タイトルにある「石」とは道祖神のことで、本作の中では形状的にも象徴的にも「女性それ自体」を表しております(意味がよくわからん人は、とりあえず読み流してください w)。
ストーリー全体は過去編と現代編を交互に語る構成になっていて、過去編では源義経の正室であった静御前を主人公に、問題の道祖神がいかにしてその地に祀られるようになったかという経緯が示されます(と言っても、経緯そのものはあくまでサイドストーリーの末端部分ですが)。何しろ半ば伝説の人なんで、仮説に仮説を重ねた歴史テーマのエンタメフィクションではありますが、「もしかしたらこういう後半生だったかもしれない」と思わせられる程度には静御前関連の考証をしっかり固めていらっしゃる印象で、時代の栄光から転落した彼女が、己の生きざまをつかみ直して数奇な人生を歩んでいくストーリーは、それだけで歴史奇想小説の良作という感じがします。
そして、その静御前、及び彼女を巡る幾多の人々の魂が宿った(ような)形になってるのが問題の「石」で、現代編ではその石=道祖神と不思議な縁でつながれたある一家の女性たちと、その周囲の人々が織りなす、サスペンス絡みの群像劇が展開されます。
片や歴史上のセレブであるのに対して、現代編の主人公はいわば「市井の人」であり、普通ならどちらかがどちらかに食われそうです。それでなくても源平時代のロードムービーが、21世紀のドロドロ愛憎劇 笑 と調和するだろうか、と思いたくなりますが、これがまた実に何の違和感もなく一つの物語になっているのがすごい。多分、テーマ性の勝利でしょう。
では、そのテーマとは? と、ここからはみなさんが直接読んで確かめていただきたい。今世代の読者からだと色々とご意見も出そうな部分もありますが、これは作者・明日乃さんが、おそらくは本音で書いた「女の生と性」の物語であり、人間賛歌であり、時代と歴史を寿いでくれる一大叙事詩であると思います。
念のため書きますけれど、タイムトラベルとか、静御前の霊が現れるとかの安易なシーンは一切ありません。普通に現代小説として(つまり非幻想小説として)通用する範囲の文章で、それでも終盤では過去編と現代編が二重写しになってクライマックスを作っていくというすごい場面が出てきます。こういうのも一種のマジックリアリズムじゃないでしょうかね? まさに「魂の物語」の形容にふさわしい一作かと。とりあえずトラックに轢かれかけてタイムリープやっとけばいいと思ってるような"歴史ドラマ"制作にうんざりしている方々には、ぜひお薦めしたいです。
この物語は、過去と現在が交錯しながら、登場人物たちの葛藤を深く掘り下げていくミステリーです。
特に、いじめや家庭環境から逃れるようにテレビの世界にのめり込んだ少女・静佳と、過去のトラウマを抱えながら家族を守ろうとする静佳の娘・麻里亜の二つの視点が交互に描かれることで、物語に奥行きと謎が生まれています。
この作品は、1970年の大阪万博という高度経済成長期の日本を舞台にした静佳のパートと、現代を生きる静佳の娘・麻里亜のパートが対比的に描かれており、異なる時代背景の中で人間が抱える普遍的な孤独や欲望、家族の在り方が浮き彫りにされます。
カラーテレビがもたらす華やかさと、静佳自身の閉塞感とのギャップ、そして、麻里亜が実の父と過去の愛人との間で揺れ動く姿は、読者の心を強く揺さぶるでしょう。
また、物語の鍵となる「石」や「傀儡子」といった象徴的なモチーフが巧みに散りばめられており、単なるミステリーを超えた文学的な深みを感じさせます。
この作品は、人間の弱さや醜さ、そしてそれらを乗り越えようとする強さを、繊細かつ大胆に描いており、読み応えのある作品です。
ぜひ、手に取って、彼らの物語の真実を確かめてみてください!