第8話 魔力蟲と聖なる龍。
悪龍は炎を吐き続けた。
水蒸気で二人の姿は見えなかったが、下に向かって炎を吐き続ける。
ボートは波に揺られ、水蒸気から魔晶石に守られなんとか二人は生きながらえていた。
突然、ボートが大きく揺れ一点に向かって円を描くように動き始めた。水が勢いよく波打ち動く。
どうやら悪龍の炎が湖の底を壊し、下の空洞とつながってしまったようだ。勢いよく水が地下に流れ落ちて行く。
「このままじゃ、ボート共々地下に吸い込まれる。」
吸い込まれればボートは粉々に壊れ、自分達も無事ではいられない。
(水の中に飛び込むか? だが、それでも同じか。)
「水の中に飛び込みましょう。きっと、結界が守ってくれます。」
ウランの言葉にアトムは頷く。
意を決して、アトムはウランを抱え湖に飛び込んだ。
丸く二人を守る結界のまま、底への穴へと流れ続ける。
ガッン、と流れに抵抗して結界の二人は止まった。
「 ? 」
不思議にアトムが見ると、ウランが聖女の杖を湖の底に突き立てていた。聖女の杖が、水の流れに逆らってその場を維持していた。
「便利だな、それ!! 」
アトムは、つい突っ込んだ。
だが、水が全て地下に流れ落ちると二人の姿はあらわになる。
ばっさばっさ、と飛ぶ悪龍の前に鎮座するように姿を表した。
血走った悪龍の目が、二人を見下ろしている。
「あ、終わったな。」
「ですね。」
いくら頑張っても魔晶石が、悪龍の炎に勝てるわけはなく。
二人は今度こそ死を覚悟した。
「もうさっさと終わらしてくれ。」
「ですね。」
もう二人は投げやりである。
二人は目を瞑って最後を待った。
どさり、音と地響きが耳と体に響く。寄り添っていた二人は片目を開けてそっと音のした方を見る。
其処には悪龍が、地面に落ちていた。
「なんだ? 」
「見てください、あれ!! 」
アトムが不思議そうに悪龍を見ていると、ウランが杖を悪龍に向けた。
「翼が…… 」
「結晶化している? 」
ウランの言葉にアトムが翼に目を向けると、翼の付け根が結晶化していた。いや、落ち着いて見てみると所々体の一部が結晶化している。
「どう言うことだ? 」
「まさか…… 魔力蟲。」
魔力蟲の幼体は生物に寄生する。
「まじか? 龍にも寄生できるのか。」
「いえ、違います。寄生されたから、龍になったのでは。」
魔力蟲は、大気中の魔力を取り込み宿主に高い魔力と不死に近い生命力を与える。
「あの鼠と同じ、魔力を取り込んでトカゲが龍になった? 」
「鼠は魔力蟲に寄生されてません。魔力にあてられただけです。」
「そこは、冷静に応えるなよ。」
のたうつ悪龍の前で、二人は会話を続ける。
「宿主の体内で成体になった魔力蟲は、宿主の肉体に卵を植え付け羽化する。」
「ちょうど、その時だと言うのか? 」
アトムは悪龍を見る。
「高濃度の魔力を獲得した宿主の肉体は、分泌液によって変質し徐々に結晶となる。」
「それは…… 」
動いていた体が、徐々に動かなくなるその苦しみはいかなるものか。アトムは悪龍を見た。
『ぐおおおぉぉ…… 』
悪龍が咆哮をあげた。
既に炎は出ず、ばったんばったんと転げ回る悪龍。
「苦しいのか? 苦しいよな…… 」
「アトム…… 」
アトムは剣を持って悪龍に近づいた。
「今、とどめを刺してやる。」
アトムは思いっきり、剣を悪龍の心臓に突き刺した。
だがとどかない。
「くそっ!! 」
なんとか力を入れるが、分厚い筋肉によってなかなか心臓に剣がとどかない。
悪龍はじっとそれを見ていた。
『ぐおおおぉぉ…… 』
悪龍は尻尾を少し動かす、アトムに退けと言うように。
アトムは尻尾に阻かれ、悪龍から距離を取った。
悪龍は大きく尻尾を振って剣にあてた。剣はパキンと折れて柄の部分が天高く弾け飛んだ。
もう一度、悪龍は尻尾を折れた剣にあてた。
折れ剣先は悪龍の心臓を貫いた。
悪龍は静かに目を閉じて、亡くなった。
ピシリピシリ、と悪龍が結晶化し続ける。うっすらと手の平の大きさの羽のある蟲が姿を表す。
幻想的で恐ろしい光景を、ただ黙って二人は見つめていた。
ピシッと、湖の底だった大地が悪龍の重さに耐えかねて崩れだす。
二人は悪龍から距離を取った。
ゆっくりと悪龍は、湖の底に開いた穴へと落ちて行った。
「王都には戻らないのですか? 今なら英雄になれますよ。」
ガタゴトと幌馬車に乗って、御者台に座るアトムにウランは話かける。
あの後村の外でウロウロとしていた馬を見つけ、無事だった幌馬車につなげ村を後にした二人。
「戻るか!! 『英雄』にされたら、無理難題を押し付けられるに決まってる。それに、悪龍を倒したわけじゃないしな…… 」
アトムは前を見据える。
「お前は戻らないのか? 聖女として称えられるぞ。」
「いやです。無理難題を押し付けられるに決まってるじゃないですか。」
「逃げるか。」
「逃げましょう。」
二人は目を合わせて、笑い声をあげた。
今度は南に向かって。
先史時代後期。
地下深くに眠る魔力結晶が発掘されるようになり、魔力源として活用されるようになる。
人類の伝承上に存在する龍の姿に似た化石とともに発掘される魔力結晶、遙か深い地中に眠る巨大な龍の骨を彼らは聖龍と名付けた。
大量の魔力結晶によって形を成していたその龍はかつて、悪龍を滅ぼした聖なる龍の名を授かるに相応しい神々しさを放っていた。
【完】
亡神の箱庭【悪龍討伐】 ❄️冬は つとめて @neco2an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます