エピローグ:日常という檻
レースのカーテン越しに差し込む朝日が、まなのドレスの袖を透かす。
白を基調としたキッチンでは、クロワッサンの甘い香りと紅茶の湯気が漂っていた。
(また今日も、レースのブラウス着せられて、紅茶飲んで、午後は撮影会……)
けれど、まなの口元は、どこか緩んでいた。
「いただきます」
朝食を囲むテーブルには、完璧な髪型のつばき、エプロン姿のなつき、そしてロリィタ姿のまな。
毎日が同じ。
ロリィタを着て、撮影され、笑って、紅茶を飲んで、眠る。
(たぶん、普通の人間やったら、逃げ出したくなる日々なんやろな)
それでもまなは、ゆったりとティーカップを口元へ運びながら、ぽつりと呟いた。
「うち、この日々に……恋してもうたんやと思う」
その言葉に、キッチンで皿を拭いていたなつきの手が止まる。
つばきも、カップを置いて、まなの目を見つめる。
「わたしたちもよ」
「……同じ気持ち」
言葉は、風に乗って、空間に溶けた。
(ああ、もう逃げられへんわ。……でも、それでええねん)
その晩。
灯りの落ちた寝室には、レースとリボンの重なるナイトドレスが、三人分並んで揺れていた。
真ん中にまな。両側に、つばきとなつき。
手を重ねるわけでも、抱き寄せるわけでもない。ただ、ほんの少しだけ肌が触れ合う距離。
(お母ちゃん……)
まなの瞼が、静かに降りていく。
(うちは、あの飲み会で人生間違えた。でもな――)
(その間違いが、最高やったんやと思う)
柔らかなシーツに包まれて、まなは眠りに落ちた。
もう誰も逃げない。
ただ、今日も明日も、その先も――
彼女たちは、ここにいるだけ。
レースに縁取られた、幸福の檻のなかで。
(おしまい)
『お酒は飲んでも着せ替えられるな!』 鈑金屋 @Bankin_ya
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