第46話:エピローグ(後編)

かなり残酷・残忍な表現があります。

ご注意ください。

───────────────




 時を少し戻し、ヤルノ最期の日。

 ベッドの上でヤルノは恐怖に怯えていた。

 暗殺者はまだ現れていない。

 では、なぜか。


「な、何でお前が?!」

 叫んだヤルノの目の前には、ティニヤが浮かんでいた。

『本当に、何故なのかしらね』

 首を傾げたティニヤは、本当に不思議そうにしている。

『幸せな未来を作り上げて、満足して天国へ行くはずでしたのに……』

 ティニヤの視線が下がる。

 瞳には憎しみしか無い。


『やはり元凶クズの最期を見ないと駄目なのかしら』

 それにしても、とティニヤは周りを見回す。

『あれから何年も経っているようですね。ここは国王の寝室ですよね?』

 寝室と言っても、王妃と閨を共にする部屋ではなく、私室と言った方が近いだろう。

 ベッドは独り寝用であり、衝立の向こう側には応接セットがあるはずだ。



『微笑ましい子供達とマルガレータと曾祖父様を見て来て幸せな気分なのに。まさかが死ぬまでずっと憑いてなければいけないのかしら? 最悪ですわね』

 ティニヤの存在は無かった事になったのではなく、マルガレータが幸せに暮らす世界が別に存在しただけで、不幸なティニヤが居る未来は存在した。


 平行世界は、無くならない。


『それとも私にを呪い殺す力でも有るのかしら』

 ティニヤが口角を上げた時だった。

 庭に面する側の窓が静かに開いた。

 黒い影が音も立てずに侵入してくる。

 ティニヤの視線が自分を見ていない事に気付いたヤルノは、その視線を追った。


「ヒッ!!」

 ヤルノが短い悲鳴を上げた事に、侵入者は気が付いたようだ。

 舌打ちをし、素早くベッドへと近付く。

「騒がなければ、楽に殺してやろう」

 全身黒ずくめの男は、ベッドの上のヤルノへと乗り上げた。


 布団の上から相手の膝で両肩を抑えられたヤルノは、身動きする事が出来ない。

 足をバタバタする事くらいは可能かもしれないが、それで助かる事は無いだろう。

 それくらいの判断は、ヤルノにも出来た。


 暗殺者が手に持った短剣を振りかぶる。

『楽に殺して欲しくないのに……』

 突然、その耳に女の声が聞こえた。

「え?」

 驚き動きを止める暗殺者の目の前に、今までいなかった存在が浮いていた。

 目が合い、焦る暗殺者に、ティニヤは笑い掛けた。



『あら? 私が見えますの?』

「ティニヤ様?」

 暗殺者はティニヤを知っていた。

 その目には嫌悪や侮蔑などはなく、むしろ同情や親しみに近いものがある。


「俺はリエッキネン侯爵家の血筋になります。マルガレータ様の親族でした」

 マルガレータが処刑されたのに、リエッキネン侯爵家が処罰されないわけがなかった。


「我が一族は、マルガレータ様を私利私欲で利用した王家を許さないと誓い、裏の世界へ身を投じました。その為ティニヤ様の話が他人事には思えなくて……」

 ヤルノの上で、暗殺者とティニヤの会話は続く。

 どう考えても、ヤルノにとって良い方向へは転がらないだろう。



「どこを刺しますか?」

 暗殺者の目が弧を描く。

 笑っているのだろう。

『そうねぇ、まずは動けないようにする? あぁ、それか利かん坊なムスコからお仕置かしら?』

 ティニヤの視線がヤルノの下半身、特にを見た。


『本当に不愉快で、最悪の時間だったのよ』

 ティニヤが溜め息を吐き、聞いてくれる? と暗殺者へ問い掛ける。

「朝までは長いです。お話を聞かせてください」

 暗殺者は、ティニヤの視線の先へと短剣を振り下ろした。


 ヤルノの悲鳴が響いても、誰も助けには来なかった。



「あれ、動かなくなりましたね」

 暗殺者が言うと、ティニヤはヤルノの顔を覗き込む。

『眼球が動かなくなったし、終わりかな』

 満足そうに微笑んだティニヤは、暗殺者へと顔を向けた。


『ありがとうございました。これで、本当に心残りはなくなりました』

 ティニヤが光に包まれ、端から粒子になり崩れて消えていく。

「どういたしまして。俺も、多分マルガレータ様も、満足です」

 暗殺者の言葉に、ティニヤは少しキョトンと目を大きくしてから、大輪の花のように笑った。


『えぇ、そうね。きっと彼女も満足してるわよ』

 その言葉を残し光は消え去り、静寂と闇だけが部屋を満たしていた。

 暗殺者は、来た時と同じように静かに去って行った。




 翌朝、ヤルノを起こしに来たのはメイドではなく、確認の為の騎士だった。

 凄惨せいさんな現場に慣れているはずの騎士でさえ、一瞬うっと声を出すほど、その死体は無惨なものだった。

 どれだけの恨みが込められているのか。


 両親である前国王夫妻が地方に居た為、遺体の確認には妻であり王妃であるメディが呼ばれた。

「ひいぃぃい! こんなん見てもわかんないよぉ」

 遺体を見たメディは泣き叫び、自室へと逃げて行った。


 その後、自分も同じ目に遭うのでは? と、心を壊していった。

 そこまで計算してメディに遺体をみせたのかは謎である。




 終

─────────────────

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これで、本当に終わりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の未来を知るあなた 仲村 嘉高 @y_nakamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画