第15話 取締役就任
私たちは午前休を取って印鑑登録と印鑑証明を役所で取得し、
そして運命の午後、私は
もう一人、
「じゃあクロノア・ソリューション、臨時株主総会を開くね。
議題は
そして新しく、
この人事に反対の人は手を上げて」
「……全会一致で可決、でいいかな?
お爺ちゃん、念のために一言もらえる?」
「株主代表として、意義がないことを宣言する。
「ええ、構いません。役員の返上、お受けいたします」
「
「――はい! が、頑張ります!」
思わず上ずった声で返事をした私に、三人の笑い声が上がる。
「だから、そんなに緊張しないで。ただの話し合い、会議なんだから」
そんなこと言われても、『株主総会』とか、天上の世界なんだけど?!
「じゃあ今日から
それぞれ、書類にサインと捺印を」
私は震える手で名前を記していき、ハンコを押した。
「はい、じゃあ臨時株主総会は終了だ。
――
これからは現場でしっかりと後進育成に励んでね」
「任せておけ!
「じゃ、私はこれで失礼するよ。
――
「ああ、今日だったっけ?
分かった、一緒に行こうか、お爺ちゃん」
役員会議? 一緒に行く?
「ねぇ
「僕はお爺ちゃんの会社、
名前だけだけど、一応参加はしておかないと実態がないって思われるし。
悪いけど
私は苦笑を浮かべながら
「こら、年上の妻になにを言い出すの?
そのくらいはできます。安心して」
「それじゃ、
そのまま
残された
「よーし! これで現場復帰だ!
何かあったらチームチャットで。それでいいかな?」
私は苦笑を浮かべながら頷いた。
「そんなに現場がいいんですか?」
「技術者は現場に骨を埋めたいのさ!
新しいプロダクトも開発しなきゃいけないしな!
今度こそ、市場を取ってやる!」
元気に立ち上がった
最後に残された私も立ち上がり、静まり返った会議室を出た。
****
会議室を出た私に、年配の女性が近づいてきて告げる。
「あ、若奥様の席はこっちよ。案内するわね」
女性に案内されたのは、いつの間にか社長席の近くに作られた新品の席だった。
大きな机にゆったりとした椅子。
「え? ここが私の? いつの間に?」
「若奥様が午前休を取ってる間に、業者が運び込んできたわよ?
若旦那が手配したんじゃない?」
私は呆気に取られながら女性に尋ねる。
「そんなにすぐに手配できるものなんですか?」
「会長の会社に予備でもあったんじゃない?
運び込むだけなら、即日でも対応してくれる業者はいるし」
「はぁ……」
本当に、そんなにすぐに? 手際がいいと言うか、なんと言うか……。
年配の女性が私に告げる。
「私は総務の
「――あ、はい。よろしくお願いします」
私は改めて自分の机を見降ろした。
PCも新品が置かれてるみたいだけど、これも予備なのかなぁ。
モニターは二台、いやこれは予備じゃないんじゃない?
私は古い席に戻り、置いていたトートバッグを手に取った。
隣の席の
「短い間だったけど、おしゃべりできて楽しかったわ。
大変かもしれないけど、頑張ってね」
「はい、島田さん、ありがとうございました」
私が頭を下げると、
「駄目よ! 貴方はもううちの重役なんだから!
そんなに簡単に頭を下げないで」
「そんなことを言われても、実感が……」
「すぐに慣れるわ。若奥様なんだから、ずでーんと偉そうにしてればいいのよ」
そんなに図太い神経は、持ち合わせてないかなぁ。
私は愛想笑いを浮かべて会釈すると、新しい席へと戻っていった。
****
カーテンが閉め切られた
「では役員会議を始める。司会進行は――
「では各部門の報告ですが――」
グループ企業の業績、続いて今後の戦略方針までが述べられていく。
その場にいる十人足らずの男たちに交じって、
「――以上、ここまでで疑問はありますか」
「
「僕に聞くの?
聞いてた通り、金融部門は好調。他も黒字見込みでしょ?
現状維持で問題ないよ。
「では、そのように――
「では反対の者は挙手を」
全員が黙り込むのを見回した
「では全会一致で可決。本日の役員会議を終了とする」
資料を手にした男たちが立ち上がり、会議室から出ていく。
一人の男がカーテンを開けていき、夕日が室内に差し込んでいった。
明るくなった部屋で
「今週の金曜日、うちの親睦会を開くけど……
「参加してもよろしいので?」
「構わないよ。一人くらい重石が居た方が、場が整う。
場所は
「ええ、空いています。週末ですね、では酒と料理の手配は任せてください」
「言ったからには責任を持ってね。
少しくらいはサプライズを用意してもいいよ?」
残された
「まったく、我が孫ながら何を考えているのか」
もう一人残されていた
「それは私のセリフですよ、父さん。
これじゃあ父の威厳も、社長の威厳も形無しだ。
なんとかならないんですか」
「
そうならないよう、祈るしかあるまい」
二人はゆっくりと立ち上がり、最後に会議室を後にした。
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