第4話 オリエンテーション

「…これがフォレストバレー…なのか」

 目の前にはテマセクの街並みとはまた別世界が広がっていた。

 草原が広がり、虫の鳴き声が聞こえ、遠くの方には大きな滝と森らしきものが見える。

 虫の声に混じって、微かに滝が鳴っているのが分かる。


「は~い、まずはこちらからですよ~」

 一番近い場所にあったログハウスにお姉さんが入って行った。僕たちも続いて建物に入る。


 もうお昼前だからか人がまばらにいるだけだった。壁面にずらりと設けられたパネルがあり、皆、真剣な顔をして見つめていた。


「ここは、クエストを確認する場所になりますね~。パネルを確認して、受けたいクエストがあったら、そのクエストに手をかざして記録してくださいね~。記録したものを見るときは、スキルを見るのと同じでステータスボードを思い浮かべてくださいね~。

 記録したものと、同じものを納品した時点で、クエスト達成となりますね~。

 ようするに、早い者勝ちですね~。

 クエストは、迷宮内で達成できるものもあれば、迷宮の素材を使って加工したものを納品するという場合もありますね~。

 有名な職人さんだと、指名依頼などありますが、通常は多数供給なので、早く多く納めることができれば、それなりに稼げますね~。

 ただし、お持ちいただく際に品質が劣る場合などは、当然納品にカウントされませんのでご注意くださいね~」


 なんか随分癖のある話し方をするお姉さんだけど、要するに、採取や加工したときにクエストが残っていれば納品できるということかな。


「ああ、そうそう。迷宮会員にランクみたいなものはないのですけど、クエスト自体にランクみたいなものはありますので、討伐された妖魔とか、加工品の内容次第で、クエスト報酬の額が変わってきますね~。

 詳細は、クエストに書いてありますので、記録する際に、よく確認してくださいね~」


 職員は説明が終わったとばかりにドアを開けて、あぜ道を奥へと進み始めた。

 その後を追うようにぞろぞろとついて行く。そんな中、1人の少年が職員の隣に駆け寄っていき、何かを話しかけている。


 お姉さんが突然振り返って、

「質問がありましたが、クエストの失敗というものはありませんよ~。

 受けたいクエストは納品の前に記録しないといけませんが、記録したものを納品できなくても別に問題はありませんね~。

 クエストが記録されると、こちら側にどのクエストがどれだけ記録されたかが確認できるようになるんですね~。

 記録される数が極端に少ないクエストは、クエスト内容の見直しをするんですね~。そのために迷宮会員様に記録してもらいますね~。

 まあ、迷宮会員様もクエストを記録することによって、どこにいてもクエストの内容が細かく見返せますから、

 Win-Winの関係ということですね~。

 記録したものが、消えていたら、それはクエストが達成されたということですね~。でもですね、納品する際にパネルを確認して同じ種類のクエストが出ていれば、それを記録していただければ、無駄にせずに納品できますね~。

 残念ながらクエストが出ていなくても、迷宮ギルドの方で買い取りしますのでご安心くださいね~。報酬はクエストよりお安くなりますね~」


 お姉さんは言い終えると、方向転換して、今度は別の扉を開けて中へ入って行った。

 お姉さんに連れられて中に入ると、そこにはまるでカフェのような雰囲気が広がっていた。


「は~い、ここはギルドカウンターと、奥が解体所ですね~。

 採取、討伐してきた素材、加工品はこのカウンターにお出しください。

 素材には~、錬金術師が加工に使うものや調理師が食材として使用するものがありますね~。他にも~商人が素材や妖魔肉をそのまま欲しがることもありますね~。

 それぞれの内容は、クエストに細かく書いてありますので、間違えずに処理してお持ちくださいね~。」


 お姉さんは説明をしながら奥の解体所に向かっていく。

「討伐クエストも含めてですが、解体が必要な場合は、あちらの解体所で先に解体してもらってから納品してくださいね~。もちろん有料ですので、担当に金額を確認してからご依頼くださいね~。」


 外からは分からなかったけど、解体所とギルドカウンターは別棟になっているようで、中に入ると雰囲気がまた少し違った。

 大きな倉庫のような場所だけど、壁が植物で覆われていた。


 前の方がざわざわし始めた。何かと思い彼らの視線の先を確認してみた。


 解体所は6エリアに分けられており、それぞれのエリアで忙しなく解体職人が動いていた。それを人間の形をした植物らしきものが手伝っているという異様な光景だった。


「は~い。注目ですね~。

 うちの解体所では、『ボタニカルマン』という妖魔がアシスタントとして働いてくれていますね~。

 うちの解体師は調教師も兼ねていますね~。この子たちは従順に調教されているので、危険ではありませんね~」


『え、危険じゃない?? あんな大きな刃物を振り回して? 解体を依頼するときに近くに行って間違って僕が解体されるということはないのかな…。すごく怖いんだけど……。僕だけ?? 帰ったら師匠に聞いてみよう』


 踵を返したお姉さんの顔がなぜかドヤ顔だった。

 お姉さんはギルドカウンターの方にある階段を2階へ上がって行った。

 上がると幾つかの部屋とその奥にお店のような入口があった。


「これらのお部屋は~、商談室や、講習室、調べもの室、その他職員の部屋となっていますね~。

 後程、ここで講習をしますので、その際は、こちらのお部屋に集まってくださいね~。

 お昼は、奥のカフェでどうぞ~。

 今回は初回登録祝いということで、無料でランチプレートをサービスいたします。太っ腹ですね~。

 ではでは、私はこちらで失礼しますね~。

 皆さま良いランチを~」


 そういうと、お姉さんは片手を後ろに回し、もう一方の腕を横に差し出すと同時に、片足を軽く後ろに引き、背筋を伸ばしたまま優雅にお辞儀をした。

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錬金薬術師はSランク ~世界の迷宮を探索しながらご当地妖魔を倒す~ @nekobosu

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