王道の異世界×スキル系でありながら、その切り口と描写で強烈なインパクトを残す一作。
主人公が授かったのは「共感性羞恥」。他人の失敗や過去の黒歴史に触れたとき、思わず自分まで悶絶してしまうあの感覚が、スキルとして具現化するというユニークさ。けれどそれは笑い話にとどまらず、本人の過去の痛みや後悔をもさらけ出す苛烈な能力でもあります。
「共感性羞恥」のエピソードは、誰もが一度は味わったことのある失敗の痛みを鮮烈に呼び起こし、読む側まで胸がぎゅっと縮こまるよう。過去と現在が交錯する語り口は、臨場感と没入感が抜群で、気づけば主人公の視点に取り込まれています。
笑えるのに刺さる。軽妙なのに重たい。そんな相反する感覚を一度に味わえるのが本作の魅力。学園生活や異世界の物語が、このスキルとどう絡んでいくのか……続きを知りたくてページをめくる手が止まりません。
<第1章「学園入学編」プロローグ『灰色の青春』を読んでのレビューです>
冒頭から、中学時代の数学の失敗体験が生々しく描かれる。手を挙げた自信と、その瞬間に崩れる現実のコントラストが緊張感を生む。語り手の内面に入り込み、共感性羞恥や自己評価の揺れを丁寧に追う文体は、静かな熱を伴った緻密な観察のようだ。現実の風景や季節感、歩行中の体感も細かく描写され、読者は主人公の視界と意識の変化を共に体験することができる。
「ーー否、これはーー。崩れるの感覚などとうになかった。」
事故や転倒の物理的感覚と、心理的な混乱を短い断片で同時に描くことで、状況の不安定さや恐怖が読み手に直感的に伝わる。このリズム感と断片的な表現は、感覚と感情がほぼ同時に揺れ動く瞬間を巧みに表現している。
過去の恥ずかしさや挫折の記憶を、現実と重ね合わせながら丁寧に描き出す手法は、読者に主人公の心象を鮮明に感じさせる。日常の些細な違和感や暑さ、歩行の感覚までもを取り込むことで、物語世界への没入感が高まる点に魅力を覚えた。