Side:アークス(4)


 僕はフィオラがどうしてこんなことを言いだしたのか、理由を考え始めた。彼女があまり口に出せないようなことと言えば……何だろう。フィオラが自分に魅力がないと勘違いしてしまうような何か——。


「……まさか、僕が最近君を抱いていなかったから?」


 そう呟くと、フィオラは顔を真っ赤にして俯いた。僕は唖然として、じっと彼女の横顔を眺めた。


 確かに、僕は最近自制するようになっている。まず、フィオラの負担を減らすためにも、夜の営みは最低限にした。本音では毎晩彼女を慈しみたいが、そんなことをしたらいずれ嫌われてしまう。そう思って、添い寝だけに留めておいたのだ。まさかそれが、悪い方に働いていたなんて。

 僕はフィオラを包み込むように抱きしめて、赤くなった可愛らしい耳元で囁く。


「勘違いも甚だしいね。僕はずっと、君だけのことを考えているのに……。夜だって、隣で眠る君を見て、何度本能を抑えたことか……」


 赤くなって俯くフィオラの顎にそっと指を添えて、琥珀色の瞳を正面から見つめる。にこりと微笑むと、彼女は何故か体を震わせた。


「……あ、アークスさまは、その……わたしに会いに来てくださいませんでした。今までは毎日のように来てくださっていたのに……」

「まさか、それも? 僕は君が子供から告白されているのを見て、大人げなく言い返しそうになったから今日はそのまま帰ったんだ」

「……べ、別の女性と……手を……」

「握手だよ。求められたからしただけで、それ以外なんの意味もない」


 街で若い娘の手を取ったところを見て、フィオラは嫉妬してくれていたんだ。それがとても嬉しくて、僕は思わず笑みを零した。すると、彼女はむっとした表情を見せる。僕は笑いながら、愛らし彼女の頬を撫でた。


「ごめんごめん。あまりにも、フィオラが可愛くて。……前にも言ったけど、僕は愛が重いらしいから、それが原因でフィオラに嫌われたらどうしようかと思っていて。だから、最近はちょっと抑えるようにしていたのだよ」


 言い聞かせるようにフィオラの頭を撫でる。


「でも、それのせいで君に勘違いをさせてしまったのだね。じゃあ、遠慮なく僕は君に愛を与えるよ」


 そう言って、僕はフィオラの柔らかい唇に自分の唇を重ねた。最初は優しく、徐々に深くしていく。フィオラも必死に僕を受け入れてくれて、目を潤ませているのがとても可愛い。

 顔を離してフィオラの目元を撫でると、彼女は少し視線を下げた。


「……ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。ああ、でも……僕の愛を疑ったことは、ちょっと後悔してほしいな」


 もう一度口づけをして、フィオラを抱えあげる。彼女は僕の首に手を回して、僕の顔に彼女の顔を寄せた。


「わたしは、アークスさまのことを愛しています」

「……僕もさ」


 あまりにもフィオラが可愛すぎて愛おしすぎて、僕は理性というものを彼方に飛ばしてしまった。




 後日。拗ねたフィオラの機嫌を直す良い方法がないか友人に尋ねたのは、ご愛敬である。

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最強の魔法使いは、魔法が使えない少女を溺愛する ラム猫 @bungei80

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