分かった」
どんな要求をされるかと思ったが、比較的軽い『名前呼び』への変更で済むことに安堵する湊。幼い頃、そして再会した時も『楓ちゃん』と呼んでいたためそこまで違和感は感じない。ただ、クラスメイトの前ではどう振る舞おうか?という不安は拭えなかったが、とりあえず彼女の要求に従うことにした。
「因みに、ちゃん付けはダメだからね!しっかり『楓』って呼んでね!」
「えっ」
楓の一言で、状況は一変する。比較的軽い要求から重さが何段階も加わり重量級の攻略難易度と化した。本来、陽に分類している人々は、男女問わず呼び捨てが基本パターンで、そうすることにより親密さを担保している。しかし、隠よりの人物、ましてや湊みたいにほとんどクラスメイトから断絶している者からすると同性ならまだしも、異性に対して『呼び捨て』というありふれた行為であってもAランク相当の難易度と化すのである。
「みーくん!私のこと呼んでみてよ!」
「……楓」
恥ずかしさと緊張から目線を外し、か細い声で楓を呼んだ。しかし、楓は辿々しい湊を見てさらなる要求を突きつけてくる。
「ちゃんと目を見て呼んで!」
湊の心拍数は急上昇を続け、緊張に拍車がかかっていった。湊は、覚悟を決め赤面しながらも彼女の名前を再び呼んだ。
「楓!」
緊張しながらも何とか目線を合わし名前を呼ぶ湊を見て、楓は口に手を置きクスッと微笑み出した。
「みーくん。顔赤くして可愛いね!よく出来ました!」
楓は、上目遣いを駆使しながら湊の頭に手を寄せ撫で始めた。その光景は、まるで飼い猫をあやし手懐ける様子そのものだった。そんな、羞恥プレイに居た堪れない気持ちになった湊は、この時初めて男性を魅了する女性の怖さを垣間見た気がした。
しばらくすると楓の反撃を収まりを見せ、次の局面へ事が進んで行った。
「みーくん!普通に教室とかで話しかけて良いんだよね?」
「それは迷惑かけることになるから……」
すると、楓は少しムッとした表情でこちらを見つめる。恐らく、『迷惑かける』という言葉に反応したのであろう。察した湊は間髪入れずに説明に入った。
「楓ちゃ……。いや、楓が嫌いとかそういうわけでは無くて、まだ転校して二日で変なゴタゴタに巻き込みたくないだけで」
「ふーん。わかった。とりあえず、今日はそれで手を打ってあげるね」
楓は恐らく納得はしてない様子であったが、転校二日目で『幼馴染』などの情報を投下した場合、クラスが大荒れになることは目に見えている。最悪の場合、楓の立場もかなり悪くなってしまう。どうすることが正解かは分からないが、湊は楓の安定した学園生活を確保するためにこの決断を下したのである。
「じゃあ、これからの事はまた時間見て話そうよ!絶対このままは良くないから!」
「分かった」
「先に教室戻ってるね!これからよろしくね、みーくん!」
「うん、よろしく」
話もひと段落付き、楓は手を振りながら屋上を後にした。湊は再びベンチに腰掛け、屋上での出来事やこれからの事について想いに耽りながら空を眺めていた。
数十分の時が過ぎ、重い腰を上げ湊は教室へと戻った。
時刻は八時を過ぎており、教室内は賑わいを見せていた。教室へ目を向けると、楓は自分の席に座っており、その周りにはクラスメイトが乱立してごった返していた。その人混みを少し避けながら湊は自分の席へと向かった。席へ座ってすぐに隣の席の楓が声を掛けてきた。
「おはようございます。桐山さん」
屋上での話を無視したこの動きに若干動揺したが、無視するわけにもいかずとりあえず挨拶を返すことにした。
「おはようございます」
挨拶を返すとクラスメイトの視線が湊へ向かってるのを感じた。その視線を感じながら楓の方へ目を向けると彼女は含み笑いを浮かべていた。この状況で行動を仕向けてくる楓に若干の焦燥を感じたが、その挨拶以降気を遣ってくれたのか特に関わることはなく時間は経過していき放課後を迎えることとなった。
日直であった湊は、日誌を担任の元へ届けるため職員室へと向かった。滞りなく日誌を提出し終えた湊は、帰路へ着くため下駄箱へと歩みを進めていた。その最中、クラスメイトと談笑しながら前方より迫ってくる楓の姿が映った。
教室での一件もあり、少し警戒する湊であったが、ここでまた逃げるように立ち去った場合、楓の逆鱗に触れる可能性が高い。何事もなくこの場が収まることを願いながら廊下を進んでいった。
徐々に近づいていく湊と楓であったが……。湊の嫌な予感は的中し、すれ違い様やはり楓はアクションを起こしてきた。
「桐山さん、何か落としましたよ!」
楓の方へ目を向けるとクラスメイトに背を向けながら何か拾おうとする素振りを見せる彼女の姿があった。床には何も落ちておらず、楓の行動の意図が全く読めず湊は困惑が募っていった。
「はい、どうぞ」
楓から落とし物として渡されたのは、一枚の紙切れだった。折り畳まれており中身は見えず、楓の一連の行動に思慮を巡らせていると……。
「後で登録しといてね。じゃあね、みーくん!」
「う、うん」
そう小声で言葉を囁いた楓は、クラスメイトの元へ小走りで戻って行った。
湊は「登録」という言葉に引っかかり、紙切れを開くとそこにはメッセージアプリのIDが書かれていた。なぜ用意周到にこんな紙切れを用意していたから定かではないが、ひとまずポケットにしまい学校を後にした。
校門を出て、携帯を開きIDを入力するとそこには『かえで』と平仮名で登録しているアカウントが表示された。そのアカウントの登録を済ませると友だちの欄に『かえで』が新たに追加された。数少ない友達の欄に楓が追加されたことに喜びと新鮮さを感じながら湊は一人家へ向かうのであった……。
幼馴染が小悪魔過ぎて困っています クレぞー @kurezo
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