洞窟ゲーム
きと
洞窟の光*
2011年、秋の静かな夜。窓の外で秋風がそよぐ中、17歳の悠斗はパソコンに向かっていた。画面に映るのは、彼が最近夢中になっているゲーム「洞窟ゲーム」。ドット絵の素朴な魅力と心を掴む物語に、悠斗はすっかり虜になっていた。幾多の試練を乗り越え、初めてのクリアで迎えたのは「ノーマルエンディング」。達成感はあったが、ネットの噂で耳にした「トゥルーエンディング」の存在が彼の心をかき立てた。そこには、もっと深い物語が待っているという。
翌年、3DS版「洞窟ゲーム」が配信された。新たに追加された難易度選択機能に心躍らせ、悠斗は「簡単モード」を選んだ。初心者向けとはいえ、ゲームの魂はそのままだった。敵の動き、アイテムの配置、物語の重厚さ――すべてが彼を魅了した。そして、初めてトゥルーエンディングに到達した瞬間、悠斗の心は震えた。主人公と仲間たちが希望を掴む姿に、思わず涙がこぼれた。「これだ。この感動のためにゲームをやってるんだ」と、彼は確信した。
簡単モードでの成功は、悠斗に新たな挑戦を突きつけた。難易度選択のないパソコン版で、トゥルーエンディングを達成すること。3DSでの経験を活かし、彼は再び「洞窟ゲーム」を起動した。だが、オリジナル版の難易度は容赦なかった。一瞬のミスが命取りとなり、何度もゲームオーバー画面を見つめた。苛立ちでキーボードを叩きそうになった夜もあった。それでも、悠斗は諦めなかった。簡単モードで培った技術と、物語への愛が彼を支えた。
数週間の試行錯誤の末、ついにパソコン版でトゥルーエンディングを達成。エンドロールが流れる中、悠斗は深い満足感に浸った。だが、彼の冒険はまだ終わらなかった。トゥルーエンディング後に解放される「タイムアタックモード」が、新たな挑戦として彼を待っていた。目標は、2分台でのクリア。ネットの猛者たちが語る記録に、悠斗も挑みたかった。
タイムアタックは想像以上の試練だった。1秒の遅れが致命的で、完璧な操作が求められた。最初の数週間は3分を切るのもやっとだった。2分30秒台に到達したものの、2分台の壁は高かった。ある夜、連続で失敗した悠斗は椅子に崩れ落ちた。「もう無理だ」と呟き、諦めかけたその時、ゲームの主人公の言葉が脳裏に響いた。「どんな闇も、進み続ければ光が見える」。その言葉が、悠斗を再び奮い立たせた。
それからの日々は、ひたすら練習に明け暮れた。学校から帰るとすぐにパソコンに向かい、指が痛むまでキーボードを叩いた。敵のパターンを暗記し、動きを最適化し、失敗を糧にした。友達に「そんなに頑張って何になるの?」と笑われても、悠斗は意に介さなかった。これは彼だけの戦いだった。ゲームの主人公と同じように、どんな壁も乗り越えると誓ったのだ。
そして、2012年の春。桜が舞う夕暮れ時、悠斗はついに完璧なプレイを完成させた。敵の攻撃を紙一重でかわし、アイテムを最速で取得し、ゴールへと突き進んだ。画面に表示されたタイムは「2:58」。2分台。部屋に響いたのは、悠斗の歓喜の叫び声だった。両手を高く掲げ、モニターを見つめる彼の目には涙が光っていた。それは、単なるゲームの記録ではなかった。自分を信じ、諦めずに挑み続けた証だった。
その夜、悠斗は窓を開け、夜空を見上げた。星々が瞬く中、彼は静かに微笑んだ。「洞窟ゲーム」が教えてくれたのは、どんな困難も、諦めなければ超えられるということだった。ゲームを閉じ、明日への一歩を踏み出す悠斗の心には、新たな光が灯っていた。
(完)
洞窟ゲーム きと @KITOAVGAK
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。