04 闇は黒色
結果として私はもう一人の黒の異能者とペアを組んだ。顔合わせという名の交流会はあっけないほど何もなく終わり、国立異能者養成学校に入学してからの初めての1日が幕を閉じようとしている。
特にこれといった問題もなく、汐梨ちゃんと例のペアの先輩のおかげでそれなりに楽しんで参加できたことを喜ぶべきなんだろうけど、どうにも落ち着かない。1つだけ、どうしても頭から離れないことがある。
お日様の匂いがするベッドの上で寝返りを打って昼前の出来事を思い返した。
「きみが方波見陽翠だね?」
3年A組にて同じ色の3年生のところに集合、と指示が出て戸惑っていた時。突然フルネームを呼ばれて振り返ったところにその人はいた。
毒々しささえ感じる鮮やかな
この人が——もう一人の黒の異能者。
表情筋が強張っていく。そういえば名前合ってるか聞かれてたんだった。慌てて頷くと、先輩は苦笑して言った。
「そんなに緊張しなくても、別に取って食ったりはしないからね? はじめまして、俺は
「……は、はい。こちらこそはじめまして。方波見陽翠です」
目の前に自分以外で初めて会った黒の異能者がいるこの状況、緊張しない方が無理。法月先輩は一体何がそんなに楽しくてにこにこ笑っているのか。
先輩が入学してからの黒の異能者は私が初だって聞きましたよ? もちろん、黒の新入生——私について話している噂で。
緊張とかしないんですか? どうしてそんなに余裕そうなんですか?
……完全なる逆ギレだ。私はかなり緊張してるのにもかかわらず、余裕たっぷりな法月先輩が少し妬ましい。
「うん、よろしく。……そうだ、『綾世先輩』って呼んでくれない? それと俺からは『陽翠』って呼んでいい?」
……一応疑問系にしてるけど、断らせる気なんてないですよね。
「取ってつけたような言葉」という例えは、今のためにあったのかもしれない。そう考えてしまうのも仕方がないと思う。
にこにこの笑顔から謎の圧力が出ている。……この人、笑顔の裏で闇を抱えてるタイプだ。……まあでも、異能者は異能者でも黒の異能者だったら、逆に闇を抱えない方が難しいか。私も人のこと言えないし。
ほうづ……いや、綾世先輩のそれに気づいたら、さっきまでの妬ましさはどこかに消えていた。先輩となら仲良くなれる、そんな予感がした。
「よろしくお願いしますね、綾世先輩」
「うん。緊張解けたね、陽翠?」
——そこからの約15分間を思い出せない。もやがかかったみたいに何も。
たった数時間前のことって忘れるもの? そう簡単に忘れないはずだよね。
目を凝らすように思い出そうとすると、「秘密だよ」と笑った綾世先輩の姿が浮かんだ。……なんだ、忘れてないじゃん。
今日の昼ごはん何食べたっけと聞かれてとっさに答えられないやつに似ている。きっとそれ以外の忘れていることも寝て起きたらまた思い出すよね。
明日も学校だ。考えごとは終わり。
思考するのを一旦止めて、ぐるぐると回っていたものを一旦取り出して、眠る体勢に入る。
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