第60話 ステージ



 今日はブレシド・セインツ学園、870期の卒業式――。

 聖女選定委員会の壊滅から、約1年が過ぎていた。オレは魔法学の講師をつづけ、こうして聖女候補生たちを見送ることができる。

 卒業記念イベントにはルーシー他、868期のルミナ、ルナ、フェイ、アナベラたちも来ていた。

「あなたには感謝してもしきれないわ」

 聖女選定委員会の罪を告発しない代わりに、彼女たちも罪に問わない、となった。反聖女派のマット議員が罪に問われたのとは異なる。

 それは彼女たちが、改革を目指していたからであり、議会預かり……として聖女の待遇を検討する委員となっていた。

 天才結界師、ゼド……エクセラもいる。聖女選定委員会のことを知った上で、オレが人族とかかわることを容認したのは、彼らのやっていることに反対だったから。師匠としてオレを鍛えたのも、そう思っていたかららしい。

「先生!」

 リーリャと二コラが駆けてきて、オレに飛びついてくる。彼女たちなら、まだ抱き合っても問題となる歳ではない。

「卒業するの……寂しいです」

 この世界に学校というものはなく、卒業なんてはじめてのことで戸惑う気持ちもわかる。卒業式といっても立食パーティー形式なので、こうして聖女候補生たちも歩き回って、講師たちにお別れを言える機会があった。

 ライカが走ってきて「私、絶対に魔法でも先生を超えてみせるんだから!」

 負けず嫌いらしい、勢いよくそういわれてオレも苦笑する。

 ケイトとアイネスもやって来た。

「先生が私たちの先生で、よかったです」

 アイネスはあのとき、ずっと一緒だったので、余計にそう思うのだろう。鬼族の印象が変わってくれたなら、何よりだ。

 そこにユリア、ミシェラ、バーバラ、クィネも近づいてきた。

「ダメ生徒だった私たちも、先生のお陰で卒業できます」

 魔法学ばかりでなく、多くのことで落第生だった四人も、最後までくじけずについてきた。


 フェリシアがやって来た。

「最初は、とんでもない魔法学の講師だと思ったものですが、一番、私たちのことを考えてくれる先生でしたわ」

「そう思ってくれたなら、何よりだよ」

 フェリシアと握手する。最初に反発してきたが、こうして分かり合えるとは思っていなかった。

 レギーナ姫とプロムもオレのところに来る。

 あのとき、後ろ手にしばられていたけれど、実はいつでも逃げだせる状態だった。五人と話し合って、人質として利用されることを了承していたからだ。

 オレも、魔法がつかえるレギーナが大人しく捕まっていることを、不自然に感じていた。

「キミが対人魔法を推していたのは、あの日のことがある、と思っていたから?」

 今まで聞けなかったが、卒業を前にして聞いてみることにした。

「聖女選定員会のことは、何となく胡散臭いと思っていたからですわ。聖女もいずれ戦わなければいけない、と……」

 人族の中で、聖女選定委員会をだしていたら、永いこと席を空けることになり、嫌でも目につく。その背景がみえなかったのは、鬼族がかかわっていたから、誰も実態をつかめなかったのだ。

「まさか、あなたが一掃してくれるとは思いませんでしたわ。よくやった……と褒めておきましょう。オホホ……」


 レイラも近づいてくると、無言のままオレをぎゅっと抱きしめてくる。でも、すぐに離れて「セフィーに悪いから、これぐらいで」と悪戯っぽく笑う。

 セフィーもやって来たので、オレは小さなケースを渡した。

「これは、知り合いにつくってもらった〝コンタクトレンズ〟というものだ。メガネを外しても、これをつければ見えるようになる」

 目が悪くて、聖女になることを諦めていた彼女だが、メガネをとれば美少女なのだから、それをみんなにも知って欲しいと思っていた。元の世界の技術だが、これぐらいなら赦されるはずだ。

 セフィーも涙を浮かべているけれど、少女たちの気持ちを受け止めてあげるには、まだ早い。オレも頭を軽くポンポンと叩いて、慰めておく。

「ヨーダ先生! 挨拶をお願いします」

 ドリー校長が壇上から、そう声をかけてきた。聖女選定委員会を崩壊させたオレもお咎めなしだったが、暗に一部から英雄視されており、こうして卒業に向けて挨拶を求められる。

 オレは壇に上がって、みんなを見渡す。

「この870期は、みんなが聖女としてデビューすることが決まった。でもそれは大変なことだと、肝に銘じておいて欲しい。人々の期待を一身に背負って、グループで活動するのだから」

 これはオレが提案した。ヒントは868期がユニットを組んでいた……こと。つまり聖女もグループを組んでデビューしてもよいのでは? と考え、その提案が通って870期はみんな、聖女となったのだ。

 そのグループ名が〝サイ=レント〟なのは、レントという名のオレへのリスペクトか? それとも……。

 卒業記念で、みんながステージに上がる。聖女として初のグループ編成。センターはレイラ。二列目は貴族の四人が、三列目に八人が並ぶ。

 みんなが輝いて、明るく卒業できる。オレはそのステージを見上げながら、目頭が熱くなる。鬼の目にも涙……であった。





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聖女候補生と、転移してきた〝鬼〟教師 巨豆腐心 @kyodoufsin

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