第22話裏切り者は誰だ?!



臨時隠密班設立初日。

休日返上でいつものように副総隊長室に出勤すると、部屋にはグランブルー隊長がソファに足を組んで腰掛けていた。


「グランブルー隊長? どうしてこちらに?」

「如月副総隊長、わしの散歩に付き合ってくれんかの?」

その強い視線に抗えず、僕は渋々付き合うことにした。


彼女は七十八歳とは思えないほど背筋を伸ばし、白銀の髪をきっちりまとめている。彫りの深い顔立ちには、若い頃の気品がそのまま残っていた。


アメリカ生まれだが、日本で騎士ガーディアンとなり、獅子神総隊長よりも長い剣歴を持つ大ベテラン。

その表情は堂々としているのに、足を組んで笑う仕草には不思議とお茶目さもあった。


「何故、婆のわしを選んだんです?」

「……グランブルー隊長だから言いますが、隊長の誰かが裏切り者だと睨んでいます」

「わしが裏切り者かもしれんぞ?」

「獅子神総隊長から一番信頼を得ているのに、何を言ってるんですか」と笑った。


「なるほどの。それでわしなのか」

「はい」

「さて、聞きたいことも聞けた。共に散歩に参ろうか」

副総隊長室を後にし、二人は無言で廊下を歩き出した。


「如月副総隊長を見ていて思うことなのじゃが、あの弱虫が副総隊長になっているのが感慨深いことだの」

「何故それを?!」

「獅子神のやろうに延々とお前さんの話を聞かせられたから知っておるのじゃ。予備隊員になったばかりの頃から聞いておる」

「あの筋肉達磨」と今この場にいない獅子神総隊に腹が立った。



「隊員達も行方不明の者達が帰還してホッとしておるようじゃな」とグランブルー隊長は、本部の隊員達を保護者のように見守っている。

「そうですね」

「早く、あの子達も見つかるといいのじゃが……」

「……そうですね」

グランブルー隊長もあの大災害で家族を失っている。夫と息子夫婦、そして孫までもが行方不明だ。

騎士ガーディアンには、家族を探すためという理由の者が多くいる……騎士ガーディアンなら、あの日のことをいち早く知れるからだ。



「そいえば、最近ちゃんと仕事をしておるようじゃな」

「……まあ」

「しっかりやっておるようで良かった。さて、お昼にしようかの。勿論お前さんもじゃよ?」

僕が行方不明になっている間の仕事を片しかったが、グランブルー隊長の気迫に頷くしか無かった。



お昼をどれにするか選び席に座った。

「如月副総隊長、そのなりで良く食べるんじゃな」

「まあ、お腹が空いてるんで」

「カレー大盛り、豚汁、豚丼特盛、マカロンか……どんな組み合わせじゃ」とグランブルー隊長は呟いた。

「それ、グランブルー隊長が言えます?お粥って……ば、」

ババアと言いかけて、グランブルー隊長の鋭い睨みに言葉を飲み込んだ。自分で婆と言うのは良くて、他が言うのは駄目なのか。


「……如月副総隊長」

「第四訓練場で何かあったみたいですね」

音は小さいが、第四訓練場の方から悲鳴と地響きが聞こえて来る。

「食事くらいゆっくりしたいんじゃがな」とグランブルー隊長はテーブルに手をつきながらゆっくりと立ち上がった。


封印されていた複数の物語が解放されていた。

さまざまなモンスターが第四訓練場を埋め尽くし、隊員たちは対応に追われている。

「ゔ……」

「助けて、くれ」


だが、多種多様なモンスターが第四訓練場を埋め尽くして、隊員達が対処しきれていない。



「如月副総隊長!グランブルー隊長!!」

木田は僕たちが駆け付けたのを見つけ、怪我を負いながら走って駆け寄って来た。

「木田?!お前なんでここに?」

「俺のことより、モンスター達が消えないんです!!」

「なんだと?!」と驚きながら、木田から渡された封印札の貼られた本を見てみると、目の前にいるモンスターたちの物語だった。


「通常封印札が貼られれば、モンスターは消えるはずじゃ!」

「違う封印札を使用してみましたが、モンスター達が消えません!」

「グランブルー隊長、それより隊員達を助けましょう!」と力強く、目を合わせて言った。


「そ、そうじゃな。取り乱してすまない」

「大丈夫です。僕は、右からモンスター達を倒しながら隊員達を助けます。グランブルー隊長は反対側から。木田は、ここから近い黒隊ノワールに増援願いを!」

「「はっ!!」」

「クロ、シロ、出番だ」

狐達の名前を呼ぶと、「コーン!」と鳴きながら、クロとシロが僕の影から飛び出してきた。



「主!あいつら、倒す?」とシロが尋ねた。

「ああ。シロは広域結界を展開、クロは僕の後ろを護ってくれ!」

シロが「コーン!」と声高く鳴くと、広域結界が第四訓練場を覆ったおかげで、モンスター達が訓練場の外に出て行かないから非戦闘員の危険は無くなった。

「クロ、行くぞ!」

「コン!」

グランブルー隊長は既にモンスター達を倒し始めている。

「グランブルー隊長の念力は凄いな」

グランブルー隊長の物語武器の能力念力で、モンスターがぺちゃんこになっていく。


「主?」

「何でもない」とクロに言い、モンスター達に突っこんでいく。モンスターは吸血鬼や鬼、がしゃどくろ、オーガ、巨大なゾウといった厄介なモンスターばかりだ。おそらく危険度レベルの高い物語の封印が解かれているのだろう。


白龍は調査の為に研究室に置いてきたから、今持っているのは轟雷刀だ。

「千雷」

空には千の雷の槍が現れ、モンスター達を次々串刺しにしていく。

「千雷を使ったから、大方のモンスターは倒せたかな?」

後ろから、一つ結びの髪が少し崩れたグランブルー隊長が合流した。

「他に隊員もいるのに広域攻撃とは、相変わらず強引じゃな」


「一気発射じゃないので、そこまでコントロールは必要としないので簡単です」

「そう言えるのはお前さんだけじゃろ」とグランブルー隊長はあきれている。


見る限りモンスターは倒し終えたので、地面に落ちている物語に封印札をグランブルー隊長と貼っていく。

全て貼り終えた頃に黒隊ノワールだけが第四訓練場に到着した。木田は黒隊ノワールを呼びに行ったはずなのに、何で一緒にいないんだ?


黒隊ノワール来てくれてありがとう。応援を頼んだが、僕とグランブルー隊長で何とかなった。すまないが、怪我人の救助を手伝ってくれ」

「はっ!」と黒隊ノワール全員が敬礼した。


グランブルー隊長が他の隊員達に聞こえないように「今回のコレは裏切り者の仕業かもしれんな」と耳打ちをしてきた。これには、僕も同意をする。

裏切り者を探し始めて、訓練場で物語の封印を大量に解くなんて、裏切り者以外いないだろう。


今回たまたま第四訓練場に近い食堂で昼食をしていたから、直ぐ駆けつけられたが……もし、違う場所だったら大惨事になっていただろう。



複数の物語の封印が同時に解かれ、物語に封印札を貼っても消えないモンスター達……。これは単なる偶然か、それとも何か繋がりがあるのか?




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騎士団なのにやる気ゼロ!?最年少副総隊長は、今日も未完の物語を封印する 苺姫木苺 @ichigohimekiichigo

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