第3話

第三章


夜、仮設作業場で帳簿を前に困り顔の光。「うーん、もっと稼げる方法はないかな……」と唸っていると、そこに夕霧が姿を現した。


「光どの、お願いがございます。あの素晴らしい品々をもっと手に入れたいのですが……」


「でも、もうお金が……」


光はうなずきながら、「そうだよな、、、、」


「別に俺も、特別に利益をとってる訳じゃないんだよね」


と続ける。


「正直に話すんだけど、夕霧、儲かってると思ったのに、全然金が残らないんだ!」


夕霧は光の帳簿をちらりと見て、冷静に分析する。


「なるほど、売上は好調ですが、経費管理が甘いのですね。平安の商いは、現代とは違う出費があるのです」


光は目を輝かせる。


「じゃあ、もっと効率の良い稼ぎ方はないか?」


「実は...」夕霧は意味深に微笑む。「高貴な男性方から文を頂戴することがございます。その方々にお会いして、お小遣いを頂戴できれば...」


光の脳内で電卓が回転する。


「文1通で米5合(5,000円)、月20通で10万円、経費はほぼゼロ...純利益10万円!」


光の目が再び¥マークになる。


「それだ!『平安パパ活セミナー』開催! 固定費なし、利益率100%のビジネスモデル!」


数時間後。

光は手作りの改定資料を書き出す。


**【パパ活収益シミュレーション】**

売上

- 1回の面談:米10合(1万円)

- 月4回 × 10人 = 40万円

経費

- 手紙代筆:40% 時代に合わせた文章のプロに依頼しないとね!

- 配達代行:20% 手紙の渡し方も色っぽく、高貴に。

- その他経費:10%

- 光の取り分(コンサル料):30%

- 月12万円の純利益!

光は、17歳なので、今回は、大人の男女の機微が分かるプロに外注することにした。


-----


翌日、宮中の大広間には、光の呼びかけに応じた女房たちが集まっていた。


「皆さん、時代は変わります! 手紙を書いて、会ってお小遣いをもらう。これが新時代の稼ぎ方です!」


光の熱弁に、女房たちは拍手喝采を送る。


「ただし、品格は保つこと。あくまで『高貴な女性』として!」


小式部が不安そうに尋ねる。


「でも、それは...倫理的とか、世間的とか、大丈夫なのでしょうか?」


光は満面の笑みで答える。


「大丈夫! 品格を保って、高貴な女性として接客すれば何の問題もありません! 古い時代の『もの』より、新しい時代の『サービス』が儲かるんです!」


光の「パパ活ビジネス」は、平安の都に新たな旋風を巻き起こした。手紙をの内容を考える女房たち、(手紙関連代行&プロデュース光)、男性貴族たちと密会する場面、そしてお小遣いを手にする女房たち――。光の収入は急増し、ビジネスは順調に拡大していったかに見えた。。。


しかし、現実は甘くなかった。


「なんで売上が倍になったのに赤字なんだ!」


光が青ざめた顔で帳簿を見る。朝廷役人への「お心づけ」、既存仲人業者への「挨拶料」、女房の「生活補償費」、密会場所の設営費......想定外の経費が続出していた。


**【4週間の収支結果】**

- 売上:750,000円

- 経費:1,075,000円

- **純損失:-325,000円**


夕霧が冷静に分析する。


「光どの、平安時代では『経済の仕組み』が現代と全く違います。人間関係にかかるコストが売上を上回るのです」


光は愕然とする。


「古くて暑苦しいもんは、だいたい儲かる...って思ったけど、古い時代の『人間関係』はもっと複雑で、もっと高コストだったんだ」


更なる誤算


仮設作業場で帳簿を整理していると、小式部、桔梗、夕霧、若菜が光を囲んでいた。


「光どの、私たちはあなたを愛しております」と小式部が真剣な表情で告白する。


「私たちを通い妻にしてくださいませ」と桔梗が続ける。


「妻問婚の形で、我々はあなたのもとに通わせていただきます」と夕霧が冷静に説明する。


「え? でも妻問婚って……」


「既に手続きは済ませました。我々は皆、あなたのもとに通う妻となりました」


光の顔はみるみるうちに青ざめていった。


ビジネスパートナーだと思っていた女房たちが、いつの間にか本気の恋愛感情を抱いていたのだ。


翌日、朝廷の会議室では、激怒した役人たちが集まっていた。


「風俗まがいの営業! 同時に複数の女性との妻問婚! この者を捕らえよ!」と実頼が怒声を上げる。


「都の風紀が乱れきっておる!」


怒号が飛び交う中、光への逮捕状が発行された。


-----


夜、光の仮設作業場の前は、追手によって完全に包囲されていた。光はタイムゲートのリモコンを握りしめ、顔面蒼白になっている。


「やばい、やばい、やばい……!」


妻となった女房たちが泣きながら光に叫ぶ。


「光どの、お逃げください!」と小式部が必死に叫び、「私たちのことは心配なさらず」と桔梗が涙を堪えて微笑み、「必ず戻ってきてくださいね」と夕霧が冷静に言い、「光どの様、お待ちしております」と若菜が泣きながら手を振る。


「ごめん、みんな! また、会いに来るね!」


光はタイムゲートを開き、転送光に包まれて現代へと逃走した。


-----


二条家地下のタイムコア室。光が転送されて戻ってくると、そこにはすでに父・宗久が腕組みをして待ち構えていた。


「おかえり、バカ息子」


宗久の声には、怒りとも呆れともつかない感情が混じっていた。


「お、お父さん……」


光は顔をひきつらせる。


「妻問婚で同時に四人の女性と婚約、風俗まがいの営業で逮捕状……よくもまあ、これだけやらかしてくれたな」


宗久の言葉に、光は必死に反論する。


「でも、平安の女性たちに自由と経済力を与えたんだ!」


宗久は頭を抱えた。


「次は古代エジプトでピラミッド建設の人材派遣でもやるつもりか?」


その言葉に、光の目が再び輝く。


「それ、いいアイデアだね!」


宗久は、その場で卒倒した。


-----


エピローグ


平安時代の女房たちが、現代風にアレンジされた十二単を身につけ、セグウェイで颯爽と都を駆け抜けていく。その姿は、時代を超えた自由と経済力の象徴のようだった。


「光どの、いつか必ず迎えに参ります……」


小式部の言葉が、未来への誓いを乗せて響き渡る。


「私たちは待っています、未来の君を」と桔梗が微笑み、「きっと戻ってくる方法を見つけます」と夕霧が決意を込めて呟き、「光どの様……」と若菜が涙を流しながら空を見上げる。


四人の女性たちの想いは、時空を超えて光に届くのだろうか――。


(第1話 完)

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時をかける商魂 ~二条光。平安を洗え!十二単クリーニング開業 奈良まさや @masaya7174

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