エピローグ

第14話 影で世界を見守る「悪役」

 断罪から数年の月日が流れた。


 私は、王国から遠く離れた、人里離れた山奥の小さな屋敷で暮らしていた。

 周囲を深い森に囲まれたその場所は、かつて私が周回の中で見た、孤独な死を迎えた場所によく似ていた。


 しかし、今の私には、その場所が「独りぼっち」の場所ではないことを知っている。


 ある日の午後。

 コンコン、と、屋敷の扉が静かにノックされた。

 扉を開けると、そこには、フードを目深に被った二人の男と、一人の女性が立っていた。


「久しぶりだな、ヴェラ」


 フードを脱いだのは、兄ルシアンだった。

 公爵家当主としての威厳を纏いながらも、彼の表情は以前よりずっと穏やかだ。

 彼の腕には、この屋敷で暮らすための物資が抱えられている。


「ヴェラ様! お会いしたかったです!」


 もう一人のフードの人物が、私に駆け寄ってきた。

 王子レオンハルトだ。彼は、王子の身分を隠すために、変装してここまで来てくれたのだ。


 そして、最後に、リリアが私の手を優しく握りしめた。


「……大丈夫だった? 体調は崩してない?」


 聖なる力を失い、ただの女の子になったリリアは、私の顔色を心配そうに覗き込む。


 私は、三人の顔を一人ひとり見つめた。


 彼らは、私の正体を誰にも明かすことなく、定期的にここを訪れてくれる。


 ルシアンは、公爵家の権力を使って、私が世間から忘れ去られるように計らってくれた。

 レオンハルトは、王子の立場から、私の名誉を密かに守り続けている。

 そして、リリアは、私が独りぼっちにならないように、私に「居場所」を与えてくれている。


 彼らは、私が「悪役」として生きることを受け入れた上で、それでも私を信じ、私を支え続けてくれた。

 これこそが、私が何周もの人生をかけて、ようやく見つけた、かけがえのない「居場所」だった。


 私は、静かに微笑んだ。


「ええ、大丈夫よ。この世界は、平和?」


 レオンハルトは、私の問いに力強く頷く。


「ああ。君が守ってくれたからな。……君こそ、この世界の真の英雄だ」


 その言葉に、リリアも力強く頷いた。


 私は、ルシアンが持ってきた物資をテーブルに置きながら、窓から見える森を眺める。


「私はこの世界の『悪役』として生まれた。ならば、この力で世界を救うのも、私という『悪役』の役目だわ」


 私の言葉に、ルシアンは静かに頷き、レオンハルトは誇らしげな笑みを浮かべ、リリアは私の手を握りしめた。


 私は、もう独りじゃない。


 誰にも理解されない「悪役」という役割を背負いながらも、私には、この世界で「私」として存在できる、かけがえのない場所がある。


 それは、偽りの笑顔も、仮面も必要ない、心から安らげる、温かい「居場所」だった。


 私は、彼らと共に、満ち足りた笑顔で、夜空に輝く星を見上げた。

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断罪された悪役令嬢は、世界を救うために「真の悪」になる ~何周目かの人生で、ようやく見つけた私の居場所~ ましろゆきな @yukkosak

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