第29話 ネタバラシ(タケル視点)
俺が強姦魔三人を倒せたことを、ユキは不思議がっている様子だ。刃物を持ち出してきた男までいたのに、なぜ勝てたのかと尋ねていた。
「ああ、あれか」
そういえば、まだユキには言ってなかった気がする。別段隠すようなことでもないので、もったいつけずに教えてあげた。
「俺、空手やってるんだよ。もう5年以上教室に通ってるんだ」
オーバーワークやら怪我のリスクやらあるので毎日ではなかったが、近所の空手教室で日々鍛錬を重ねていた。自慢じゃないが、大会で好成績を残したこともある。
「か……Karate⁉」
ユキは驚きのあまり外国人のようなリアクションになっている。Sushiみたいなイントネーションで発音していた。
「Oh my god……! タケルがそんなトレーニング積んでたなんて……衝撃すぎてバーボンでも呷らなきゃ吞み込めそうにないわ」
なんでセリフまで洋画風の言い回しになってるんだよ。素面で理解してくれそこは。
ユキはしばらくの間やたらと彫りの深い顔になっていたが、やがて日本人に戻り素直な感想を漏らした。
「それでナイフとかメリケンサックとかにも勝てたんだ。なんかプロの格闘家みたいですごかったよ?」
まさかあんな凶器まで持ち出してくるとは思わなかったな。日本はいつから無法地帯になっちまったんだい? って、なんか俺までアメリカンな語り口に。
「まあ、いつ脅威が迫っても動けるようにはしてるよ」
俺が空手を始めたのには明確な理由がある。いざという時に反応することができなければ意味がないのだ。
「毎回みっちり教え込まれてるから、その辺のチンピラみたいのには動じなくなったかな」
身体的な鍛錬はもちろんのことだが、それだけでは敵に立ち向かえない。胆力も兼ね備えて初めて一人前の武人となれるのだ。
「にしても素手で圧倒しちゃうなんて。やっぱり確立された武術って、不良が適当にケンカするのとは違うんだね」
「文字通り『空の手』だからな。流派にもよるけど、基本的には身一つで戦う技術だよ」
相手が襲いかかってきた時、常にこちらが武器を有しているとは限らない。素手でも応戦できるようにとの考えで、空手が最適だと判断したのだ。
俺からすればずっと前から訓練していたことだったが、ユキの目には新鮮に映っているようだった。
「そんな修行してるなんてちっとも気づかなかったな~。タケルのドッキリ大成功って感じ?」
こっそり鍛えて後からびっくりさせるつもりだったって? まあこうしてある種のネタバラシをしているという意味では、結果的に似たようなものになっていたかもしれないが……。
「お前じゃあるまいし、そんな子供じみた動機で始めるかっての。もうドッキリはこりごりだぜ……」
ユキが襲われたので披露することになってしまったが、本来そんな機会は訪れないのが一番だ。チンピラ相手に武道で圧倒するなんて……そんなのは起こらないに越したことはない。
それでも実際脅威はこちらの意志とは関係なしにやってくるものだから、何らかの対策を立てなければならない。難儀なものだ。
「私と出会った時はやってなかったよね?」
小4の夏に初めてユキと出会った時。確かに俺は体術の類など何一つとして習得していなかった。
「まあ、野球やサッカーくらい遊びとしてやってたけど。それくらいだな」
体は動かすがガチのスポーツ教室になど通ったことがなく、友達同士で球遊びに興じるだけの子供だった。熱量でいえばカツオや中島と同程度のものである。
「何か始めるきっかけがあったの?」
と聞かれるので、俺は無言でユキの顔を指差してやった。
「……え? 私?」
うんと頷く俺。一方のユキはわけが分からぬ様子だったので、一から説明してあげた。
「覚えてないか? 俺がこっちへ帰っちまう前に、すねたお前が山の奥まで入って遭難したことがあっただろ」
両親のお盆休みが終わるタイミングで、俺は
そんなの嫌だと駄々をこねたユキが、へそを曲げて山から下りなかったことがあったのだ。
「ああ……。あったね……」
当時のことを思い出して、ユキは軽く身震いする。トラウマというレベルではないようだったが、やはり今でも恐怖体験として記憶に残っているらしい。
「あの時にさ……」
語りながらで、俺もあの時の詳細を思い起こす。まるで小4の夏にタイムスリップしたような気持ちだった。
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タケルはずっと都会住み。ユキは小4の2学期からこっちで暮らしています(父の仕事の都合で引っ越し)
小中学校はかぶっていません。ちょっとややこしいかなと思い、軽く振り返らせていただきました。
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