Ⅰ-4.家族選挙②

 リビングにはナナナとマレニが座っていて、ヨッカとオパエツ、それから私がダイニングテーブルにつくと家族が全員集合した。


「じゃあ、家族選挙会議を始めよう。司会進行は順番的にオレ、ヨッカが務める」


 ヨッカ以外の四人が拍手し、ヨッカは一礼した。


「今月はナナナが初参加なので、軽く家族選挙について、オパエツ、説明してくれるか」

「何でオレが」

「司会進行の命令は絶対だよォ♪」


 マレニをひと睨みして、オパエツは鼻を鳴らした。


「ごめんね、オパエツ。大体のことは分かるから大丈夫だよ」

「いい、黙って聞いておけ。家族選挙はハウスルールもあるからな」


 オパエツはひとつ咳払いをして、話し始めた。


「家族選挙は、我々模人の存在意義である『人間になる』ことの証明に用いられるプロトコル――手続きだ。『人間になる』とは即ち、この都市の中心にある、人間にしか採掘出来ないと言われている鉱石『魂石』を採掘することで証明できる。月に一度、その採掘作業へ挑戦する者を決めるのが『家族選挙』だ」

「ここまではデフォルト知識で分かってる?」


 マレニの質問に、ナナナは肯いた。


 オパエツが説明を続ける。


「家族選挙の基本ルールは、①家族のメンバーが充足人数である五人以上であること ②メンバーはひとり一票の投票権と被選挙権をもつこと ③メンバーは互いに『最も人間的である』と思うメンバーに投票すること ④最多得票者が採掘挑戦権を得る 以上の四点だ」


 ナナナは再び肯く。


「ここからがハウスルール。所謂、各家族で異なるルールの部分。最近は魂石の採掘に行っても、失敗するのが殆どだ。だから、家族によっては当番制で最多得票者を予め決めてから投票する家族や、じゃんけんやクジ引きで投票先を決める家族もいる。関心がないんだな。まぁそこの善悪は余所は余所、うちはうちだ。特に言及しない。うちのルールは分かりやすく『話し合い』だ。まずは一回、仮投票をする。そのあとその結果について話し合いをして、その後に本投票に移る。もちろん、仮投票の最多得票者が本投票で最多得票者になるとは限らない。期限ギリギリでも納得するまで話し合う。これがクソ真面目なうちのハウスルールだ」

「誰が決めたの?」

「もう覚えていない。百代以上昔のこの中の誰かが決めたんだ」


 オパエツは背もたれに体重を預け、コーヒーを啜った。


「去年の採掘挑戦者は誰だったの?」

「去年はナナナだったよ。一番最後の年だったし、人格者だったから」


 私は先月のことを思い出しながら言った。満場一致でナナナになったとき、ナナナは恥ずかしそうに笑っていた。目の前にいるナナナも、そっくりな顔で笑った。


「そっか。でも、採掘は失敗したんだよね」

「まぁ、採掘が成功するかどうかって、さっき言ったとおり、かなりオマケみたいなもんだから」


 私は笑って誤魔化した。


「じゃあ、早速仮投票をしよう。このカードに、それぞれ投票先を書いてくれ。自分の名前は書かないように。白紙票も無効な」

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