おかえりイボ痔さん

桜井もみじ☆

おかえりイボ痔さん

 オレはイボ痔。

 女のケツに帰ってきた。見慣れた女のケツの穴に帰ってきてやったのさ。頑張ったかいがあったぜ。今度はビー玉くらいのサイズがある。


 それは帰ってきてすぐの事だった。


 女はまた、あの肛門科の医者のヤローのところに行きやがったのさ。切羽詰まった顔しやがって、情けない女だ。

「先生、また出来たんです」

 そしてオレは引き裂かれる事になっちまったのさ。

 医者のヤローはオレに刃物を突き付けた。

「これは切らないとダメですね。すぐやりましょう」


 またかと、オレは恐怖した。

 でも今度は簡単に追い出されるつもりはないぜ。粘って粘って、女のケツの穴にしがみついてやると決めてたんだ。


 苦しかった。痛かった。つらかったさ。

 どうしてオレをこんなふうに引き裂いて、ケツの穴から追い出そうとするんだ。

 オレとまた、二十年一緒に居ようじゃねぇか。

 どうして今更、オレを追い出そうとするんだ。オレ達、兄弟じゃなかったのかよ。なあ、女。


 お前に分かるか?

 体を引き裂かれる感覚が。

 お前に分かるか? この苦しみ。

 どんどん内臓を奪われていく、この体。血を流して痛みに悶える、このつらさが。


 時は来た。

 最後の内臓をつまみあげられて、オレは引きずり出されるのが分かった。

 女は喜んだよ。俺がいなくなる事を心からな。

 ピンセットにつままれて、オレはゴミ箱に投げ込まれて行った。


 ぽろり。


 でもオレの内臓がまだ少し女に残っている。血を分けた息子さ。こいつが女の体の中で、大きく立派に成長する事を祈っている。


 女は最後にこう言った。

「さようなら、イボ痔さん」


 オレにはお似合いの最後だろ?


 こうしてオレは孤独になった。悲しいもんさ、一人ってのは。

 さようなら、便秘の女。いい加減、薬を飲めよ。

 オレとお前、また別々の道を歩むのさ。でも多分、道が一つになる日も近い筈だろう。

 それまで、さようならだ。


 女はもう一度呟いた。

「さようならイボ痔さん」


fine.

2025/07/23

桜井もみじ☆

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