I-2.きみと踊りたいのさ②
『グレイズダンス――人類時代の格闘技とダンスを融合した全く新しいエンターテインメント! graze(擦る)の名の通り、グレイズダンサーは身体接触ギリギリのラインまで互いの肉体を近づける。それは素早く、それは軽やかに、それは全身の毛が逆立つほどの緊張感を持って! さぁ、今すぐきみも、シャーマグレイズジム(CGG)に入会だ! ホール会場特設入会所から入会すれば、通常価格の……』
入り口で配られたチラシにはそんなことが書かれていた。CGGはヨッカの所属している由緒あるグレイズジムであり、今回のダンスバトルショーの主催団体だった。
「コーラでよかった?」
マレニとナナナが両手に四人分のコーラを抱えて観客席に戻ってきた。私はお礼を言って、受け取ったコーラひとつを隣のオパエツに渡し、もうひとつに口をつけた。空いていた隣にナナナが座って、もうひとつむこうにマレニが座った。
アリーナは収容人数五〇〇〇人で、ソウィリカ内では二番目に大きい施設だった。観客席に囲まれた六メートル四方のステージで、これからグレイズダンスが行われる。
「最初がジムパフォーマンスで、次がメインバトルだよね」
ナナナが、コーラと一緒に買ってきたパンフレットを捲りながら言った。CGGのこれまでの試合や練習風景、そして所属ダンサーの個別ページがあり、ヨッカのページもあった。
『頭角、否、頭脚を現す期待の四年星』
煽り文と共に、逆立ちをしながら足を振るヨッカの写真が載っていた。ヨッカは身長こそ、私と同じ一六〇センチ前後だったが、とにかく足が長かった。普通に立っている分には気にならないが、逆立ちした足が襲いかかってくれば、誰もがその攻撃範囲の広さに驚くだろう。
「ヨッカも試合に出させてもらえるようになったかぁ」
マレニが腕を組みながらしみじみと言う。
「部屋でいつも頑張ってたからね」
「この一週間でも、ヨッカの部屋からトレーニングマシンのガシャンって音とか『うぅん』『アァ』って声も凄かったよ」
「それを四年聞かされてるんだ。勝ってもらわないと困る」
私たちが話していると、観客席からぽつぽつと拍手が上がり、つられて私たちも拍手した。ダンスバトルショーが始まる。
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