不思議な能力者たちとぼくたちの現在地
―確かにぼくは町をちゃんと見ていなかった―
家から学校へ行くときも、学校からバイトに行くときもいつも見ているものは同じだった。
いわゆるポイントになる建物だけ見ていた。
店の記憶についても、利用していなければ忘れていたり、勘違いしていてもおかしくない。
でも…ぼくはなぜかすっきりしない。
月島さんから話がしたいから図書館へ来てほしいとメールがきた。ぼくは午後の講義が終わった後に行くと返信した。
「朝早くにメールしちゃってごめんね」
「あー、うん」
「わたし…あれからずっと気になってて。 で、ずっと考えてたんだけど、やっぱり変なのよね」
「変…あー…ぼくも考えてたけど…なんかすっきりしないなって」
「だよね? で、いくつか気になったことをメモしてきたんだけど、見てくれる?」
『どうして望月くんだけ呼ばれたのか』
『真衣さんはどうやって短時間で情報を集めたのか』
『どうしてわたしたち2人だけコンビニの記憶がなくなったのか』
『店があったなら流果さんの話も少しはあってもよいはずなのになかったのはなぜか』
「どう思う?」
ぼくは、2回、3回と繰り返し読んでから思ったことを話した。
「ぼくだけ呼ばれた理由は聞こうと思ってたけど忘れてたというか…なんかタイミングがなかった。
情報はガイドをしてるから仕事関係者に聞いたのかなって思ったんだ。記憶についてはわからないというか…ぼくだけならど忘れしちゃったとかありそうだけど、月島さんもとなるとね。流果さんのことは、ぼくが聞かなかったからかもしれないとは思う。」
ぼくたちはもう一度真衣さんにこれらのことを聞きに行こうと決めた。
真衣さんの都合を聞くためにメールし、返信がきたら月島さんに知らせる約束をしてぼくはバイトのためカフェに向かった。
************
真衣さんからの返信は前回と同じ、ぼく1人で来るようにと書かれてた。
―月島さんに話さないといけないな―
ぼくは真衣さんと会う前に月島さんともう一度確認しておこうと思った。月島さんにメールで伝えるとすぐにOKの返信があった。
いつものようにフリースペースにいくと月島さんは窓際の席でノートを広げて何か書いていた。
「月島さん…大丈夫かな?」
「えっ? あっこれは勉強とかじゃなくて、真衣さんに聞きたいことをあれこれ書き出してたの」
「…それってぼくが真衣さんに聞くことを書いてるってこと?」
「うん。 メモがあったほうが聞き忘れないかなって。あと、考えをまとめるのにいいと思うから」
「そうだね。聞き忘れは防げるかな」
「ちょっと見づらいかもしれないけど見てくれる?」
『最初に会ったときわたしも一緒にいたのになぜ望月くんだけと会いたいと言うのか』
『ツアー会社の情報はどこで得たのか』
『その情報は具体的にどういうものだったのか』
『わたしと望月くんが記憶を無くしたというけれど、その根拠はなにか』
『ツアー会社の人の情報はなかったのか』
『真衣さんはフリーでツアーガイドをしていると聞いたけど、どこでどんなふうに仕事してるのか』
「望月くんは他に気になってることとかある?」
「…いや、ないかな」
「話が終わったらメールもらえる?」
「バイトの後でもいいかな?」
「うん」
ぼくは月島さんの書いたページを貰って真衣さんとの待ち合わせ場所に行った。
*************
「2階のカフェでもいい?」
真衣さんはこのあと仕事だから少し食べておきたいと言った。
わたしが誘ったから飲み物はご馳走するといってぼくの分のアイスティも頼んでくれた。
「聞きたいことがあるのよね?」
「あの…いろいろあって…」
ぼくはあの紙を出して話そうとしたら、
「それ見せて」
「えっと…はい」
真衣さんは紙を受け取るとしばらく見ていた。
注文したアイスティと真衣さんが食べたかったホットケーキが運ばれて来た。
「食べてから話すね」
そういうと真衣さんはハイペースで食べて、アイスティを一口飲むと、
「じゃ、この質問?に答えるね」
ぼくは後で月島さんにちゃんと報告できるように手帳にメモすることにした。
「まず、わたしは自分の力で情報を得ているの。
