そんなバナナ

sorarion914

BA-NA-NA

「じゃあ俺、先に行って準備してるわ」

『悪いな。頼むわ』



 俺は電話を切って、友人宅へ向かって歩き出した。

 社会人4年目。

 大学時代の仲間と一緒に、今も時折集まって飲みに行ったりするのだが、最近は宅飲みするのが定番になりつつある。


 店で飲むより安価で済むし、他の客に気を使わずに済む。


 なにより、終電を気にせず飲めるのがいい。

 いざとなったら雑魚寝で始発を待てばいいのだ。


 集まる面子はいつも一緒の男4人。


 俺と同期の山本と関口。それと一個下の後輩、堀田。

 大体いつも山本の部屋に集まって、鍋パーティーだのなんだの……理由を見つけては集まるが――ようは、酒さえ飲めればなんでもいいのだ。


 今日は今日で、俺の実家からカニが送られてきたので、みんなでカニパーティーをしようという話になり、山本の家に集合――となったのはいいが……


 肝心の山本が仕事で少々帰宅が遅れる――という連絡が来たため、俺が先に行って準備をしておくことにしたのだ。


 皆それぞれ働きに出ているため、学生時代と違って予定を合わせるのは難しいが、宅飲みの利点はそういう突発な事態が起きても店に迷惑が掛からない点にある。


 俺は念の為、関口と堀田にも山本が遅れる旨を伝えようと、スマホでメッセージを送った。


『山さん、仕事で送れるから先に部屋へ行って準備してるよ』



 俺はそれだけ打ち込むと、賃貸マンションの階段を上がった。

 山本の家には何度も出入りしているので、合鍵がどこに隠してあるかも確認済みだ。

 勝手知ったる友人の部屋。


 俺は、隠し場所から鍵を取り出すと、


(こんなことが出来るってことは――さてはアイツ、まだ彼女いないな……)


 と思って苦笑した。

 女がいたら、自分の留守中に勝手に部屋へどうぞ――とはならないだろう。


(これが出来なくなるのは、山本あいつに女が出来た時だな……)


 そう思うと、嬉しいような寂しいような、複雑な気分になる。



 俺は鍵を開けて、ドアを開いた。

 そして――――





「……」





 ほんの一瞬。

 思考が停止した。





 だが次の瞬間。

 俺は反射的にドアを閉めると、慌てて階段を駆け下りた。

 一気に一階まで駆け下りて、表通りまで出る。


 心臓が、バクバクと飛び跳ねるように動いていた。


(なんだ?!)

(今の、なんだ!?)


 早鐘のように鳴る鼓動に、呼吸が乱れる。

 あまりにも動揺した為か、カニの入ったビニール袋を部屋の入り口で落としてしまったようだ。


(落ち着け――まずは落ち着け――)


 冷静になろうと、必死に深呼吸を繰り返した。

 フーフーと何度も息をつき、ちらりと山本の部屋を見上げる。

 3階の角部屋。

 山本は不在のはずだが明かりがついている。


 そう。

 




(何かの見間違いだよな?だって――、いるわけないじゃん)



 ひょっとして。

 これはドッキリだろうか?


 俺はそう思って考え込んだ。


 さっきのは、関口か堀田が事前に打ち合わせして、俺を驚かせるために準備していたのではないか?

 もちろん、山本もグルで。


 俺が血相変えて逃げ出すのを、ひょっとしたら動画にでも取って、あとで笑ってネタ晴らしでもするつもりじゃないだろうか?


「――」


 そう思うと、俺は少し冷静になってきた。


(そうだ。きっとそうだ!だってあんなのが部屋にいるなんて、あり得ない!)


 俺はだんだん腹が立ってきた。


「チクショウ。やってくれたな」


 俺は再びマンションの階段を上がると、部屋の前で立ち止まった。

 戻ってくると見越してか、表に出てくる素振りもない。

 再度ドアを開けて驚く俺を笑うつもりか?


