交錯する能力者たちの思惑と憂心の向こう側
今日も真歩路は図書館にいた。
最近は勉強より調べ物に力が入っている。
「やっぱりシティの歴史を確認しておかないと」
シティの資料があるコーナーにいき、特にシティホール近くの昔の写真などが載っていそうなものを探しているとドンという音がした。
近くで女子学生が持ってたカバンを落としたらしい。
近くにいた学生が何かカバンから出たものを拾ってあげてたようだ。
「…わたしも拾ってもらったな…」
入学したばかりで荷物は多いし、校内もまだ地図見ながら歩いていた頃だった。
図書館に入って目的のビデオルームへ行く途中、少しの段差に
すぐには立ち上がれずにいると、
「慌てなくていいからね。 僕が拾ってあげるから」
そう言って自分の荷物や本を床に置いて真歩路の荷物を拾ってくれた。
「すみません」
「1年生だよね?この時期みんな大きなカバン持ち歩いてるから」
「はい。 あっすごく綺麗ですね」
「ああ、これ?僕が″影″をイメージしてデザインした
「そうなんですか!深い青色が金色と混ざりあっていてすごく幻想的です」
「気に入ってくれたならあげるよ。作品を褒めてくれたお礼に」
彼は栞を渡すとどこかへ行ってしまった。
あのときもらった栞は水色のポーチの中にある。
まだ友達もできていなかったときにもらったもので、真歩路にとっては大切な思い出の品となった。
そして、この出来事も栞のことも誰にも話していない。
************
ぼくは悩んでいた。これからどうすればいいのか。
いつも帰りがけに行くコンビニによって夕飯のお弁当をみているとき、店員に声をかけられた。
「悩んでるね。 僕が力になるよ」
「えっ…あー…これでいいかな。 なんかいつもすぐに決められなくて」
「そうみたいだね。 でも僕はお弁当のことを言ってるんじゃないんだけど」
「お弁当じゃない?」
「きみの生活に影響を与えている人たちのこと」
「影響って…!?まさか店員さんも…」
「勘がいいね。 僕も力を持つ者なんだ」
コンビニの裏側にあるアパートに彼は住んでいると言った。1時間後に仕事が終わるから来てほしいと言われ、ぼくは約束した。
彼は理音と名乗った。2年前にシティ大を卒業したという。環境学部で学び、今は社会環境に関する考えをまとめている傍らでコンビニの仕事もしているようだ。
「きみの状況について話す必要はないよ。僕はほとんど全てわかっているから」
「わかってるって…悩みもわかるってことですか?」
「きみは自分がどうすればよいのかわからない」
「…なぜわかるんですか?」
「それがきみの宿命だから」
***********
「きみは能力者ではないけれど、特異なものを感じる力があるんだよ」
「特異なもの?」
「普通の人には出来ないツアー体験をしたよね」
「疑似体験ツアーですか?」
「未来体験ツアーだったよね。 でもあれはきみが感じる力があるから出来たんだよ」
「…気になってることがあるんですが」
「流果さんのことかな?」
「実在するんですよね? 真衣さんや真湖さんは連絡取れるけど…流果さんはわからない」
「彼女の存在は感じる力のある人ならわかる。また、彼女自身がアピールすることで気がつく人はいる」
ぼくはどうすればよいのか聞いた。
「きみは選ばなければならない。流果さんが願う未来か、真湖さんの望む世界か」
「選ぶって…」
「きみがどちらの声を聞いて動くのか。現在の状況から言うと、真衣さんからツアーを企画するように言われてるよね?それを月島さんと考えるのが流果さんの側。その企画をしない、流果さんを探さない、きみがこれまでしてきたこと、望んでいたことをするというのが真湖さんの側」
「あの…月島さんは?ぼくと同じですよね?」
「彼女は選べない。 きみの選択によって彼女の役割が変わる」
「ぼくが決めるということは、まだその先は決まってないんですね?」
「完全にはね。 でも時間はあまりないよ」
「えっ…?」
「時は流れてる。 そして彼女たちはこの間も動いてる。 自分たちの望む未来のために」
「…時間がきたら決まってしまう?」
「そうだね」
「どちらかになるってことですよね?」
「きみが何もしなければね」
ぼくは寮に戻り最後に言われた言葉を考えていた。
「最後に1つアドバイス。 きみが選ぶなら、それはきみの望むことになる。 それが以前と違っていたとしても、周りの影響によって変わったとしても」