今回はあのコンビニの近くでその場所の記憶に触れたの」
「えっ?! 記憶に触れるって?」
「サイコメトラーって知ってるかな?」
「…超能力ですか?」
「まあ…そうね。 で、きみたちの話と合わせて考えて答えを出したのよ」
「それじゃツアーのことや店の人のこともなにかわかったんですか?」
「ええ、だからきみだけを呼んだのよ」
「えっ?」
「彼女はきみの幸せを願って持てる力を使ってるようだから、わたしも協力しようかなってね」
「幸せって…?」
「真歩路ちゃんと上手くいくように!」
「…よくわからないんですが…」
「きみたちは彼女を探すという目的やわたしに会うという理由があるからメールしたり会って話してるのよね?」
「それは…そうです」
「その目的や理由がなくなったらきみたちはどうなると思う?」
「…わからないです」
「でしょ? だからきみに今後のアドバイスをしようと思って1人だけ呼んだのよ」
真衣さんはあの紙の余白に何かを書いてからぼくに返した。
『ミニバスツアー』を企画して持ってきてと書かれてた。
「ツアーガイドはわたしがするから。 最初のツアーはもちろんきみたち2人を案内するからね」
***************
月島さんにはまたフリースペースで会って話したいとメールしておいた。
ぼくは上手く説明できそうになかったので、月島さんの真似をしてメモに書き出したものを見てもらうことにした。
いつもの窓際の席に月島さんはいた。ぼくはメモとあの紙を渡して見てもらった。
「…サイコメトラーって…真衣さんが?」
「うん。そうなんだって。だからわかったみたい」
「流果さんがわたしたちを仲良くさせようとしてるから真衣さんもって…意味がわからない」
「うん。わからないよね」
「ツアーを企画してって…どんなツアーを企画したらいいのかな。 超能力体験とかって話?」
「流果さんはそういうツアーだったよね」
「…じゃ真衣さんがガイドする超能力案内ツアーみたいな企画すればいいのかな」
「…それってどんな案内?」
「もし流果さんみたいに自分だけじゃなく他の人にも見せることができるなら超能力体験っていってもいいんじゃないかな」
「出来なかったら?」
「超能力ガイドの町案内ツアーとか、超能力ガイドと不思議な名店めぐりとか」
「ぼくたちが行程を考えなきゃならないんだよね」
「…まずルート決める?」
お互いにいくつかのツアールートや観光場所、食事する店など考えてからまた話し合おうとなった。
*************
ぼくは久しぶりにミニバス研究会に行った。
「時夜くん!」
声をかけてきたのは、同級生の
「久しぶり。 真湖さん参加できるの?」
「夕方からのバイトが休めなかったから2時ころまでになっちゃうんだけど、時夜くんは?」
「ぼくは大丈夫」
「だったら一緒に行けるね!
大学からミニバスで15分ほどのところにシティグリーンパークがある。今度の週末にそこでサマーパークフェアが開催される。入場は無料だが、そこでの体験イベントなどは申し込み制になっている。申し込みは前日の枠と当日の枠がある。ミニバス研究会のメンバーのお目当ては『ミニバスの運転席に乗って記念撮影をしよう』というものだ。ぼくもそのイベントに行きたくて今日は参加した。
しばらく真湖さんとフェアのチラシを見ながら話していると颯くんが来た。
「おー久しぶり!」
「颯くん!参加できる?3人でミニバス乗車の申し込みしようよ!」
「もちろんオッケーだよ」
前日の申し込みは真湖さんがすることになった。
他にもいくつかおもしろそうなものがあったので、ぼくと颯くんはそれぞれ申し込むことになった。
ぼくは前日の朝9時からの電話申し込みをしてから学校へいった。予約完了メールを送ると、2人からも予約出来たというメールが返ってきた。当日は朝8時にパーク入り口で待ち合わせになった。
2人とはミニバス研究会で知り合った。ぼくたちが1年の時の新メンバー歓迎会でいろいろ話をしたあとメール交換をしてから連絡を取り合うようになった。ミニバス撮影会などイベントに参加するときはたいてい3人で出かけるようになった。
