第11話『無害な男』

 バスの座席決めがまずい理由、それはタイミングだ。

 現在クラスの皆は班のメンバーを決め、そのメンバーと固まって行く先を話し合っている。


 そのため、今からバスの座席を決めるとなると必然的にグループ内の人と席が一緒になる。そして俺の班のメンバーは藍田萌香ただ1人。

 つまり俺は、狭い空間で女子と隣り合わせになるということだ。


 普通の男子なら喜ぶだろうが、ぼっち陰キャの俺にとってはただの修行でしかない。

 くそっ!凌空が同じ班なら隣に座ってもらえたのに。何かこの状況を回避する方法はないのか?


 そうだ!1人席に座ればいいんだ!

 まったく、俺っていう人間は二コラ・テスラ並みに天才だな。


 他の奴に奪われないために、俺は早々に先生に報告しに行った。

 だが……


「ごめんね水城くん。1人席は荷物や他の引率の先生が座るから空いてないの」

「なっ!? そ、そうですか。なら仕方ないですね。大人しく諦めます」


 この瞬間、天才の発想は無きものにされ、俺は藍田萌香と共に座るのが確定した。


「ドス…ドス…」


 重い足取りで席に戻る。

 それから10分後、黒板にバスの座席と班の詳細が書かれる。


「一応全員決まったけど、みんなこれいいかしら?」

「「「はーい」」」

「じゃあこの座席とグループで決まりね~。チャイムが鳴るまで相談していいわよ~」


 誰も異議を唱えないので、先生は残りの時間を話し合いに当てた。

 はあ……。マジで俺、女子と座るのかよ。想像しただけで緊張してきた。


「どうしたのよ、浮かない顔して」


 溜息をつきながら椅子に座ると、藍田萌香がこちらを向き様子を窺ってくる。


「まさか私と座るのが嫌なの?」

「嫌ではないが、それに近いな」

は普通に私の横にいたじゃない」

「あの時?」


 濁した言い方をしてくるので俺は思考する。

 ………あ、思い出した。


「お前が俺の家にあそ──」

『ギロッ!!!』


 藍田萌香からもの凄い圧を感じる。

 「それ以上言ったらどうなるか分かってる?」みたいな目つきをしている。

 コイツと遊んだ話しは外で喋らない方がよさそうだ。俺の身のためにも。


「あの時はあの時だ。戦場が変われば状況も変わる。あと、その目はもうやめてくれ。心臓がもたない」

「……変な人」

「そんなことより、お前は俺と隣で嫌じゃないのかよ」

「……?」


 「?」じゃねえよ。

 藍田萌香はこてんと首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべる。


「どういうこと?」

「だってお前、普段男子を蔑むような目で見てるだろう? だから俺が隣だと不快じゃねえのかなって」


 俺が疑問に答えると、藍田萌香は目を細めてクラス全体を見渡す。


「……あなたの言う通り、私は男を蔑んだり嫌悪感を抱いてる。それも昔から。私から見たら、男なんて『歩く欲望』なのよ」


 え、そんな風に見られたの俺ら。めちゃくちゃヤバい生物じゃねえか。

 メンタルが持つか心配だが、最後まで話を聞こう。


「でも、あなたは少し違う。男なのは変わりないけど、嫌悪感や不快感みたいなものは一切感じない。あなたを一言で表すなら『歩く無害』かしら」

「そ、そうか」


 歩く無害。

 つまり俺は、藍田萌香にとってマイナスな影響を与えないが、プラスにも働かない存在ということ。

 喜んで良いの分からないが、歩く欲望よりは断然マシだろう。


「それは褒め言葉なのか?」

「さあ? どっちでしょうね」


 藍田萌香は頬杖をつきながら、ニヒッと意地悪な笑みを浮かべる。

 完全にバカにされてるな。

 てか、こんな小悪魔キャラみたいなことしてくるタイプだっけ。


「でも一つ言えるのは、あなた以外の男で、歩く無害の人に出会ったことがないわ」

「お姫様にそう言われるなんて、嬉しい限りです」


 俺以外に出会ったことがないなら、褒め言葉として受け取っておこう。

 その後6限目終了を告げるチャイムが鳴り、1日を終える。



    ☆☆☆



 校外学習当日。

 その日の空は見渡す限り青く、太陽が目に沁みる。

 集合時間は午前8時30分。俺はその5分前に、集合場所である学校に到着する。

 一本電車に乗り遅れたせいで、到着がギリギリになってしまった。


 外で出席確認を済ませ、バスに乗車する。

 ギリギリだったというのもあって、俺以外のクラスメイトはすでに自分の座席に腰を下ろしていた。

 皆が談笑している中、俺は指定された席まで足を運ぶ。

 えっと確か、俺の席は運転手側の前から7列目だったはず……


「ここか」


 自分の席に到着する。


「遅かったわね」

「電車に一本乗り遅れちまってな」


 そこにはすでに、藍田萌香が腰を下ろしていた。

 俺も座ろうとしたが、藍田萌香は通路側に座っていたので窓側に寄るか一旦通路に出るよう促すと、座席から立って通路に出た。

 俺は窓側か。まあどっちでも良いけど。

 席に座り、バスが出発するまで残り1分となる。


「やっぱ私、窓側がいい」


 シートベルトを着用し携帯を弄っていると、お隣さんからそんな要求をされる。


「はあ? なら最初から座っておいてくれよ」

「仕方ないじゃない。窓側に座りたくなったのよ」


 そんな強調しなくても……。


「しゃーねえな」


 面倒くさいが、俺は我儘お姫様の要求を呑み、座席を交代してあげた。



 


 


 


 

 

 

 


 


 

 


 


 

 


 

 

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