**************
ぼくは1人では決められない。いつも月島さんと話して決めていた。そしてそれはぼくの希望でもあった。だから…ぼくは相談しようとメールした。
図書館のいつものフリースペースへ行くと、月島さんはいくつかのファイルをテーブルに出していた。
彼女はぼくを見るなり手招きした。
「ちょうど良い時に連絡もらえてよかったよ」
「何かあったの?」
「能力者のことやシティの歴史なんかを調べてたの」
「えっ?それじゃ何かわかったってこと?」
「もちろん!まず能力者のことね」
月島さんはそれからいろいろわかったことを話してくれた。能力者はこの世界に普通に存在しているが、誰でも認識出来るわけではないことや、シティだけでなく町の中には能力者のエリアがあり、その場所も認識出来る人は入ることが可能らしい。また、能力者もこの世界で生活している人と、もう1つのエリアで生活している人がいるという。
能力によって能力者同士の関わりかたも違うらしい。真衣さんや真湖さんはこの世界で生活しているから能力に関係なく関われる。でも、流果さんはもう1つのエリアにいるため、彼女が関わろうとしなければ会うことはない。真衣さんは流果さんを感じることが出来るけど、流果さんが会おうとしなければ会えない。真湖さんは感じるだけでなく伝えることも出来るのかもしれないという。
月島さんは手書きの相関図をぼくに見せた。
「これを見るとわたしたちの状況がわかると思うの」
「そうだね。よくわかる。でも…ぼくたちはどうしたらよいのか」
「真湖さんの意見ははっきりしてるのよね」
「そう、流果さんと関わる前と同じようにすればいいって話だね」
「うん。で、真衣さんは…多分特にない」
「ない?ツアーを企画してって話は?」
「流果さんの思い?を感じてわたしたちに伝えただけなんじゃないかなって」
「…あーなるほど。自分の意見じゃないってことだ」
「そういうこと!」
月島さんの話を聞いた後、ぼくは理音さんのことや言われたことなど出来る限り詳しく話した。月島さんは途中確認しながら最後まで聞いていた。
「やっぱり!やっぱりそこがわからない」
「えっ?」
「なぜ流果さんはわたしたちを仲良くさせたいというのか。仲良くないと困ることが未来にあるって言うならわからなくはないけど、それが流果さんとどういう関係があるのか全く見当がつかない」
「…そうだね。確かに流果さんにとって都合の悪いことが未来にあるというならわからなくもないかな」
「それによってわたしたちも変わるでしょ?」
もしかして、真湖さんならわかるのかなと言うと、すぐに連絡をとろうとなった。
それがわかれば自分たちも決められるよと彼女は言った。
************
「まさか2人でくるとはね」
校内カフェテリアにいた真湖さんのところへ2人で行くと彼女は言った。
「どうしても直接聞きたくて」
月島さんが言うと、どうぞと近くのイスを勧めてくれた。
「あー聞きたいことだけ言ってくれればいいからね」
月島さんは真湖さんが流果さんと会わずに意思の疎通が出来るか、流果さんはなぜわたしたちを仲良くさせたいのか、そうならないとなにか不都合なことがあるのかを聞いた。
「わたしが聞いたり伝えたりすることは出来るけど、彼女は出来ない。 彼女を認識出来る人は少なく、2人は彼女にとって特別な存在。こちらの世界と関わりたいから2人と仲良くなりたい。2人の仲が悪いとこちらの世界と関わりにくくなる。未来を見れる彼女は2人が一緒でなければ関われないと分かってる」
ぼくはもう1つ、真湖さんに聞いてみた。
「真湖さんは流果さんとぼくたちが関わることをどう思ってる?」
「彼女が望むような関わりかたはよくないと思う。 2人にはそれぞれ望む未来があるでしょ?時夜くんはミニバスに関わる仕事に就きたいんだよね。 真歩路さんは観光ガイドブックなどをつくる仕事がしたいんだよね。 2人が時々彼女と関わるくらいならいいけど、彼女はそれでは満足しない」
「流果さんはわたしたちに何か仕事をしてほしいと思ってる?」
「彼女のツアー会社を手伝わせたいと考えてる」
「…それならそうといえばいいのに。なんで月島さんと仲良くとか言ったんだろう」
「未来をみれるから。それを言うと思うようにならないとわかってるんでしょ」
「なるほど!でもいまの状況って…どうなのかな?予定通り?」
「いまのところは…そうなんじゃないかな」
***************
「真衣さんにも聞いてみない?」
