I-2.きみと踊りたいのさ①
ナナナが来て一週間が過ぎたある日、私たちはヨッカのダンスバトルに観客として招待された。
会場はソウィリカの東側にある大型アリーナで、普段はダンスバトル以外にもバレーボールや陸上競技など幅広い興行で盛り上がっていた。
ヨッカは先に会場入りしているので、私たちは四人で電車に乗って会場へ向かった。
「ヨッカのダンス楽しみだねぇ」
「本物の試合を見るのは初めてだから、楽しみ。歓迎会の時のオパエツとのダンスも凄かったし」
「馬鹿言え。あんなのはヨッカが手加減していたんだ。本気を出したヨッカに俺が善戦できるはずがないだろ」
銘々がヨッカに期待を寄せる中、私は少し、いやかなり会話に集中できずに上の空で電車に揺られていた。
「まだ気になっているのか?」
オパエツに訊かれて、私は反射的に彼の方を見た。それから、心配そうに私を見る二人にも気づいて、私はかぶりを振った。
「大丈夫。ヨッカ、頑張ってほしいよね」
「先週見た幽霊のことだろ?」
「え、幽霊? 何のこと?」
相談していなかったマレニだけが、目を丸くしてきょろきょろ見回した。
「マレニに喋ってなかったのか。まぁ懸命だな」
「なにそれ、どういう意味?」
二人が睨み合う間に割って入るように、私はマレニへ幽霊のことを説明した。
「え、なにそれ、前のナナナの幽霊?」
「いや、ナナナとは違った。ヒトに見えたけど、なんかもっとぼわっとしてて、ふわふわしてて……」
「ナナナは見てないの?」
「うん。振り向いたときには消えちゃってたみたいで」
「オパエツのWRの故障は? あの日はかなりぶん回したんだしさ」
「あるわけない、とは言い難い。そんなヴィジョンを写したという記録はない。だが、記録がないだけだ。肯定する証拠も否定する証拠もない。古典的な悪魔の証明だ。故に、そこまで深く考えるな、イヨ」
「……うん」
でも、あのときに見えた幽霊は、表情こそ隠れていたけれど、私に何かを求めていたように感じられた。助けを求めるような、強い何かを。
「もうすぐ着くよ」
ナナナに呼ばれて、私は三人の後を追うように立ち上がった。
私たちが電車から降りようとしたその瞬間――
「すみません!」
「どわっ」
私は後ろから来た声の主に背中からぶつかられて、全身に激痛が走った。そのままホームに転げ出て、倒れないように踏ん張るので精一杯だった。
「ご、ごめんなさい。急いでいるんで」
ぶつかってきた相手は殆ど足を止めないで、階段を駆け上がっていった。
「イヨ、大丈夫?」
「何あの子、ひとにぶつかっておいて」
私はまだ声を出せなくて、必死に痺れる手で背中を押さえた。
防衛反応だ。私たち模人は、戦い争わないためか、身体接触があると強い痛みが全身に走る。だから今みたいに不慮の接触があったときには、意識外なこともあって声が出なくなるほどの痛みが胸を貫く。
「今のヤツ、すぐ走って行ったな」
「そう、謝りもせずに!」
「そうじゃない。アイツ自身が防衛反応に全く動じていなかった。常日頃、人と接触する危険があるような生活をしているのかもしれない」
「……グレイズダンサー、ってこと?」
ようやく声が出てくるようになって、私はオパエツに訊ねた。今の子が、ヨッカのダンスバトルの相手になるかもしれないのか? と。
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