表題がいい。恋なんてそんなものじゃないかとも思わされるし、恋があることで『あなたが好きな私』を好きな、あなたの存在や誰かの存在も生まれるかもしれないと短歌を全て詠み終え考えました。
恋の楽しさや嬉しさの一方で、切実さや切なさなども描かれる作品群は、どれも作られた言葉ではなく身体性や生命を感じさせる実体感があります。【救われた〜】で始まる一首からは恋の愛らしさと我儘さを感じますし、【棺桶に〜】が初句の作品からは可愛い中にきちんと毒を盛り込んでいて、【「楽しいね」〜】の短歌には溢れる吐露から愛と本意が伝わります。
他にも【あなたとの〜】や【綺麗だと〜】など様々な色の作品が楽しめるけ中で、最後の短歌は静かに終わって余韻がある。【更地みて〜】で忘れたいという言葉を綴るのが、素敵な締め方だと思いました。
大事な小物入れにそっとしまっておきたい作品でした。おすすめです。
タイトルを見て、上から順に歌を読んでいく。
一つ一つ切なさが胸の内に生まれ、登ってはいけない階段を上っているような気がしてくる。
絡まった糸が簡単には解けないように、自分自身が抱いていた好きの根源さえも見失う。
好きという表面に隠された意図に気が付くことが幸せなのか、そのまま溺れていくことが幸せなのか。
眼前に広がる空の色が教えてくれるのは「私」の心象風景なのかもしれない。
『更地見て「ここ何だったっけ?」と言うように忘れたいのにあなたのことも』
「忘」という字と「あなた」という言葉の距離感。
もし四句と結句の順番を入れ替えるのなら「あなたのことも忘れたいのに」。
「忘」と「あなた」の間には「の・こ・と・も」で四音。
『忘れたいのにあなたのことも』が作り出す「忘」から「あなた」までの間は「れ・たい・の・に」で五音。
この順番にすることにより生まれる一音。
この小さな時間がとても大きい。
読み味に余韻を残すことだけにとどまらない、連作のラストを飾るに相応しい想いが込められているのだと思います。
素晴らしい作品をありがとうございました。