「Summer Death Warmed Ūp」

低迷アクション

第1話

 本タイトル“サマー デス ウォームド アップ”の“Death Warmed Ūp”は冷凍状態の死体が常温に戻ると言う意、体験者が遭遇した出来事を語る時、学生時代に見た、ホラー映画のタイトルを真っ先に思い出すからだと言う。以下は“C”さんの体験である。と言いたいが、まず、全人類共通の問題を先に述べたい。


例年となってしまった夏の“猛暑”… 


毎年、最高温度を更新し続ける今世では“今ならまだ間に合う”、“あっちー地球を冷ますんだ”等々のキャンペーンは失笑を買い、過去の遺物となった。平成に繰り返し叫ばれた“まだ間に合うストップ環境破壊”は令和の新時代においては“いかに変容する環境に適応するか”に置き換えられ“未来より今生きてる奴等の事を考えろ”とのCO2排出大国大馬鹿大統領の妄言により


“消えるのは地球ですか?人ですか?”と、背筋が静かに泡立つA〇JAPANのCM通りの世界が本当に到来しそうな気配がある。


これらの変容を最も体感しているのは、外作業を生業とする業種の人達だ。


生活面と言うより健康面の危険が顕著になっている事を誰もが知りながら、社会のライフラインを守るため、気休め程度の注意喚起しかしないのは、最早、公然の秘密となった。


強すぎる直射日光は、目と肌を焼き続け、高齢者に見られる皮膚がんや白内障は若年者にも、静かに浸透の兆しがある。


昨年から日本の警察官も、サングラスの着用を始め、発がん性物質が疑われる日焼け止めは


“将来、発症するか、しないか、わからん癌より、日を浴び続ける事によって、確実に発症する皮膚がんの方がよっぽど怖い”


との、最もな意見により、これからも常用され続けるだろう。


前置きが長くなった。


Cさんの仕事は、山の調査及び、林業、山林整備の補助と言った、担当エリアの山を管理する業務…


上記に述べた夏の猛暑に直面し続けながら、日々務めている。


「エアコン付きのベストを着ているけど、やっぱり、年に1回は熱中症で倒れるよ。それくらいキツイ。後、僕達の仕事の風物詩はね。山に続く、道路、あのアスファルト一面をちぢれた麺みたいなのが、ビッシリ転がってる奴…なんだかわかる?全部ミミズだよ。土の中、熱すぎて地面に出てきちゃって、みーんな干からびちまう。


あれを見ると、今年も暑いな、夏の始まりだなってな。あれだね…もう暑いのは、地上だけじゃないんだよね。だからね。あんな事も起きるんだよね」


8月の山間作業の事である。同僚と老木のチェックを行っていたCさんは、ふとした事で、彼等とはぐれ、山の中で迷ってしまう。


どんな山のプロと言えど、道に迷う事があるのか?と疑われるかもしれないが、筆者の友人も、この道25年の林業職人が、一時の慢心、判断ミスで、倒木地点(チェーンソーで木に切れ目を入れ、切り倒す場所をこちらで設定する作業の事)を誤り、片足を失う事故に遭遇した事がある。


それほど山は、人の経験や技術を呑み込んでしまう場所なのだろう。だから、Cさんも焦っていた。日が傾くにつれ、下山や合流の可能性は低くなる。


獣が使う道を探す事も考えた。確かにそれらと遭う可能性も高くなるが、逆に利用できる面もある。皮肉な話だが、昨今では、アーバンベアと言う都市部に熊が出る現象のせいで、動物達の方が人里に続く道を知っているのだ。


正直に命の危険性がある。携帯していた水は無くなり、このままだと確実に熱中症で、倒れる。


ベストのバッテリーは充電が切れ、無用の長物…


午後の最も気温の上がる時間に合わせ、流れでる汗の溜まり場となり、不快感を増長させている。


恐らく今日は、夜になっても暑いだろう。去年は10月になっても、猛暑日が続いていた。一体、世の中はどうなってしまうのだろう?悪い方へ、悪い方へと進む頭を振り、


藪の中を進む内に、妙な感覚を足元に抱く。


「始めは、気のせいかと思ったよ。足元がね。動くんだよ。上に上がったり、下がったりの上下に…そしたら、その内にね」


“ボゴッ”


と、くぐもった音と共に地面を覆う枯れ葉や小枝を突き上げ、真っ黒いスイカ状のモノが足先に現れる。


驚きと共に凝らす視界に合う土虫と苔に塗れた黄色い目…瞬間、悲鳴と共に、

“腐乱しきった人の頭”と理解する。


勢いよく尻餅をついたCさんの背に、同様の蠢動が走る。驚き、後ろへ下がれば、間髪入れず、いくつもの頭が次々とモグラ叩きのように現れ、真っ黒の口腔を開け、叫び始める


「後で聞いたんだけどね。あの辺は土砂災害とか崖崩れ、オマケに獣害も酷くて、昔から結構…


入ったきり、還ってこない人が多いらしくてね。多分、その人達だよ。もう、腐敗っていうより、土人形みたいになってたね。叫んでた内容は“熱い”だと思うよ。


舌も歯もないけど、必死に何かを擦り合わせて、叫んでるって感じだった」


恐怖と混乱でCさんの頭は、この時点に至るまで、逃げなければと言う事を、自覚していなかった。だが、呻く群れ達が、頭より下を地表から露出し始める段階になると、彼等に背を向け、走りだす。


その刹那…


足に何かが絡みつく。


視線を下げれば、土色より、真っ黒な手と大口を開けた顔が、自身の体に這い上がってくるのを捉える。意識はここで途切れた。


次に気が付いた時には、救急車の中だ。同僚が高所から滑落した彼を発見する。Cさんが見たモノは、熱中症が見せる幻覚と片付けられる。


後日、問題の場所を同僚と訪れた。例の者達が這い出した跡はそこら中にあったが、動物が土を掘り返したモノと言われて、話は終わった。


現在、Cさんは精神面の不調を理由に、現場職でない事務職勤めをしている。


「毎年、どんどん暑くなってるから…あんな“死人沸き”には二度と遭いたくないんだよ。誰も信じてくれないけど、見たんだ。暑いのは地上だけじゃない。彼等の世界、あの世だってきっとそうだよ。ホントにどうなっちゃうんだろ…」


ここまで、彼の体験を聞いて、疑問に思った事がある。それは、Cさんが見た死者達が熱さのため、地上に出たと言う“決めつけ”についてだ。叫んでいた言葉にしてもそうだ。


著者の疑問に彼は少し笑い、口を開く。


「この話のタイトルはそうだな“Summer Death Warmed Ūp”にしてほしい。昔観た映画の原題でね。何故、つけたかと言えば、そうだね。あまり思い出したくないんだけどね。


温かかった。いや、熱かった。掴まれ、体に這い上られた時…彼等の体がね。だから…」


そう言って、Cさんは冷房の効き過ぎた部屋で、額から吹き出す汗を拭った…(終)

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