真湖さんは心理学部の学生で、ぼくたちのリーダーのような人だ。長い茶髪を無造作にまとめたお団子ヘアにコットンワンピースというスタイルがよく似合っている。颯くんはデザイン学部の学生でいつもアートTシャツとスキニーパンツでおしゃれなスタイルだ。2人とも勉強や課題に忙しいようで、最近はあまり連絡が取れていなかった。
ぼくは待ち合わせの時間の少しまえに入り口についた。すでに公園には多くの人がきていた。しばらくして真湖さんが、その後に颯くんがきて、予約時間が早いミニバスのコーナーへ向かった。
「写真はわたしが最初でいい?」
「じゃ次ぼくで。 時夜くん3番でよろしく!」
「オッケー」
ミニバスの運転席に座る順番が決まり、お互いに写真を撮り合うことにした。
外では3人ミニバスの前に並んで係の人に写真を撮ってもらい、つぎの場所へ向かった。
少し時間ができて、軽く食べようとなり、屋台のパーク焼きそばを買いに行った。休憩コーナーで座って食べてるとき、颯くんの学部の友達が声をかけてきたので、
「ちょっとだけ話してくるから荷物よろしく!」
と言って席を外した。
「いいタイミングかも」
「えっ?」
真湖さんは颯くんが離れてから言った。
「時夜くんと2人だけで話したかったから」
「…なんの話?」
「時夜くん、能力者の影響受けてるでしょ」
「えっ…と、なんで!?」
「話すことや行動をいつも確認してる。それも誰かのために」
「…そんなことしてた?」
「心のなかでね」
「…えっ…と…!? まさか真湖さんももしかして」
「そうなんだよね、 わたし心が読めちゃうの」
「読めちゃうって、いつから?」
「大学入る前から多少わかってたんだけど、ちゃんと自分の能力を理解して使えるようになったのは最近なんだ」
「そうなんだ…でも、ぼくそんなこと考えてたかな」
「ツアーの企画に使えそうなものがないかチェックしておかないととか、真衣さんがガイドできそうなものでないととか」
あんまりにも具体的に言われてぼくはしばらく言葉が出なかった。
「あ、颯くん戻ってきた。じゃこの話はここまでね。また2人のときに話しよう」
************
真湖さんに言われたことが気になりすぎて考えがまとまらないため、話したいとメールすることにした。真湖さんからは明日の夕方なら時間あると返信がきた。
ポンドタウンのミニバスターミナル隣の商業施設1階に『バスタ コーヒー』がある。窓際のカウンター席からバスターミナルが見渡せるコーヒー専門店だ。ぼくは寮からミニバスでターミナルまで行き、約束の時間より少し早くきてカウンター席に座った。
―真湖さんに会う前に少し落ちつかないと―
アイスコーヒーを少し飲んでから、しばらく目を閉じて『これで3人目…ということは世間に超能力者が普通にいるってことなのか…』
ぼくは真湖さんから何を聞かされるのかな。
「時夜くん! もしかして寝てた?」
「えっ…あー…うん。ちょっと寝てたかも」
目を閉じてたからか、少し寝てしまったらしい。
「ちょっと待っててくれる?わたしコーヒー買ってくるから!」
そう言って真湖さんのリュックを渡された。
ぼくは真湖さんに『能力者の影響を受けている』ということについて聞いた。
「誰かが時夜くんの行動に干渉していると感じてるんだ」
「どんなふうに?」
「わたしの知ってる時夜くんらしくないから」
「らしくない?」
「誰か…複数かな?言われた通りに動いてると感じる」
「ぼくの…心を読んでそう感じたの?」
「そうだけどちょっと違う。 違和感っていったほうがわかるかな?」
「その…影響って何か問題があるのかな」
「あるなんてもんじゃないわよ。 さっき言ったように時夜くんが時夜くんじゃなくなってるんだから」
もうなにがなんだかわからない。
ぼくらしさっていうのもわからない。
そんなぼくに真湖さんは一言
「わたしがセルフコントロールについて教えるから実行して!」
それから真湖さんは持っていたメモ帳に書きながら説明してくれた。
「この通りにすれば時夜くんは元に戻るからちゃんと実行してね」
「…あっ…ぼくが話したいと思えば話していいんだよね」
「『話さなきゃ』とか『しなきゃいけない』とかでなく『話したい』とか『行きたい』ならいいんだよ」
「あー…わかった」
