懇親会大作戦!

本契約を結んでキアさんがヴェスカさんになってから、僕らの関係にちょっとした変化があった。それは――

 

「余所見しすぎよ、雑魚人間マイロード

「ん、比較的身体が軽いわね。感謝してやってもいいわよ、ザーコ」

「こんな悪魔一匹も奢れないような雑魚人間に仕えてやる義理なんかないわ、精々関係ないところで逃げ惑ってなさいな」


―ヴェスカの口の悪さが、かなり増したことだ。

「ふえぇ、不名誉だよぉ…!まだまだ発展途上だって思っていてほしいです!」

「雑魚は雑魚なのよ、稚魚と違って成長しないの。…はぁ。アタシたち下位悪魔って人間に憑依したり寄生してるだけの素体ベースは雑魚人間と同じ存在なのにどうしてここまで差が出るのかしらね」


そのヴェスカの言葉を聞いて、僕はちょっとの間驚きで目を瞬かせた。

 

「…下位悪魔って、身体は人間と同じなんですか…?」

「そうよ。アタシはこの寄生先の人間の脳に信号を出しまくって感覚を狂わせたりして、身体能力を強化しまくってる。雑魚なりにやりようはあるわね」

「へええ…!!」

 

ヴェスカは特に興味もないといった表情で語っていたが、その話題は僕の興味を惹くには十分すぎるくらい魅力的だった。そういうファンタジーみたいな話が現実に起こって僕の前で力として振るわれてるってだけでわくわくする。

 

下位悪魔は人間をベースにしないと顕現しない。

  

…それってよく考えたら。人間と同じ手法で“攻略”できるかもしれないってことでは?ここでなら僕の汚名返上もできるのでは…!?


「ヴェスカさんっ、下位悪魔の共通する身体的特徴についてちょっとお聞きしたいんですけど…」

「ア〜?アンタが妙なこと考えてるのだけは解ったわ。…そうね、基本的に頭に人間のそれじゃない耳が生えてたり角が生えてるのが目印よ。大抵それが目立つ形であるほど下位悪魔の中でも強いってされてるわね」

 

「ふむふむ………あの、ヴェスカさん。動物の耳のカチューシャみたいなのって、下位悪魔に擬態するのに使えると思います?」

「……ほら。やっぱり碌なこと考えてないわね」

そんなヴェスカの呆れたような視線を受けながら、僕は必死に探索を続けていた。美術室、家庭科室、それから――

 

それから、少ししてのこと。

「…あ、あった…!修学旅行でテーマパークに行った時の耳付きカチューシャがたまたま鞄の底に…!!これでいけますよ!」


その耳を装着してから、ヴェスカが少し距離を取ってくる気がする。 

「思いの外デカいわね。白い兎の立ち耳だわ…」

「ヴェスカさんは垂れ耳うさぎさんですよね!かわいい!」

「そのワードを次に吐いたら命はないと思いなさい」

「え~んすみません!!殴らないでくださいよ!」



人間を奢ったあとの悪魔たちは一室に集まっているようだった。猫耳の生えた姿の悪魔、黒い角が2本生えた悪魔。…この様子を見るに、計2人しかいないのだろうか。

 

「アンタがここで死んでも助けてやんないから」

「死ぬこと前提!?でも瀕死の状態でも助けられはするかもなんですね…!?ヴェスカさんってすごいや…」

小声でこそこそと会話していることに勘付かれたらしい。悪魔のうち猫耳の少年が話しかけてくる。


「そこのキミたち!キミも人間をぶっ殺してきたところかい?お疲れ様!」

「あ、えっと、はい!殲滅完了しました!」

「えらいえらい!ここの奴らはね、一仕事終えて休憩してるところなんだよ。人間相手とはいえ数が結構居たからね、疲労困憊ってわけ」


黒い二対の角が生えた少女がそれに乗じて話す。

「そうそう、あたしたちはね〜、ここをぶっ潰して故郷に光をもたらしたちっちゃな革命軍ってわけ!まあ…まだ人間のガキの学び舎潰しただけだからこれからもっと潰すけど!」


