エピローグ  夏の夜、永遠の約束

エピローグ  夏の夜、永遠の約束


 夜風が心地よく吹き抜ける夏の空の下、河川敷の広場には、パチパチと小さな音を立てながら火花を散らす線香花火の光が揺れていた。


 浴衣を着たひよりがしゃがみ込み、火をつけた花火をそっと持ち上げる。

薄紫と淡い青の模様が、彼女の儚げな表情にぴったりだった。

その姿を見た駿が、不意に呟いた。


「佐倉って……こんなに可愛かったんだな。気づかなかったわ」


「……なっ……」

顔を赤くしてうつむくひより。


「おおっ、佐倉その気になってんじゃね? 付き合っちゃうふたり?」

佑真がニヤニヤしながらからかい、

「やめてってば!」 とひよりが花火を揺らす。

響はそんな二人を見て、ふっと笑った。


「なあ、響」

佑真が火をつけながら訊いた。

「……あの時の爆発って、まさか……」


「ああ。あれ、合宿初日に佐倉が持ってきた大量の花火だよ。思い出したら、あれしか武器になりそうなもの、なかったから」

「マジかよ……」

佑真が感嘆するように花火を見つめる。

「火薬だもんな、花火も。 でも、あれ、マジで凄かった。あの音、耳に焼きついてる」

「ある意味……俺たち、佐倉に救われたよな」

駿が言うと、響も静かに頷いた。

「……うん。あの花火がなかったら、どうなってたかわからない」

「ほんと。佐倉がバカで良かったよな」

「おいっ!」

ひよりが振り向いて佑真を睨む。

「うるさいな、佑真!バカはおまえだっての!」

「おいおい、そんな下品な口きいたら、駿に嫌われるぞ~?」

「もぉ~……ほんとウザい!」

そんなやり取りに、再び笑いが起こる。

火花が弧を描き、ぱちんと弾けた。

駿がその光を見つめながら、しみじみと言った。


「……青春だな、こういうの」

響が花火を見ながら続ける。

「これから先、何があっても……この四人だけは、信じられる気がする」

「……ああ。そうだな」

駿が真顔で頷く。

「お前ら、ほんと最高だよ」


 ひよりがそっと笑った。

「ありがとう。……みんな。愛してるよ」

それを合図に、ふわりと笑い声が広がった。


 真夏の夜空に、残り火のように――あたたかく、まぶしく。


              了


あとがき


 この物語の原型は、今から十年ほど前――まだ小説の構想ばかりを練っていた頃に思いついたものでした。


「夢を操る少女」というアイデアが、すべての始まりです。

虐待により昏睡状態に陥ったひとりの少女が、世の中への強い憎しみを糧に、他人の夢に入り込み、理性を少しずつ崩壊させていく。

その結果、夢に干渉された人間は無意識のうちに猟奇的な事件を起こしてしまう。

そんな不可解な現象に挑むのは、夢の中に自ら潜ることができる主人公――彼と「少女」の精神世界での対決を描こうとしていました。


 ただ当時は、文章を書くための時間も気力も、なかなか確保できず、アイデアのまま眠っていた企画でした。

けれども今は、AIという強力な相棒がいてくれます。文章の細部を共に組み立ててくれる存在ができたことで、構成と発想に専念するという、かつては叶わなかった創作のスタイルが現実になりました。

本作『どっぺるげんがぁぁ』は、そんな眠っていたプロットに、「ドッペルゲンガー」というモチーフを重ね、新たな形に再構成したものです。


 吸血鬼のような要素を帯びたユリという少女の危うさ、そして学生たちの友情や葛藤を織り込みながら、私自身が好きなテーマを惜しみなく詰め込んだつもりです。

特に、大人に頼ることなく、子どもたちだけが現実に向き合って闘う――そんな展開には、少なからず私の願望も込められています。


 大人の庇護のない物語は描くうえで難しさもありましたが、それ以上に、書いていて楽しい時間でした。

最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

――心からの感謝を込めて。

               

2025年7月     陵月 夜白

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どっぺるげんがあぁ ―彼女がくれた、もうひとりの自分とその狂気― 陵月夜白(りょうづき やしろ) @VAVA65

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