”そんな奴やめてオレにしとけよ”って言う幼馴染のアレコレ

黒烟

アンタは私の何なんだ

「でさぁ、佐藤くん少しずつ心開いてくれる感じはあるんだけど肝心の悩み教えてくれないわけ」

「ふーん」


幼馴染の涼介に愚痴をこぼす。

学級委員の委員長を任されたからには、責任を持ってこのクラスを良くしたい。

だというのに、コイツは毎度のことながら気の抜けた返事で話を聞いているのかわからない。


「アンタちゃんと話聞いてる?」


スマホを弄っていた涼介が手を止めこちらをじっと見つめる。

そして私のペンを持つ手を取り、顔を近づけて来た。

その仕草にドキッとしてしまう。


「——そんな奴やめて、オレにしとけよ」


瞬間、息を呑む。

時間が止まったかのようだった。

頬が朱に染め上がるのが自分でわかる。暑い。

大きく息を吐いて、返事をした。


「——いや、アンタにしてるけど?」

「知ってる」


手元にあったノートでバシバシ叩く。

涼介は笑いながら防御の姿勢を取った。


「いい加減にして!何回このやり取りするわけ!?」

「25回目だな」


などと言って私の彼氏様は笑う。

そう、クラスのメンバーの悩みを解決しようと奮闘する度、このくだりが発生している。

今回で記念すべき25人目にして25回目だ。

正直毎回それにドキドキしている私もどうかと思う。


「ふざけてないで一緒に考えて」


呼吸を整えてから涼介を睨んで言う。

まだ少しだけ動悸が残っている。


「んーそうだなぁ」


ふざけたりからかったりもするが結局一緒に悩んで答えを出してくれる。

涼介とはそういう男だ。


「じゃあ本人に直接聞いてみるか。一緒に」

「へ?」


ーーー


「聞いてくれてありがとう、石川さん。…二階堂くん」

「どーいたしまして」

「ううん、委員長だから。当然だよ」


別れの挨拶をして佐藤くんの家を後にする。

まさか直接お宅に訪問することになるとは思わなかった。

しかも涼介を連れて。

提案した本人はケンセーも含めてと言っていた。どういうことだろうか。

素知らぬ顔で横を歩く涼介を横目で見る。


「…アンタつくづく人の悩み言い当てたり解決するの上手だよね」

「誰かさんが他人にばっかり構って寂しい彼氏さんだからか?悩み仲間ってこと」


なかなか痛いところをつかれて返答に詰まる。


昔の涼介はこんな感じではなかった。

当時は私よりも背が小さく、気弱で、私の後をいつも付いて来るような子だった。

それが中学になり、身長はメキメキと伸びて声も低くなり、全体的に男らしく筋肉も盛られ、その成長ぶりに本人も困惑していた。

見た目に合わせて性格も変えたほうがいいかと相談され、ついイタズラ心からか持っていた少女漫画の一コマから、とても恥ずかしいものを勧めてみた。


”そんな奴やめて、オレにしとけよ”


それが全ての始まりだったのかもしれない。


涼介は当然恥じらったが行動も含めて実演してくれた。

そこで誤算だったのが、そのセリフを喰らう対象が私だったことだ。

周りに他の人間なんぞいないので当然と言えば当然だが、短期間で変貌を遂げた幼馴染が胸キュンセリフを言うそのギャップを真正面から頂いてしまった。

つまり、結果的に言われた方のが大層恥ずかしがり、身悶えていたのである。

指の間からチラリとみた涼介の瞳が、新事実を発見したかのようにキラキラ輝いていたのを覚えている。


それから何度もこのセリフを浴びせられ。

なんだかんだ付き合うことになって。

今に至る。


「これで残るクラスメイトは何人だ?」


涼介が持っていた私のノートを覗き込む。


「後は佐々木さん、安村さん、小林くん、西尾くんの4人だね」

「じゃああと4回は言えるな」


涼介の顔が近づく。

来るっ、とわかっていても、回避方法が無いのは過去の自分が誰より知っている。


「——そんな奴やめて、オレにしとけよ」


うぐっと息が詰まって赤面しつつも、今回は正面から受け止めてこちらからも攻めることにした。

反撃だ、喰らえっ。


「——アンタこそ、私以外視界に入れないでよ」


私が彼女なんだから、と付け加える。


静寂が訪れ、その後夕陽が染めるよりも早く涼介の顔が茜色に変わる。


「おまっ…それはヒキョーだろ!」

「あははっ」


ヒキョーなのはどっちだ、可愛い幼馴染よ。

恐らく真っ赤に染まっているだろう私の顔を見られないよう、少しだけ前にスキップした。


あーもう。

最高に楽しい。

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”そんな奴やめてオレにしとけよ”って言う幼馴染のアレコレ 黒烟 @kurokemuri

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