疲れた、と口々にこぼす彼らに、そわそわする僕。よし、――ここからだ。

「お疲れですよね、お疲れさまです!…そんなみなさんにぴったりの飲み物がありまして〜…!」


僕が壁の影から取り出したのは――


黒い液体がなみなみと注がれたコップだった。 

首を傾げる猫耳の少年。彼の疑問に答えるように、僕は簡単に答える。

「…人間の飲む炭酸飲料?」

「コーラっていうんですよ!甘いお砂糖水がパチパチ弾けるんです!」


角の生えた少女はからからと笑いながらコップに口をつける。それを静かに見ているヴェスカが居た。

「この冷たいの一気に流し込んでやったらめっちゃ気持ちよさそ〜!!イッキしちゃおうかな、あは」

「……………」

  

他にも用意しているものがあるので僕らのことは気にせずお先に飲んでくださいね、と伝えると彼らは嬉しそうにコップを傾ける。その時だった。


「「……!?…がッ、あ、ゔ、う……」」


ほぼ同タイミングで床に倒れ込んで藻掻き苦しむ、先ほどのコーラに口をつけた2人。


喉がやられているのか今は声が出せないようだ。僕は冷静にその2人を見下ろす。…まだ息がある。

「…ヴェスカさぁん。ちょっと息の根を止めそびれたので助けてくれませんか…。すみません…。」

「…………いいわよ。ほら、くたばりなさい」


ヴェスカが両方の手で、片手に1つずつ持った相手の頭を頭蓋ごと砕く。鮮やかな手つきだった。



 

そのあと、僕とヴェスカは後片付けがてら雑談をしていた。

「完璧だと思ったのに、ちょっと作戦失敗でした。悪魔のしぶとさを舐めてかかっちゃダメですね」

「……アンタ、さっきのには何入れたのよ。毒にしちゃ即効性がありすぎるわよね。もっと別の何か?」

「さっきのコーラですか?カッターの刃をちっちゃく刻んで入れました!僕みたいな非力な人間は普通に刃物を振り回して戦うより、こうやって内側からズバッて切ったほうが効率的かなと…」


そう、さっきのコーラはそんな細工がしてあった。前に読んだ復讐ものの漫画でこういう表現があって、あの時は怖いなと思うだけだったけどこんな形で役に立つとは思わなかった。 

 

ぐっと眉根を寄せたヴェスカがため息をつきながらかぶりをゆるく振る。

「…………最近の中で最上級に嫌なことを聞いたわ。もういい。アタシには絶対にそのコーラを飲ませないで頂戴」

「え!?そんなことしませんよ!守ってくれる人にそんなことできないです!!」

「アタシがいつアンタを守るなんて……いや、そうね。そうだわ、主従だものね、アタシ達」

「…!!ヴェスカさん…!」


ヴェスカが彼女と僕の主従関係について皮肉交じりでなく言及したのは、これが初めてじゃないだろうか。とてもうれしい。

 

「うれしいです、ヴェスカさん〜〜っ!」

「馴れ馴れしい。これ以上アタシの腕振り回したら殺すわよアンタ」

「相変わらず手厳しい…!でも、ちょっとは見直してくれましたか、僕のこと!」

「……まあね。アンタ、思考回路がコッチ側すぎて思わず人間か疑いたくなるくらいだったわよ」


効率を求めたから、物理ダメージがある程度効くって聞いたから試しただけなんだけどな。そんなに怖いことだったかな…?


そんな疑問を浮かべるような表情をしていたらヴェスカの顔が心底嫌そうに歪む。

「ほんっとうに嫌だけど、そのイカれた思考パターン、ちょっとは認めてやるわよ。」

「全然ふつうですよ僕は!」

「そういう事言う奴に限って碌なのがいないのよ、バーカ。いや、本当にバカだわ…」


かくして、僕はこの一件からほんのちょっとだけヴェスカに認められることになったのだ。

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病室より愛(のろい)を込めて 宮いちご @miya_ichigo

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