月島さんは真衣さんとも話をしたほうがいいと言った。メールをすると、ブックカフェに来てほしいと返信がきたので2人で行くことにした。
真衣さんは少しだけ話す時間をつくってくれた。
月島さんが真湖さんと話したことをノートにまとめてくれたので、それを見てもらった。
「そうか。 状況がよくわかったわ」
「真衣さんはどう思いますか?流果さんじゃなくて」
「ああ…それね。 わたしは自分の立ち位置を考えると流果さんに協力したほうがよいかなって思ったんだけど…きみたちの先輩としては真湖さんの意見に賛成かな」
「えっ…それって」
「わたしはガイドって仕事をしてるでしょ?もしきみたちが流果さんとツアー会社を運営してくれたら いろいろ一緒に出来るなってね。 でも、きみたちにはそれぞれの目標があるわけで、それをやめて取り組むことは間違ってると思うのよ」
「それはそうと、真歩路ちゃん水色のポーチを見せてくれる?」
「ええっ!? あの…なぜですか?」
「真歩路ちゃんはいつも調べたこと、気になったこと、まあいろいろノートに書いてるよね。 で、わたしに読ませてるでしょ? わたしの能力についてももちろん今はわかってるから、わたしがこのノートの記憶を見れることもわかるはず。 図書館によく行くこと、大事な思い出」
「うっ…まさかわかるんですか!」
「そこがはっきりしないからポーチ見たいのよね」
「…それは」
「流果さんのツアーで2人が知り合うきっかけになっているポーチ。 なにか意味があるのかもよ」
「…そう言われると…」
「中は見ないわよ」
「…それなら」
月島さんはポーチを出して真衣さんの前に置いた。
「開けないから持っていい?」
「…はい」
真衣さんはしばらくポーチを両手で持ってなにか考えているようだった。
「なるほど。 このポーチはわたしたちにつながるアイテムになってたんだ」
「つながるアイテム?…ですか?」
「真歩路ちゃんが最初に会った能力者は理音。 時夜くんがコンビニで会った人よ」
「えっ!? いつですか?」
「…月島さんのこと言ってなかったけど」
「図書館でポーチを拾ってもらってる。 転んだときにカバン投げちゃったって感じ?」
「!!」
「そうなの?」
しょうがないと言う感じで月島さんはポーチの話をしてくれた。その時にもらった栞のことも。
「それで必死にポーチを探してたんだね」
「そうなの。 もし栞が壊れたり、無くなってたらどうしようって」
「つながるアイテムは役目を終えるまで消えないよ」
「そのつながりってわたしたちと能力者たちの出会いのことですか?」
「そうよ。 もう少し正確にいうと『栞』がそのアイテムね」
「あれっ?…そういうことならこれからのことを決めるのは月島さんじゃない?」
「『栞』を受け取るかどうか、それが真歩路ちゃんが決めることだったと思うよ。 受け取ればわたしたちにつながる運命に。 受け取らなければ…わからないな、わたしには」
「…あの、真衣さんは理音さんをしってるんですか?」
「…知ってるわ。 彼は同じ学部生だったから」
「えっ! じゃ能力のことも知ってたんですか?」
「もちろん。 だからつながるアイテムのこと知ってるのよ」
真衣さんは自分の能力は感じるだけで、人に直接影響を与えるようなことはできないと言う。それは流果さん、真湖さんも同じだと。けれど、理音さんには出来るし、それが彼の役目で常に世界を見ていると言う。
「理音は『運命の守護者』としてわたしたちを近くで見守ってるのよ」
「…守護者って?」
「わたしたちが迷うとき、選択しなければならないとき、間違わないように助言したりするそうよ」
「真衣さんは…理音さんと連絡とってないんですか?」
「ええ、今はね。 でも…そのうち連絡くるんじゃないかしら。 つながるアイテムがあるから」
***************
「わたしも理音さんに会いたい」
「…そうだよね。 コンビニに行ってみる?」
月島さんはぼくがバイト終わるまで待ってると言った。コンビニはぼくの寮の近くなので、ぼくがバス停に着く時間を知らせておいた。月島さんは自分の寮で待っていて、そこから待ち合わせ場所まで来ると言った。
***************
「真衣は変わらないな。 良き『理解者』だね。そして…きみは『協力者』になるという決断をするのかな。 時間はまだ…あるね」
ファントム ライン ブルーメール @Fantasia_Room
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