ウグイス嬢でやらかした話〜ほぼ実話〜

タルトタタン

第1話

ウグイス嬢してやらかした話


「〇〇を!〇〇をどうぞ!よろしくお願い致します」


この声援を聞くたび思い出す、

あの時の事を


昔、ウグイス嬢の手伝いをしていて──やらかした事を……。


──


「平日、人がいないからタタンちゃん手伝い来れる?」

候補者の奥さんから連絡。


「いいですよ〜」と軽い気持ちで返事。


ボランティアだし、と気楽にご自宅へ伺うと…そこには戦場が広がっていた。


地図を広げてピリピリした空気。

議員の家族が真剣な顔で作戦会議中。


まるで『キングダム』の戦術会議。




「タタンさん、今日ウグイスお願い!」


え、ぶっつけ本番!?




ウグイス嬢は2人体制。

奥様も綺麗だったが、もう一人は共通の知り合い・愛ちゃん。

ヘアモデルもやってて、陽キャ&美人。


他にもクラスのリーダー格級の男性が集まり

カースト上位の空気に囲まれ、



待機中に顔の加工を……。


アイライン追加、

眉毛も少し濃くして、赤い口紅をキリっと。


(これで少しはマシだろ……)



いざ出陣!!


選挙カー配置


候補者 助手席

ベテラン運転手 運転席

愛ちゃん 右後部座席

タタン 左後部座席



候補者の名前は仮に「山田やまだ太郎たろう」さんとします。


待機中、『ウグイス嬢セリフリスト』

が書いてある紙を渡される


山田やまだ

太郎たろう

ねがいします


なぜか全部に

ひらがなが振ってある……?




なぜか理由はすぐわかった


開始、5分


「山田、山田太郎をよろしくお願いします」

「山田、山田太郎をよろしくお願いします」


……これなら簡単かも。



──しかし15分後、異変が。


「山田……や、山田を……」

「や、まだ……まだを……」





ゲシュタルト崩壊。


山田山田山……山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山田山山山田山田山田山田山田山田山田山山山田…山田山山山……




頭の中、山田で埋め尽くされる。


(田山?……山田やまだだよ!)



字が見えなくなる。

なんなら何にかの記号に見えてくる。


一度リセット。

ゆっくり丁寧に読むことに。


山田やまだ山田やまだ山田やまだ山田やまだ山田やまだ山田やまだ山田やまだ山田やまだ……


1時間後、やっと慣れてきた。

山田やまだから解放される



そして事件は起こる。


ベテラン運転手がハッとする

「あっ!鈴木議員の選挙カー現れた!」


山田立候補者も

「タタンさん、鈴木議員に向けて! 先手! 早く!」

(えっ……なにを?)


マイクを持って固まる




ポケモンのように急に現れる選挙カー 


➤たたかう あいさつ

 けんとう にげる



「タタンちゃん、これじゃない?」

愛ちゃんがセリフリストの1番下を指さす。


「す、鈴木候補者のご健闘をお祈り申し上げます……」


先手必勝! 


(うぐっ……そんな所に、いたのか…) 


鈴木候補者の選挙カーが慌てて

スピードを少し落とす




「や、山田候補者の健闘を祈ります!」


──静かなバトルだ。



選挙カーがすれ違いざまに笑顔で手を振り、

敬意を見せる……けど、


心の中では『お前が落ちろ』って絶対思ってる。


──これが選挙。




休憩で戻ると奥さんがジャンパー洗って干して、ボランティアの昼食準備、片付け。


選挙中ほとんど眠れないみたいだった。



午後の戦も続く。


「山田!山田太郎をよろしくお願いします!」


親子連れの声援に笑顔で返す。

選挙カーとのバトルにも、なんとか対応。


山田候補者からも

「タタンさん、ウグイス上手だね〜」


なんて言われて、

でへでへ、してた……。




残り1時間。油断していた。


マイク持って、笑顔で手を振りながら叫ぶ。


「山田!山田太郎!山──」


その時、

ブ〜〜ン……


何かが窓から乱入した


一瞬、でかいハエかなって……



あしなが蜂だった


「山、やわぁだー!? ぎゃぁああー!! ハチ!! うわぁあああああああ!!」


顔に向かってきた

「いやややややぁぁ!! ぎゃぁあああ!」


「タタンさん! マイク切って!!」



ブチッ!! キーーン……


「キャー!!」「うわぁ」「クソっ!!」

選挙カー内はカオスに……


皆シートベルトしてるせいで

上手く動けない



山田候補者のチラシを盾にして顔を守りながら、窓にあしなが蜂を誘導させる


ブ~ン……



蜂は窓から飛び立ち、車内は静寂に包まれる。

(やらかした……マイクで……)



「……すみません……」

「いや……大丈夫……」


残りの時間は愛ちゃんが代わってくれた。


幸い、田んぼ近くで一軒家が数軒だったけど、数人には私の汚い叫び声が届いてしまった…。


タタンの心のHPほぼ0……。


笑顔で手を振りながら、

心の中でずっと思ってた。


(森も林もあるのに、なんでわざわざ、狭い窓から選挙カーに乱入する!? はぁ!? 意味わからん!?)


(ジャンパー派手な色だから、でかい花だと勘違いしたのか……バカバカ! 〇〇ピー蜂!)



そんな静かな戦いを終えて、

応援した山田立候補者は──当選。


ホッと安堵した…。



───


今ふと思う。

あの蜂、なんでわざわざ来たんだろ……。


もしかして、この話を書くためだったのかも。



選挙って、意外といろんなドラマが詰まってる。


皆さんが知らないところで、

ウグイス嬢が

蜂とバトルしてたりもするんです 笑




だから、みんな──選挙、行こう。




『ウグイス嬢でやらかした話』


おしまい


───


あとがき


お読み頂きありがとうございます。

この作品は議員さんがバレないように、一部修正し、誇張していますが、


あしなが蜂乱入は本当です

ネタではないです 笑







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