「あのなぁ……もうバレてんだよ。二度目は面白くねぇぞ」


 俺はそう言いながらドアを開けた。




 すると目の前に、は立っていた。

 器用に、剥けた2枚の皮を支えにして――










 巨大なバナナが。








「カニ、ワスレテーノ。コレ、アナターノ?」

「――――」



 更に剥けてる2枚の皮を、手のように使いビニール袋を差し出す。

 俺は言葉もなく、目の前の喋るバナナを見つめた。


「カニ、タベテーノ。ハイルーノ」


 バナナが手招きしながら部屋の中に誘う。

 動きが生々しくて、とても着ぐるみとは思えなかった。

 それに、この強烈なバナナ臭。


「スワリーノ。カニ、タベテーノ」

「……あの」


 あまりの出来事に、思考が追い付かない。


「スワリーノ。スワリーノ」

「すみません……あの……」



 ――これは、どう見てもドッキリじゃない。

 目の前にいるのは、


【等身大のリアルバナナ】だ。



「あの、ここは……友人の部屋なんですけど……あなたは、一体――」

「ユジーン?オォ……ユジーン」


 なぜか頭を抱えるバナナに、俺はふと部屋の隅を見た。


 そこに、脱ぎ散らかしたような服が置いてある。

 2組――その中に見覚えのあるトレーナーがあった。


「あの服……前に堀田が着てた」

「ユジーン。スグーノ。ジキ、ムケーノ」

「は?」


 俺は、隣の部屋から聞こえてくる奇妙な音に耳を澄ました。


 床をこする様な音。

 なにかを引き裂くような鈍い音。

 その音と共に、「グァァァァ……」という、低い唸り声が響いてくる。


 俺は、急に気になってスマホを見た。


 先程、関口と堀田に送ったメッセージを確認する。

 いつのまにか返信が来ていた。



『一足先に着いたんで、2人で先に入ってるよ』



「関口……堀田……?」

「カワ、ムケーノ」


 バナナがそう言って、隣の部屋の襖を開けた。

 するとそこに、等身大のバナナが2体。

 剥けた4枚の皮を手足にして、モソモソとこちらに歩み寄ってきた。



「うわぁぁぁぁ!!」

「オドロカーノ」

「マッテターノ」


 バナナの皮を両手のように差し出して、俺の方へ迫ってくる。


「嘘だろぉぉ!?どういうこと!?」

「ハヤーク。ハヤーク」

「カニ、タベーノ」

「わぁぁぁやめろぉぉぉ――――――ッ!!!!」




 俺は悲鳴を上げて部屋を飛び出し――かけた所で、帰宅した山本と鉢合わせして、危うくぶつかりそうになった。


「おっと!あぶねぇ、どうした?」

「あ!あぁ――山さん!!」


 俺は救われた様な気持ちになり、しどろもどろになりながら部屋の奥を指差した。


「バ、バ、バナナ――バナナが――でっかいバナナが――」

「おい……落ち着けよ」

「これが落ち着いていられるかよ!でっかいバナナが喋って――関口と堀田が……」


 俺の言葉に山本は笑うと、「大丈夫だよ」と、なぜか余裕の顔して部屋の中に入っていった。


「おい――」

「心配すんなって。だから」

「え?」


 バナナたちは、フラダンスの様に皮をヒラヒラ泳がせながら、部屋の中に突っ立っている。




「紹介するよ。コイツはムケール星から来たナバンナ人。今、地球へ観光に来てるらしい」

「はぁ!?」

「侵略目的じゃないから安心しろ。こういう友好的な連中は、気づかないだけで大勢いるんだぜ?な?ナナコ」

「ナナコ?」


 ナナコと呼ばれたバナナは「ムケーノ♥ムケーノ♥」と喜んでいる。


「コイツの趣味がちょっと変わっててさ。それが……どうも……その……らしい――剥けてないモノを見ると、剥かずにはいられなくなるみたいなんだ……」

「……」


 俺は言葉を失くした。





 それってつまり――アレか?





「ホーケーホーケー!」


 サイレンの様にナナコが叫んだ。


「剥くってソレを!?その皮を!?でも……バナナになって剥かれてどーすんだよ!?」

「大丈夫だって。明日には元の姿に戻るから。――な?」

「ホーケームケーノ!」


 大喜びするナナコと山本に、俺は耐え切れず絶叫した。




「そんな……そんな……」







「そんな、バナナァァァァァァ――――!!!」
















 その後。

 山本と、3本の巨大バナナと一緒にカニ鍋パーティーをしたことを。




 俺は生涯忘れない。





【以上、お粗末!!】




 ※(´_ゝ`)ご拝読ありがとうございます。

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