第12話『2人のお願い事』
「はーい、それでは出発しま~す」
先生が出発の合図を出すと、運転手さんがバスを走らせる。
発車と同時に先生は車内にある無線機を取り、注意事項や集合時間などを生徒達に伝える。
『言うことはこれぐらいかな。着きそうになったらまた無線を入れるね〜』
やがて伝え終える。
その後はフリータイムなので皆到着まで友達と話したり、最近流行っている映画などを一緒に見るなどして、各々バスの時間を楽しんだ。
☆☆☆
バスが発車してから1時間半が経った。
先生が再び無線機を取り出したので、そろそろ現地に到着するのだろう。
その間、車内では音楽が流れカラオケ大会をするなどして大いに盛り上がった。
「……」
「……」
だがとある2席だけ全く盛り上がっていなかった。
言うまでもないだろうが、とある2席とは当然俺らのことだ。俺ら2人はバスが発車してから口を一切開いていない。
(はあ……。バカみてえだな俺)
心の中でボソッと呟く。
突然ではあるが、ここで皆に伝えておくことがある。
それはこの俺が、大馬鹿者だったということ。
以前座席が女子と隣になるのは修行と同じだと言ったが、あれは真っ赤な嘘であり、俺の杞憂だった。
もちろん発車する前は身体全身に緊張が走り変な汗もかいた。
だが藍田萌香は隣に異性がいるなど微塵も気にかけず、発車早々にダランと窓に身体を預け、携帯を弄り出した。
さらに途中からイヤホンを装着し、外部との接触を完全にシャットアウトしていた。
そして30分ほど経った辺りから感じ出した。過剰に意識した俺が馬鹿だったと。
そもそもコイツにとって俺は無害な男であり、居るようで居ない存在。
(もう、何も感じねえや……)
悟りを開いた俺は段々緊張が抜けていき、己に馬鹿という称号を与えたのちに無の境地へと達した。
「ねえ、なにをしているの? 早く降りてちょうだい」
「あ、あぁ。今降りる」
感傷に浸っていると、俺の気持ちなど全く知らないお隣さんが降りるよう促してくる。
どうやらバスが目的地に到着したみたいだ。
あまりテンションが上がらないが、切り替えて校外学習を楽しむとしよう。
バスを降り、先生から今後の流れを説明される。
説明し終えると、先生は解散の合図を送る。
校外学習は最初から最後まで班で自由に行動してよく、皆で一つの施設にお邪魔するなどの項目はない。
そのため、自分達で行く先と行き方を考える必要がある。
帰りはまた皆でバスで学校に戻るので、集合時間も考慮して計画を立てなければいけない。
「で、これからどうするの?」
「そうだなあ……」
現在の時刻は午前10時30分。
昼食にするには少し早いので、近くの観光スポットを巡るとしよう。
「お前、マジで何も考えずに来たのか?」
「ええ、そうよ」
「人任せ過ぎじゃないか?」
「文句を言いたいのなら、了承した自分に言いなさい」
そう言われたら、確かに俺のせいではある。
でもせめて、一つぐらい行きたい場所を調べて来ると思うのだが。なにせ俺らの班は2人しかいないわけだし。
まあ、こんなことを言っても我儘お姫様は絶対に調べないだろうが。
☆☆☆
「ハア…ハア…」
「なにしてるの? 歩くのが遅いわよ」
「ま、待ってくれ~~」
解散場所から30分歩き、俺達はとある神社に辿り着く。
お賽銭箱が置かれている本堂までは険しい階段を登る必要があり、自宅守護神の俺にはかなりハードだ。一応、中学の時はバスケ部だったんだけどな。
一方、藍田萌香は現役部活生というのもあって一切息が上がっていなかった。
やがて頂上に着き手水で身を清めた後、俺達はお賽銭を納めてお願い事をする。
お願い事を終え時計を確認すると、時刻は午前11時30分前だったので、そのままどこかで昼食を取ることにした。
「お前は何をお願いしたんだ?」