「わたしが教えたからには責任もたなきゃいけないから時々確認させてね」
「…オッケー」
***********
ぼくは最近の出来事について少しは話したけど、ほとんどは真湖さんが心を読んで理解してくれた。
真湖さんからみると、今のぼくは流果さんが望む未来に向かって行動させられているし、真衣さんがそれを後押ししてるという。確かにそれはぼくも2人から聞いて知っていた。そしてぼくは言われた通りに動いていたと言っていい。それが大問題だと真湖さんは言った。
「時夜くんの未来は時夜くんのもの。 超能力者のヒマつぶしで大切な未来を変えられるなんてあっちゃいけない」
言ってることがあんまりにも正しくて言葉が出なかった。そしてぼくは真湖さんの言う通りにしようと決めた。
―月島さんには言わなければならない。でもそれはぼくがしたいことでもあるんだよね…―
散々考えてぼくは月島さんにメールした。
話をしたいことがあると書いた。
**********
ぼくは真湖さんのこと、話したこと、言われたことや約束したことをメモしておいた。
それを月島さんと会ってすぐに見せた。
「他の人に話さないって約束を破ったこと謝るよ」
「…心の中を読まれたんだよね。それじゃどうしようもないよ」
「まあ…そうなんだけど」
「真湖さん?の言ってることはほんとにその通りだよね」
「月島さんもそう思うんだ」
「うん。確かにわたしたち振り回されてるよ」
「じゃあ…ぼくたちはこれからどうしたらいいと思う?」
「…とりあえず探すのやめてみる?」
ぼくたちはしばらく以前の生活に戻ることにした。
月島さんはもしかしたらまた何か起こるかもしれないからその時にまた考えようと言った。
*************
まずい。
このままでは2人は仲良くなれない。
それでは困る。
わたしはシャイな彼を幸せにしてあげたいだけなのに、それを阻むなんて。
絶対にあの子とは引き離さなければ。
どうやって…。
*************
ぼくは寮に着くとぼくあての手紙が届いてた。
裏をみると流果と書かれてた。
『きみは勘違いをしているようだ。
わたしは少しだけ未来体験をさせてあげただけだよ。実際の行動や言動はきみ自身が決めたもの。
真歩路ちゃんを追いかけたのも、声をかけたのも、ポーチを探したのも全てきみが決めてる。わたしや真衣さんのしてることはただのきっかけ作りでしかない。きみのお友達はきみからの情報をもとに話しているだろうから、情報が間違っていれば答えも違って当然だよね。あと、確かにきみにあの体験をさせたのはヒマつぶしといったけど、きみの未来を台無しにするようなことだったらしてないよ。そこのところを誤解しないでね。そうそう、わたしはきみの近くにいるからね。』
***********
ぼくは酷くつかれて眠ってしまった。
明日は何が起きるのだろう…
************
真歩路は図書館で調べものをしていた。
『未来予知』『サイコメトラー』『心を読む』
「わたしと望月くんが知り合った超能力者は3人。そうなるとこの出会いは必然だったということよね。 その先の運命は…もう一度これまでのことを振り返って考えないと!」
***************
真湖は感じていた。周囲の人たちの心の声を。
―まさかあの子に負けるなんて、やっぱりふつーじゃない!―
―天才っているんだ。凄いけど、怖いわ…―
―前からちょっと変だと思ってたけど、ヤバイよあの子―
「あのすごく難しいテスト満点だったんでしょ?真湖さんほんと凄い!」
「いつもバイト掛け持ちで忙しいって言ってるよね?それなのに凄すぎ!」
「テスト終わるの早くなかった?書き終わったら退出OKって言ってたけどさ」
「まあ…家では頑張ってたよ。忙しかったから」
他になんていえばいいのか…あー嫌になるわ。
しばらくして、あの声が聞こえてきた。
―…引き離ささなければ…―
「…ほんと最悪な能力者ね。そっちがそうするならこっちも黙ってはいないわよ」
**********
「そろそろかな…ぼくの出番は」
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