「あ」と3年2組
日月のぞみ
あと3年2組
魔界。そこはかつて悪魔の巣窟、闇の世界と呼ばれた場所。
そこに住まう者にはあるルールが課される。
ルールその一
此処に住まう者を悪魔と呼び、その階級を七つに分ける
ルールその二
位の高さによって悪魔の使える力は決まる
ルールその三
位の高さによって名前の文字数は決まる
ルールその四
昇格には一定以上の上位悪魔から出された試験を通過する必要がある
そして、僕こと『あ』は七とある階級の内、最下位である『怠惰』の位に位置する悪魔。
もちろん最下級なので名前は一文字だ。
識別しにくく、悪目立ちする。
小さい時は常に「あ」が三人は居たものだ。
そして、そのうちの誰かが強い悪魔に虐げられてた。そんな忌まわしき名だ。
しかし、そんな名前とも今日でおさらばする。
「だって…だって…」
ここ、人間界にある
「晴れて二ツ名、『嫉妬』の位に昇格…!」
「よっしゃぁ! やってやるぞ」
「『あ』よ、そんなに焦るな」
「失敗したらまた最初からだぞ」
いま僕に話しかけてきた一円玉サイズの彼は師匠であり試験官の『来魔』さんだ。実力は既に昇格レベルに達しているのだが、なぜか毎年不合格になる。
そのせいか最近は試験官をして点数を稼いでるコスい悪魔だ。
ちなみ位は二ツ名『嫉妬』であり、名前は読んで字の通り『来』に『魔』と書いて『くま』と読む。が、皆から愛称をこめて『クルマさん』、『(暴食なる日は一生)来ん魔』と呼ばれている。
「いいか? 『あ』今までの試験を乗り超えての最終試験、ここでミスれば今までの努力がパーになる」
「……」
「あんまり言いたくないが、お前は若い…というか若すぎる」
「今年受かれば最年少合格者だぜ?」
「だからこそ他とも差があるし、普通に受けりゃ今回受かる見込みは…」
「み、見込みは…?」
「0%だ。」
………知ってはいたが、この…この…
「おいおい、そういう顔させんのはこの学校のガキにしろよな?」
「それに人の話は最後まで聞け」
「え?」
「なにか工夫をしなきゃ、お前は受かれやしない」
「…だから、俺がその"工夫"ってヤツ見せてやるよ」
「く、クルマさん…!」
「ありがとうございます!!」
「へへっ、礼は受かってから言いな」
「じゃっ、見てろよ?」
「ちっちゃいから見えない…」
「おーい! 『あ』聞こえてるか?」
「はっ、はい!」
「今から俺が一人を早退させる」
「見えにくいだろうからついて来い」
「で、でも…僕体大きいし、見えちゃうんじゃ?」
「あー、言ってなかったか?」
「儀式でもしない限り人間からお前は見えないぞ」
「え? そうなんですか!?」
「ただし、物には注意しろ」
「触れたら動くし、それは人間にも感知できる」
「なるほど」
「話が逸れたな、生徒の席順と名前は頭に入ってるか?」
「…大体は」
「よし、じゃあ
「教卓から見て一番後ろ、入り口から二番目の席に居る」
「了解であります」
「え〜っと、うん…多分、了解!」
「……始業までには来いよ」
◇
始業のベルが鳴る頃、
「お、来たか」
「来ました!」
『あ』は柔らかく微笑むと、ビシッと敬礼した。
「早速だが力の説明をしよう」
「今回はお前の為に『怠惰』級が使えるものに絞ってな」
「お願いします」
「『怠惰』の力は大きく分けて三つある」
「一つ目は…―」
「このように行動を放棄させる力」
「本当はこの力で学校生活自体を放棄させるのがこの試験の合格方法なんだが…」
「僕の力じゃ…まだ、無理、、ですね」
「そ、だから二つ目の力」
「解除の力」
「自分でかけた力は自分で解除できる。当たり前だな」
「…? はい、そう…ですね?」
「わかんないか?」
「これ、何の役に立つんですか?」
「そうだな〜…さっきまで強制的に無気力状態にされてた奴がその時の記憶を持ったまま元の状態に戻る」
「どうだ、ヤバいだろ?」
「…? いまいちピンとこないです」
「…う〜ん」
「じゃ、三つ目な?」
しばらく経つと、
「これが三つ目、誘導の力」
「ざっくり言うと相手の意思を動かす力だ」
「ただし、そいつが少しでも思っている事じゃないと使えないし、あくまで誘導。 決めるのは本人自身だ」
「というと?」
「例えば、100万円のゲームがあるとしよう。 それを少しでも欲しい奴ならこの力でそそのかす程度はできるだろうな」
「が、『ゲームなんかに一ミリも興味がない!』なんて奴にはこの力は通じない」
「なるほど…」
「使える、かも」
「かもじゃなくて使えるんだよ」
「最後にだ、この力を組み合わせると…」
…、…、、…、、、数秒も経たないうちに
「まずは放棄の力、椅子に座るのを放棄させた」
「そして…この行動にざわつく教室で解除の力を使う」
ハッと正気を取り戻した
「こうなったら誘導の力だ」
「そうだ、熱でも出た事にして早退しよう」
と囁き、
キーンコーンカーンコーン
スピーカーが終業を告げると、すぐさま
「窓を見てみろ」
「あ、
校門へと小走りで向かい、次第に小さくなる彼女の赤いランドセルを見送ると、得意げな顔で
「どうだ? お手本は」
「大っっ満足ですよ! ありがとうございます!」
「へへっ、じゃ、今度はお前の番だな」
「…頑張れよ!」
「…っはい!」
あと…あと3年2組だけなのだ。
この試験さえ乗り越えれば、僕は昇格する。
昇格後の名も
もらった名を名乗るためにも、この試験に合格して、そして…絶対、魔界最年少の二ツ名、『嫉妬のアカ』になってやる!!
「あ」と3年2組 日月のぞみ @hituki-nozomi
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