「話すと思う?」
「訊いてみただけだ」
「あなたが先に話してくれたら、私も話してあげる」
「そうか、じゃあ話させてもらうぜ。俺は──」
「!? やっぱり待って!」
しまった。藍田萌香はそんな顔をする。多分、俺がこんなに軽々話すと思っていなかったのだろう。
だが俺は静止命令を無視して話しを続けた。
ちなみに俺は神様に、『なんか良いことがありますように』とお願いした。
漠然としていて中身が全くないが、お願い事などこのくらいで良い。
願うだけなんでも叶うなら苦労はしない。
「はい、次お前の番な」
「待って! まだ心の準備が!」
この反応を見る限り、俺よりも具体的なことをお願いしたのだろう。
なぜこんなメリットのない博打を打ったのかは知らないが、やめてやるか。
「無理に言わなくていいぜ。察するに、他人に言うのは恥ずかしいんだろう?」
「だけど……」
「大したことのないお願い事だから俺は言ったんだ。別にお前のお願い事を聞きてえとは思っていない」
「……いえ、私も言うわ」
「だから俺は別に」
「自分の責任は自分で取らないと!」
鋭い眼差しで訴えかけてくる。
ほんっと、面倒なお姫様だわ。
計画を全部俺に丸投げしてくるし、変なプライドのせいで優しさを踏みにじってくる。
完全に俺、コイツの執事だな。
「私がお願いしたのは……」
すると急に、藍田萌香は語り始める。
恥ずかしそうにしてるし、ちゃんと聞いてやらねえとな。
「私は───てお願いしたの」
「悪い、大事な部分が聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「だから……クマちゃんのぬいぐるみが当たりますようにってお願いしたの!!!」
「クマちゃんの……ぬいぐるみ?」
「そうよ! 文句ある?」
「いや、ねえけど」
お姫様は堂々とした姿勢をしているが、頬を真っ赤くしている。
えっと……これは事実として捉えていいよな?嘘をついている可能性もあるが、演技で頬を赤くするなんて無理だろう。
「へえー、そういうおねいだったのかー(棒読み)」
返しがめちゃくちゃ難しい。
てっきり勉強や部活を頑張るとか、友達や彼氏を作るとか、そういう青春っぽいことだと思っていたが、全然予想の斜め上だったわ。
「なによ、おかしいかしら?」
お姫様は髪を指先でクルクルする。
分かりやすい奴だな。
「おかしいというか、お前っぽいなって思った」
「私っぽいってどういうことよ」
「だってお前、小型の動物とかそういう可愛いものが好きだろ?」
「!? どうしてあなたがそれを知ってるの!」
マジか。
あれを見せておいて、まだバレていないと思っていたのかよ。
言ってあげるべきかもしれないが、今回はやめておこう。
「俺にも優秀な情報網があるんだよ。てか当たりますようにって、くじ引きとかそういうのでしか手に入らないものなのか?」
「そうね。SNSの抽選でしか手に入らない限定グッズよ」
「……ぷっ!」
「ちょっと! なに笑ってるのよ!」
「悪い。まさか神社にまで来てそんなことをお願いする奴が存在するとは……ぷぷっ!」
我慢出来ず、思わず吹き出してしまう。
俺が笑ったことにより、藍田萌香の頬がりんご並みに赤くなる。
「別に可愛いものが好きな女の子なんて普通でしょ!」
「そうだけどよ。普段クールなお前が、神様にお願いするほど可愛いものに目がないと思うと、ギャップが凄くてつい……」
「!? もう! もうっ!!! 末代まで呪ってやるんだから!」
とんでもないことを言いながら、藍田萌香は俺の肩をぽかぽかしてくる。
こっちの方が、人間味があって良いな……。
そのあと俺達は飲食店に入り、昼食を取った。
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